二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

詩2編(ポエムNO.2-15 2-16)

2013年07月21日 | 俳句・短歌・詩集
風景さん(ポエムNO.2-15)


あんなに輝かしかった陽が翳って
もうずいぶん時間がたった。
だけど 夜はまだやってこない。
ぼくはさっきまで カミキリムシみたいに
葉っぱの裏側に止まって ずいぶん長いあいだ雨風をやりすごしていた
・・・ような気がする。

逃げ場なんてありはしないし
指先から破壊光線が発射できるわけでもない。
平凡なひとの平凡な人生。
オポチュニストは嫌いだな。
風見鶏はいいけど そういうタイプの人間には
ときおり 無性に腹がたつ。

なんて なんていい加減なんだろう?
ぼくは不器用だからのそのそ歩く。
鉄砲弾や弓矢が飛んできても すばやく身を翻すことができない。
朝は一杯か二杯のコーヒーにミルクをたっぷりそそいで
それから出発する。
だれにだって 通勤経路というのがあってね。
そこからそれて迂回するには それなりの決断が必要なのさ。

夜はもうすぐやってくる。
それまではしずかな ぼんやりとした夕景に身をさらしている。
ときおり訪問者がいる。
派手な衣装をまとった蝶や 武骨なカブト虫や
すいすいと空を飛ぶ生き物たちが。
「あんたもここへおいで。ほら こうすれば
空を舞うなんて簡単だから」

あんなに輝かしかった陽が翳って
もうずいぶん時間がたった。
ああ なんてキレイな今日の空!
そしてヒコーキ雲が 茜の空を真っ二つに切り裂いて
東の空へとぐんぐんのびていく。
そうさ 風景という無言の訪問者だっているんだ。
ぼくはあらためて挨拶したくなっている。
こんにちは 今日はじめて出会う すてきな風景さん。
もう二度とは出会えない風景さん!



青空のカケラ(ポエムNO.2-16)


たとえば夏のある夜。
ひびが入った小さな古い手鏡を拾いあげる。
巨大な岩と岩のあいだにはさまれて咲いている
高山植物の花のような夢の花弁の中から。
まだかすかに青春の香りが残っているヒイラギの森や
のたうちまわるように転々ところがる木彫りの熊や
深夜の農道に忽然と輝く虹の自動販売機
その他いろいろな景物が手鏡の向こうに映し出される。

きみやぼくがどんなに下らない人間だとしても
生まれてきてしまったということは取り返しがつかないだろう。
すべてはそこからはじまったのだから。
渇望にせき立てられてうろつき回る。
どこにでもありそうな淫祠に跪く。
現世の悲しみがどうの・・・と もっともらしくしゃべり散らしながら
不死にあこがれ財布の中身を気にしている。

きみもぼくもそういう俗物の一人にすぎない。
といってはいけないのだろうか?
ああ 空が抜けるように青いね。
滴る青に濡れている朝や
芝生に寝ころんで見上げた昨日の空
あさっての空 そのさきの空。
さあ もう一度立ち上がって歩きだそう。
きみがいたあの駐車場へ急ぎ引き返そう。

払ってもはらってもふるい落とすことができない
記憶の突堤のほうまで。
きみの瞳に映り込んだ青空のカケラ。
そこをアキアカネがついと横切って
ススキの穂先をこえて
ぼくはそのあとを野良犬みたいについて歩く。
青空のカケラがありえたかも知れない
もう一つの世界への入り口だといわぬばかりに輝いているかぎり。


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