じゃがいも畑の隣りにひまわり畑があってね。
そのあいだのまがりくねった細い道をきみは歩いている。
きょろきょろと探しまわるが
探しものはいっこうに見つからないね。
最初からわかっていたことだけれど。
夢子というなんの変哲もないスナックのかたわらに
古びた円筒形のポストがあってね。
そこにけさ生まれたばかりの影がよりそっている。
きみはそれをカメラにおさめたあと 乞食のようななりをした
永劫の旅人とすれ違う。
クロヤマアリの黒い電車が生け垣のあいだを抜けてゆく。
道端にころがっていた空き缶を拾ったら
ぐあんぐあんと犬の遠吠えのような
路面電車の音のようなさび色の響きにつつまれる。
きみがさがしている過去なんてありはしなかったのだし。
さっきの旅人は種田山頭だとまだ信じているの?
ことわっておくけれど
きみにはたてがみはない ライオンでも馬でもないからね。
さあ あきらめて元いた場所へ戻るんだ。
集めたものを古物商にでも売り払って。
ここまでやってきて 書くことがないから
書くことがないと書く。
「淋しいなあ 淋しいねえ」と人がいっても
気にすることはない。
書くこと 書きたいことはとっくに尽きている。