大阪大学大学院を経て、ゼネコン、東大で博士(2002年)、東洋大学の教授。内容は、フランクで「負動産」など刺激的な言葉がある。しかし、内容は散漫でまとまりがない。恐らく経済学などビジネス・スクールの観点と実際の世の中の経済への理解が少ないためと思われる。よくできた、東洋経済の特集記事まとめのような内容だ。
観点は、①住宅需要と社会変化、②住宅供給とストック活用、③住宅の開発コントロール、④住民参加のコミュニティ形成 が挙げられ、この区分での再整理が望まれる。
また、都市計画区域( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%BD%E5%B8%82%E8%A8%88%E7%94%BB%E5%8C%BA%E5%9F%9F )の「非線引き区域」を問題視しているが、問題は、都市計画(国交省)の及ばない農地(農水省の管轄)での農地転用だ。この都市計画と農地の規制は縦横のマトリクスとなっているが、この観点が欠けている。なお、「日本農業への正しい絶望法(神門善久)」( http://blog.goo.ne.jp/n7yohshima/s/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%AD%A3%E3%81%97%E3%81%84%E7%B5%B6%E6%9C%9B%E6%B3%95 )は農地から見た開発管理の課題提起として参考になる。
また、都市の歴史の観点も不足している。人口増大(当時はこれが社会課題で移民まであった)による、都市の拡大、都市の公害による田園都市構想の進展があり、郊外開発と都市の滲み出しであるスプロールが発生した。また、自家用車の保有率が上がり、郊外生活を支えた。
それが、いまや人口減少に転じ、量から質へ、拡大(人口)から集中(密度)に向かっている。具体的には、コンパクト・シティを目指しジェイコブス的な街づくりに転換した、更に、インフラを含めストックの拡大ではなく再活用、積極的な市民参加と資産防衛が政策だ。(この内容のブレーク・ダウンが筆者の7つの方策提言になっている)
内容をまとめ直すと:
都市と住宅開発の歴史の俯瞰:
郊外都市からコンパクト・シティへのパラダイム・シフトと土地神話の崩壊と所有のリスクへ
・GDP、全総、開発(都市計画学会に住宅開発の歴史まとめがある)
以下の①と②、③と④を対照し、マトリクス構成がまとまり良いと考える:
①住宅需要と社会変化
・一戸建て志向、郊外が安いため買いたい、都心は高すぎるうえ、マンションしかない
・中古住宅は欠陥(レモン:情報の非対称性)が懸念され、新築志向
・相続税回避のため、借上げ賃貸住宅建設とタワー・マンション購入に
・高齢自動車運転の危険性
②住宅供給とストック活用
・売れるから作るディベロッパー
・人口を増やしたい自治体の開発放任
・農地の転用の進行
・ストック再利用の遅れ→京町屋などは再活用の兆し、リニューアルも
③住宅の開発コントロール
・自治体の開発欲求と都市計画での規制の限界と農地転用
・再開発地区計画など都市開発のボーナス容積
・大規模跡地など街がないエリアでの都心開発(都会での開発とはならない)
・相続税制(借入金で節約)、低利の住宅ローンでの住宅志向
・行き先のない低利資金が不動産へ向かう経済
④住民参加のコミュニティ形成
・開発負担のないフリー・ライダー開発→人口増だが、生活の質が低下
・投資余力のない自治体などを頼れない状況と高齢者増加による余裕時間の増加
・街の自治と資産防衛を目指したソフトからの再開発活動の着手
・街に必要な機能の育成と不要な機能の排除、街づくりのトレード・オフからの解放(工業と騒音・大気汚染など)
著作というより、社会面記事として活用できる