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読書「ローラ・フェイとの最後の会話」トーマス・H・クック  2011年刊

2020-12-16 21:00:02 | 読書
 「それじゃ、ルーク、人生の最終的で最大の希望は何なの?」別れた妻ジュリアが言った言葉を思い出すマーチン・ルーカス(ルーク)・ペイジ。今はその答えが見つからない。

 ルークは、ハーバード大学を出て歴史学者として講演のために、セントルイスの西部博物館に来ていた。そこでちらりと目にしたのは、同郷出身のローラ・フェイ・ギルロイの姿だった。
 この二人が生まれ育ったのは、アラバマ州グレンヴィル(古いランドマクナリーの地図を見ても、Greenvilleがあるがグレンヴィルはない。著者架空の街か)というさびれた街。

 ジュリアから「あなたはエディプス・コンプレックスの塊ね」といわれたように、思春期のルークは父親を嫌悪していて、母親を女神のようにあがめていた。その一つの要因に父とローラ・フェイとの不倫がある。

 ちなみにエディプス・コンプレックスとは、フロイトの精神分析の用語で男子が母親に性愛感情をいだき,父親に嫉妬する無意識の葛藤感情といわれる(ブリタニカ百科事典より)。

 もう中年になったローラ・フェイが目の前にいる。ルークの泊まるホテルのラウンジで延々と始まる二人の会話。早川ポケット・ミステリー二段組み346頁にわたってルークの父の欠点をあげつらい、母の聡明な女性像をたたえていた。それがローラ・フェイとの会話から、父とローラ・フェイの不倫がなかったことなど、枯葉が一枚一枚舞い落ちるようにルークの思い込みが剥がされてゆく。

 大まかに言って人の一生は、生から死へと駆け抜けるものといえる。さらに大まかに言って、一人一人の人生に大きな違いはない。一部の特別の人を除いて。

 思春期の男の子は父親と対立し、女の子は母親と対立する。やがて成長し対立する子供を儲ける。そしてなんと人は、自己本位なのか。ルークも毛嫌いする父親が殺された後、多発性硬化症の母親を見殺しにする。それもハーバードへ入学したいがために。

 ローラ・フェイに全てを打ち明けて長い会話が終わった時、人生の最終的で最大の希望は、生きているうちにいつか、自分が犯したすべての誤りが、ふいにやるべき正しいことを教えてくれるかもしれないということに行きつく。

 この作家の独特の比喩が散りばめられ、刑事や私立探偵やギャングの出てこない会話だけのミステリーにほぼほろ酔いになる。やたらに映画を喩えにするローラ・フェイは、典型的なアメリカ人なのだ。

 ルークの別れた妻ジュリアのお気に入りの曲は、カントリー・ミュージック歌手ボニー・レイットの「I can't make you love me」で、これも典型的アメリカ人。いっときのルークとジュリアの様子といえる。というのはエンディングでこの二人は仲良くなっているから。

 歌詞は下記の通り。(あるサイトからのコピペ)グレンヴィルは西部の街。このスローバラードの雰囲気は、酒場で恋人たちが寄り添って踊っているシーンを連想する。
Turn down the lights   灯りを 落として
turn down the bed   ベッドを 折り返し 
Turn down these voices   声を 静めるの
Inside my head   私の 頭の中の(声を)
Lay down with me   一緒に 横になって
Tell me no lies   嘘はつかないで
Just hold me close   ただ 私を抱きしめて
Don't patronize -   恩着せがましくしないで
Don't patronize me   私を見下したりしないで
'Cause I can't make you love me   だって私は あなたに愛されることができないから 
If you don't   あなたが 愛していないのなら
You can't make your heart feel   あなたの心が 感じることができない
Something it won't   そうできない 何かを
Here in the dark   この 暗闇の中で
In these final hours   この 最後の時に
I will lay down my heart   私は 自分の心を決めるの
And I'll feel the power   私は その力を感じるの
But you won't   でも あなたはそうじゃない
No you won't   あなたは 違うのね

'Cause I can't make you love me   だって私は あなたに愛されることができないから
If you don't   あなたが 愛していないのなら


I'll close my eyes   私の 瞳を閉じれば
Then I won't see   何も見ないでいられるでしょう
The love you don't feel   愛情を あなたは感じていない
When you're holding me   あなたが私を 抱きしめる時に
Morning will come    朝が来たなら
And I'll do what's right   私は しっかりするから
Just give me till then   ただ その時までに
To give up this fight   この争いを やめにしましょう
And I will give up this fight   私はこの争いを 放棄するから

'Cause I can't make you love me    だって私は あなたに愛されることができないから
If you don't   あなたが 愛していないのなら
You can't make your heart feel   あなたの心が 感じることのできない
Something it won't   そうできない 何かを
Here in the dark   この 暗闇の中で
In these final hours   この 最後の時に
I will lay down my heart   私は 自分の心を決めるの
And I'll feel the power   私は その力を感じるの
But you won't   でも あなたはそうじゃない
No you won't   あなたは 違うのね

'Cause I can't make you love me   だって私は あなたに愛されることなどできないから
If you don't   あなたが 愛していないのなら
典型的なホワイト・アメリカンの物語だった。
あまり馴染みがないでしょうが、ボニー・レイットを聴いてください。
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