フランスのミステリー。二人の特異な登場人物が織りなすフランスの大学町で起こる殺人事件が、悲劇的な結末を迎えるという物語である。
登場人物の一人、司法警察の警視正ピエール・ニエマンス。孤独な四年間を寄宿学校で過ごしながら、士官学校を目指して肉体の鍛錬にも時間を費やした。ところが徴兵検査で軍医から入隊はムリだと告げられる。
著者の言によれば、心に巣くう苦悩の影が精神科医の軍医によって明らかにされ、心理テストの内容を必死に勉強して警察官となった。カンヌ=エクリューズ警察学校に入学すると、怒涛の時が始まった。射撃訓練では素晴らしい成績をおさめた。自らを鍛え上げるためにたゆまぬ努力をし、類まれな警察官になった。頑固で、暴力的で、手のつけられない警官に。
そして、その容貌は、骨ばって皺のよった顔。短く刈った、光沢のある白髪交じりの髪。丸いメタルフレームの眼鏡をかけた男なのだ。
もう一人は、カリム・アブドウフ警部。捨て子で孤児として育った。孤児院のあるナンテールという町。安普請の家や住民の顔に刻まれた深い皺、この町を覆いつくす貧困などカリムには驚くにあたらなかった。しかもこの町は、暴力的で死の臭いを発していることにも気づいた。
カリムは生きるために車や車の部品のカーラジオなどの盗みが日常となった。
この暴力的で退廃した地区にも友人がいた。ホームレスでリストの「ハンガリー狂詩曲」を聴きブレーズ・サンドラール(詩人)を読む男マルセルなのだ。そのマルセルから人生の指針を与えられ、高校に入り大学は法学部を選択した。兵役を経てカンヌ=エクリューズ警察学校に入り警官を目指した。
アラブ系のカリムは、スウェット・シャツ、ジーンズ、フードのついたジョギングトレーナー。その上に茶色い革のジャケットを羽織る。顔は、編んだ髪が額の両側にぱらりと下がり、ただでさえ細面で山羊髭のせいでいっそう削げて暗く見える。色とりどりの毛糸で編んだジャマイカ風の帽子を被っている、鏡に映った自分を見てカリムは呟く「まるで悪魔だ」
ピエール・ニエマンス警視正が追うのは、グルノーブルに近いゲルノンという大学町で起こった殺人事件だ。被害者は、ゲルノン大学で図書館の主任司書をしていたレミー・カイヨワ年齢25歳、男である。死体はごつごつとした岩が重なる15メートル程上の岩に挟まれ胎児の格好で発見された。
第1発見者は、ファニー・フェレイラ、ゲルノン大学の地質学の教授。捜査の手順としては、被害者の周辺調査と第1発見者から詳細な事実を聞く必要がある。
ニエマンスが大学に向かった。ファニー・フェレイラは、25歳の美貌の人。このファニー・フェレイラに、密かに欲情していくニエマンスだった。
ロット県の町サルザックで仕事をしているカリム・アブドウフ警部が引き受けた事件は、ジャン=ジョスレ小学校に空き巣が入り何も盗らないという事件から端を発し墓荒らしの件なのだ。
一見、何の関係もない殺人事件と空き巣・墓荒らし事件がやがて交錯し1本に纏まった時、フェレイラにカッターナイフで切り付けられ重傷のニエマンス、生きたまま逮捕しようとしたニエマンスもフェレイラの意図、「私は死を選ぶ、邪魔しないで!」
理解したニエマンスは、ともに旅立とうと銃弾がフェレイラを貫いた。抱き合い死の口づけのままクリムゾン・リバーは二人を呑み込んだ。
ちりばめられた好ましい比喩と困難な捜査の合間に見せる規格外の警察官に時間を忘れる。殺人犯が最愛の人だったら、あなたはどうしますか? と問われている気がする。
著者のジャン=クリストフ・グランジェ(Jean-Christophe Grangé, 1961年7月16日 - )は、フランスの小説家、脚本家、漫画原作者、独立系ジャーナリスト。その作風から、「フランスのスティーヴン・キング」の異名をとるとウィキペディアにある。
それではカリムの友人マルセルが聴くリストの「ハンガリー狂詩曲2番」をヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の演奏でどうぞ!