Saving Capitalismが原題。(当方なら「資本主義はこのままでいいのか」と訳すが)クリントン政権での労働長官を務めた、世を憂い、まともな資本主義への転換を提言する。訳に問題があり、下訳のままのような印象。原書を読んだ方が良いのかもしれない。
経済学での自由市場は効率的に運営されていると仮定されているが、実際は政治と規制、税制と還元、発言力などで、ずるに近いルールの改定があり金持ちはより金持ちに、その逆もという「隠された政治」により格差は拡大し、中間層は搾取されているという内容だ。
ライシュの方策である、政府を活動家型にし、富裕層の増税と教育機関などや貧困層に再配分するという内容は、資本主義的な社会主義またはロールズなどの正義に近く賛同できる。所得と富の公正な配分を考える政治経済そのものだ。
最近の世の中は利己主義(お金と出世)または自愛主義(耳にイヤホン、背中にリュック、目の前はスマホ)がはびこっているなかで本書は利他的で博愛を感じる素晴らしいものだ。
構成は:
The Free Market:自由市場での金持ちに都合の良いルール変更の事例
Freedom and Power:富裕層の影響力と政府による「市場構築の仕方」、5つの観点
①The New Property
・所有権保護の政治判断、パテント延長のずる、著作権の長期化
②The New Monopoly
・政治と企業の「回転ドア」、ロビイング、アマゾン・モンサントなどの市場寡占と影響力拡大
③The New Contracts
・議員活動によるローン金利の高騰容認、IT社員の引抜の企業相互監視という「包括的共謀」
④The New Bankruptcy
・倒産処理は債権債務者間のトレード・オフ、モラル・ハザード対応で懲罰も必要だがやりすぎはより暗い社会に(ドイツの債務がナチズムの引き金)、デトロイトの倒産とデトロイトから逃げ出した白人の多い近郊のオークランド群の発展:犠牲は分かち合えるか、義務をだれがどう償うのかに自由市場は対応していない。トランプのアトランティック・シティのカジノであるトランプ・プラザも今が退け時と倒産を自画自賛、コミュニティへの責任はない、破産法は大企業、金融、富裕層に都合よく変えられている
⑤The Enforcement Mechanism
・企業に都合の悪い堀津には予算を小さくし空洞化させる手法が多い
・先物市場は専門的で金融業界は儲かるが、消費者物価も高め中間層・貧困層からの搾取になる
・資本主義は「信用」に依存、大物たちが壮大なだまし方で逃げおおせると、経済を信用しなくなる
・企業と政治の付き合いにより経済支配力が政治権力を増大させ、政治権力がさらに経済支配を拡大させる
Work and Worth:労働の評価と報酬、中間層、ワーキング・プア
・ピケティ論文では資本利回りが維持されるとあるが、通常、富が蓄積されると収益逓減となる。アメリカでは富裕層は労働収入であること、市場のルールに対する大きな影響力を獲得している
・CEOの高額報酬は大企業の影響力拡大:フランチャイズなどでの縛り、大企業に有利な破産法
・CEOのストック・オプションで株価上昇もくてきの自社株買戻しやリストラ:規制しにくい
・大きい金融機関は倒産から保護、預金金利も低く収益拡大→規模の経済
・1980~90はリストラの時代、CEOの報酬と株価は上がるが、失業と賃金低下
・労働組合の減少と労働協約破棄のための倒産など労働者の交渉力低下
・格差拡大と貧困層の固定化、マンキュー「高所得の人たちをあげつらうのではなく、貧しい人たちをどうやって助けるのか」
・高級住宅地の公立学校は固定資産税により教育水準が高い、貧困学区への補助を言われても保護者財団を設立し寄付と税控除で支援
・寄付はエリートの文化活動の支援が多く、貧しい層の支援は三分の一もない
Countervailing Power:大企業や金融業界に対抗する労働者の力でガルブレイスが提唱
・拮抗勢力がないままなら資本主義は、中間層と貧困層が拮抗勢力として再生できるか、その方法は
・技術変革の時代には、好不況の循環、経済力と政治力が過度に一部に集中しやすい、いかさまも多い
・不公平な社会は全員が損する「マイナス・サム」、不信のため不正がはびこると購買力の減少と不安により需要が慢性的に不足→デフレに一因はこれだった!ねたみと不満と不安が消費を落とした。個人レベルでの他人との比較、そのストレスと生産性、精神状態の関連に似ている。
・CEOの給与と従業員の給与比較で企業税率を決める仕組みとし、教育財源は貧困層に厚くする方策を考え、地元の固定資産税依存を止める
・労働をルーティン・プロダクション(あまり考えない肉体労働的)、インパースン・サービス(対人対応、感情労働的)、シンボル・アナリティック・サービス(創造を目指す頭脳労働的)に分けて考える
一度、政治経済学を読込んでみよう
経済学において、消費者も間違っているという行動経済学があり、その反対に供給側に近い政治や企業にも政治経済学からみて陥穽があるというのは面白い。金融や財政政策が効かないのは「だまして、だまされる」サイクルの経験からだ。
近々。リーマン・ショックから10年にもなるから、金融危機の時期だ