アメリカでは歩きやすい都市を評価するWalk Score( https://www.walkscore.com/cities-and-neighborhoods/ )があると知った。スプロールの郊外居住から、歩いて便利な都心居住回帰は世界的傾向だ。あわせて、車離れがある。本著は、データと提言がまとめられ知見に富む。ボストン北部の水力紡績発祥の地、Lowell( https://en.wikipedia.org/wiki/Lowell,_Massachusetts )が出てくるのが懐かしい。National Park Service( https://en.wikipedia.org/wiki/National_Park_Service )が産業遺産として、早くから保全している。89年に秋の最終運河ツアー(冬季は休み)に参加したのを覚えている。
・ウォーカビリティの一般理論:利便性、安全、快適、楽しい
・歩きたくなる都心部は運転しやすい郊外に比べ、NYでは3倍の住宅価格になる、オフィスの稼働率も安定
・ポートランドは道幅を狭くし、マストラ(公共交通機関)と自転車道に投資し独自の成長
・車通勤は23分が収入▲19%の相当にあたる「幸福感を減らす最も嫌いなこと」。「人と親密な付き合い」、「仕事後の付き合い」が最も好きなこと、パットナムは10分通勤時間が増えると、地域社会の関与(Social Capital)が10%減るとの試算も→本当か?
ウォーカビリティの10のステップ
1.車を適切に受け入れる
・ハイウエイ建設と不動産価格の間に相関はない
・誘発需要:道路を広げると、渋滞が減り通行量が増える車線幅が10%増えると、走行距離が4%増え、数年後には交通量が新たに10%上昇する
・渋滞は燃料と時間(1,600時間/年)の無駄(予算の28%が交通関係)、渋滞課金は効果があるが、代替に逃げるケースも
・減少需要:NYのウエストサイド、SFのエンバカデロの高速道路撤去は交通量を減少させ跡地のモール利用が進んだ、ソウル清渓川高速、シアトルnアラスカン・ハイウエイ撤去は景観の向上と資産価値の増加、騒音の排除となった
2.用途を混在
・1900年のNYは工場と長屋、汚染と伝染病、ゾーニング制定に(居住と工業地区の分離など)→この頃のNYは映画や縫製の都市であった
・Lowellの再生:政治(アーティスト住宅の供給)、許可(特例、付置義務駐車場として代替に市営駐車場の活用)、誘導(歴史保存、コミュニティ再生の補助金)
・都心部コミュニティの多様化:Affordable Housingは増えすぎ。そのためインクルージョナリー・ゾーニング( Inclusionary zoning https://en.wikipedia.org/wiki/Inclusionary_zoning )、グラニー・フラット( https://www.thespruce.com/what-is-a-granny-flat-1695933 )が有望
・オフィスも都心志向、補助金で本社を作っても出ていくケースも多い→定着には何が必要か
3.駐車場を正しく確保
・駐車場も需要誘発、(無料)駐車場依存と付置義務駐車場過多ができる、また無料の路上駐車探しに時間をかけて探す無駄が出る
・納得できる利便性と適正な価格負担の仕組みが必要
4.公共交通を機能させる
・マストラ利用の大体半分の割合が徒歩で移動
・マストラ投資は不動産価値も上昇、DARTの郊外はPark & Ride、都心の駅周辺は歩行のしづらい環境ため失敗、路線の両端にウォーカビリティが必要
・ストリート・カー(「路面電車」と訳した方が良い:https://en.wikipedia.org/wiki/Streetcar_(disambiguation) )の成功は路線の不動産価値上昇効果があり、利益を得る団体からの投資負担により新しい都心は作る、旧来の都心との連携が必要
5.歩行者を守る
・街区が小さいほど安全( https://www.researchgate.net/publication/43221307_Street_Network_Types_and_Road_Safety_A_Study_of_24_California_Cities )しかしこれはカリフォルニアの事例であり普遍化はどうだろうか→反証として、京都は40丈(120m)だが、大阪船場は40間(75m)だ。しかし、京都は一時停止と20km制限があり、船場よりよほど安心して歩ける。逆に「大阪ナンバー」は京都で運転が荒いと感じる。幅員も船場の3間と4間なら、京都の細街路と違いはあまりない。街区の大きさ(量)と共に交通規制、幹線・細街路道路幅・規制などの要素を考える必要がある。
・ロード・ダイエット(4車線のうち1車線を減らし、2車線と左折用のレーンにする)は、事故の減床と交通量も変化なし、1車線は歩道や自転車道に転用可
・リスクホメオスタシス( Risk homeostasis https://en.wikipedia.org/wiki/Risk_compensation#Risk_homeostasis )安全装置が無謀を呼ぶという理論
・ネイキッド・ストリート( Naked street https://imidas.jp/america/detail/B-14-A-027-17.html )なにもないと運転は注意する
・シェアード・スペース( Shared space https://en.wikipedia.org/wiki/Shared_space )縁石の撤廃など心理的分離
・一歩通行は街の賑わいのバイアスになり、通過交通を増やし、回り道が多くなる
6.自転車を歓迎
・オランダ、デンマーク、アメリカではポートランドが先進、車道を自転車道化、最も効率的かつエコな移動方法
・自転車は危険なためヘルメットが効果的、自転車道の多様なありかたは線だけ・自転車専用道・シャロー(自動車と自転車の共存)など多様
7.歩行者空間の形成
・建築の「形態」と、そのあまりの「空間」があり、「空間」や建築の足元が空虚にならないのが肝要 Towers in the Park ( https://en.wikipedia.org/wiki/Towers_in_the_park )は最低:事例 Pruitt–Igoe( https://en.wikipedia.org/wiki/Pruitt%E2%80%93Igoe )
広い敷地とタワーの組み合わせは歩いて楽しくない→ボストンのPrudential Center( https://en.wikipedia.org/wiki/Prudential_Center_(shopping_mall) )など初期の面的再開発は分棟かつ歩くモールがあり、周辺の街との親和性があった(さらにリニューアルされた)
・歩く視線の高さから見た「小さな」スケールの空間を作る
8.植樹
・トロントでは街路樹があると交通事故が5~20%減少
・木の育成には住民参加を、混植より同じ木の並木を
9.街並みの親しみやすさ、ユニークさ
・エッジ効果→誤訳 Soft Edge(柔らかなエッジ)と原著にある( https://umranica.wikido.xyz/repo/7/75/Cities_For_People_-_Jan_Gehl.pdf P88)Edge Effect https://en.wikipedia.org/wiki/Edge_effects は生物学用語で誤用だ。 確かに「端」を好むのは電車でもあるが、寄りかかりたい欲求というべきもので、Soft Edgeを求めている事例だ。
・スマート・コード(Smart Code https://transect.org/codes.html )→街並みのデザイン・ガイドはドイツのBプランやボストンのデザイン・コードなどで数十年前からあったと思うが
・大きく単純な壁面の建築は横を歩いて楽しくない
10.リソースの優先順位
・アーバン・トリアージ:有望な地区を優先、数ブロックの整備で効果が出る、分散でなく集中させる
本著は役に立つ。交通についてちょっと詳しくなれる。
米文和訳は複数が担当しているが、分かりにくい箇所や誤訳もある。英文併記の方が良いと思う。個人的には、ジェントリフィケーションよりGentrificationが馴染む。アフォーダブル住宅( Affordable Housing https://en.wikipedia.org/wiki/Affordable_housing )も、低所得者向け(賃貸・分譲など)住宅の方が分かりやすい。