本作が上梓されたのが1986年。1頁を割いて次のような前ぶれがある。 『本書を読まれる前に「判事スペンサー異議あり」はフィクションだが、現実離れした作り話ではない。本書に登場する新しい理論や運動、社会慣習は、いずれも現在わが国の裁判所及び立法府で真剣に検討されているものばかりである』
女性の地位向上をいわゆる知識人とやらが声高な時代、連邦地方裁判所の判事スペンサーの抱える同一労働同一賃金訴訟と老判事スペンサーを引退させようと画策する判事連中の悪だくみに痛快な反撃を試みるという物語。
ユーモアと意地悪爺さん的側面も持つスペンサー判事の法律家としての矜持を見事に描いた作品と言える。意地悪爺さん的側面はこんな具合。
『医者に行くためにエレベーターに乗った。ドアが閉まる直前に若い女が飛び込んできて、4階のボタンを押した。スペンサー判事は反射的に帽子をとった。少年時代からの身についた習慣だった。若い女は判事をじろりと見て苦笑した。
「ご丁寧なことですわね」
「何かお気にさわりましたかな?」
「保護者ぶった態度をおとりになる必要はありませんのよ」
「私はただ……」
相手は判事の弁解には耳をかそうともしなかった。「わかってます。礼儀のおつもりなんでしょう? でも、実際のところは侮辱ですわ。つまり、あなたの古い考えでは、女性は劣等な人間で、丁重な態度という仮面に軽蔑を隠して扱わなければならない。あなたはそれを確認しているだけなのよ」言うだけのことを言うと、若い女は自分に関する限り、話はこれでおしまいと言わんばかりの態度をとった。
スペンサー判事はこの猛攻撃に臆した様子を見せず、にこやかに笑いかけた。「お嬢さん、あなたが気に入りましたよ」そして、秘密を打ち明けようとするかのように、もっと近づくよう手招きした。
「あなたのような方を探していたんです。マーサと二人でね。マーサというのは家内ですよ。魅力的でスタイルのいい若いご婦人で、何よりも、進歩的な考え方ができること、そういう人がいないものか、とね。というのは、私ども夫婦は以前から、その、なんというか新しいセックス観を持っておりましてね。グループセックスのことを本で読んだり聞いたりして、ひとつわれわれもと……。もし興味がおありなら、手配させていただきますが。最初はマーサとわたしとあなただけで。勿論、うまくいくようでしたら、あなたの方でどなたか誘ってくださってもいいんですよ。男性、女性を問わず……」
若い女の顔に浮かんだ唖然とした表情がやがて怒りに変わるのをスペンサー判事は満足げに見守っていた。エレベーターのドアが開いて、女は逃げるように廊下に出た。急ぎ足で去っていく女の背に「お電話番号を教えていただいていませんよ。マーサがさぞがっかりするでしょうな」
6階の医師のドアを開けたときも、スペンサー判事は小気味よさそうな笑みをたたえていた』
こういうことをやってみたいと思うのは、老化の深まりだろうか?
1986年の音楽シーンでどんな曲がヒットしたのか、1985年に発売されヒットした「ウィ・アー・ザ・ワールドWe are the World」が第28回グラミー賞(1986年2月25日)から年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞に選ばれた。懐かしい曲ですね。では、その曲をどうぞ!
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