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読書「偽りの銃弾FOOL ME ONCE」ハーラン・コーベン 2018年刊

2020-12-29 10:58:18 | 読書
 このミステリーは、最終章の第三十四章が私にとって白眉なのだ。感情移入すると涙が滲んでくること間違いない。

 マヤ・スターンは、失意のどん底にいた。殺された夫ジョーの葬儀で憔悴した姿で立っていた。その時、マヤの心はここまでに至ったジョーの背景を明らかにする決心をしていた。
 二歳のリリーを抱えるシングルマザーとなったマヤ、一人の女性が問題を明らかにできるのか。

 ストーリーは複雑に絡み合って展開する。ジョーとマヤが知り合うきっかけとなったのは、大富豪バーケット家の慈善パーティでだった。陸軍大尉として正装で出席していたマヤ。バーケット家の長男ジョーが「ワオ。軍服姿がセクシーなのは男の方だと思っていたよ」と声をかけたのがキッカケだった。そんな思い出が脳裏をよぎる。
 調査を進めるうちにバーケット家の闇とジョーの意外な人間像が明らかになり、マヤがどう関わったのか驚愕の結末をみる。

 この作家は、人物の服装や容姿にあまり触れず、とびきりのハンサムとジョーを表現し、身長180センチとマヤに触れる程度なのだ。多くのアメリカの作家は、主要な登場人物について髪の毛の色、目の色、身長や体つき、その日の服装を事細かに表現する。また、場所や固有名詞を実名を使う。

 例えば「夏の午前6時、エリザベスはスマホの時刻設定にしてあるハワイアン「小さな竹の橋」で叩き起こされた。隣に寝るボブはすでに起きていた。Tシャツと短パンで階下のキッチンに降りていくと、ボブが朝食の準備をしていた。
 ボブは白いワイシャツにスカイブルーとグレイのストライブのネクタイと濃紺のパンツ、その上に黒いエプロンをしていた。いつでも出勤できる態勢だ。エリザベスにチークキスをしながらいつもボブは思う。いつ見てもエリザベスは、黒髪に深いブルーの瞳、ピンクの肌、笑うと真っ白い歯が誘っているような42歳のリッチモンドの市民病院に勤務する外科医。心から嬉しくなる」まあこんな具合かな。

 ただ音楽について何度か触れている。マヤがフリーウェイを走るときに聴く音楽の一つにソウル系デュオ、ライの「オープン」がある。
 歌いだしの歌詞は非常に官能的で濃厚だ。「あなたが腿を震わせるのがたまらない」が、その少し後のフレーズでは、余韻の中で二人の温度差が広がっていくのが感じられる。「あなたの熱は冷めかけている。でも、待って、目を閉じないで」と著者は言う。

 著者ハーラン・コーベンは、1962年ニュージャージー州に生まれ、95年から続くマイロン・ボライター・シリーズでエドガー賞、シェイマス賞、アンソニー賞を受賞し、三賞を受賞した初の作家となる。2001年「唇を閉ざせ」を始め、近著八作はすべてニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストで初登場一位を記録。作品は世界で6千万部以上を売り上げている。(本書著者紹介より)では、その「オープン」をどうぞ!
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