人の成長ほど予測のつかないものはない。十代の頃は、内気でおずおずと人との会話もままならない少年が、なんとギャングの親玉になり重罪犯の刑務所の住人になるとは。カリフォルニア州の保安官補であったマット・ストロームソーの幼馴染マイク・タバレスは、その見本のような男だった。
高校時代、ストロームソーとタバレスは、マーチングバンドで仲良く過ごした友人だった。メキシコ系の貧しい家庭出身のタバレスには、明晰な頭脳に恵まれていた。そのタバレスは、ハーヴァード大に進学した。ハーヴァード大に進学すれば最高経営責任者か弁護士あるいは検事から判事へというあたりを目指すが、タバレスの選択は違っていた。
誤解から起きた愛人の死が、ストロームソーのせいだと決めつけたタバレスは、爆発物でストロームソー殺害を企てたが、彼の妻と息子が身代わりとなった。これが契機となって二人の友情は冷め憎しみが取って代わった。
物語のエンディングは、脱獄したタバレスとストロームソーの対決になり、ストロームソーの放ったショットガンの銃弾にタバレスは斃れる。この辺は、エンディングを急いだようで、緊迫感やかつて友人だった二人の男の決闘にしてはロマンが足りない気がする。
むしろサイド・ストーリーの、フランキーとストロームソーのラヴ・ストーリーが内省的な静謐さをたたえていて印象的だった。
そのフランキーが住んでいるフォールブルックは、T・ジェファーソン・パーカーの住処のようだ。地図では何の変哲もない記号にすぎない地名だが、ガイドブックを見るのもいいが作家自ら案内してくれる。
少し引用してみよう。“フォールブルックはサンディエゴ市から50マイル北の小さな町で、海とはペンドルトン基地をはさんで12マイル離れている。ストロームソーがその町へ行くのは初めてだった。オーシャンサイドからの道は曲がりくねり、行き交う車は少なかった。
道の両側にはアボカドやオレンジの果樹園、色とりどりの花が波のようにうねりながら続く花畑が広がっていた。棚囲いの中で馬が草をはみ、家々は丘の上にあるか、うっそうと茂る緑樹に埋もれていた。
アンティークショップ、飼料と馬具の小売店、カプチーノのドライブスルーの前を通り過ぎた。林の向こうにテニスコートが見え、赤いタイル屋根の家が建つ斜面には、明らかに手づくりとわかるゴルフのミニコースが設けられていた。
オークの木立の薄暗いトンネルを通り抜けると、何千羽ものオレンジ色の蝶が青い空を埋め尽くすように飛んでいた。エメラルド色の放牧地を通りかかるとラマの群れがいっせいに非難がましい目を向け、最近買った中古トラックの窓を開けると車内に花の香りが漂った”
観光ガイドブックからは決して読み取れない部分が、ミステリー本から得られるのはうれしい限りだ。いつ行くかわからない旅行計画だとしても。
T・ジェファーソン・パーカーのホームページから
パーカー一家の写真をコピー
左から父親のロバート、パーカー本人、息子のトミー、
妻のリタ、継母のクローディア
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