二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

しゃべりしゃべる ほか短詩3編(ポエムNO.3-70)

2020年06月03日 | 俳句・短歌・詩集
   (手前はわが家の畑。左の道路を通って、世間に出入りしている。)



1 しゃべりしゃべる

身振り手振りを盛んにまじえながら
男と女が話し込んでいる。
もう二時間あまり。
話題はすでに腐りはじめているが

それに気づきたくはないのだ。
しゃべりしゃべる
しゃべり しゃべる。
紅茶を二杯もおかわりしながら。

相手の話がききたいわけじゃない
自分のことをしゃべりたいからしゃべっている。
三杯目の紅茶がオーケストラのヴィオラみたいに
つつましやかにそれをきいている。



2 ワンと吠える

甘ったるいオレンジジュースの恋と
泥のついた百本のダイコンみたいな生活。

うんざりしているのに
ほつれた糸の引っ張り合いはやめられない。

残り少ない余生。
神様とすれ違ったので 犬のようにワンと吠えた。



3 とりあえず

なにもかもが皺しわ
顔も手も腰も。
歳をとるとはこういうことだったのだ。
老眼でしかもかすみ目。
気だけは若いつもりでいるのに
詩という肘掛けも
音楽という座布団も
朝のひかりも・・・空や雲も

みーんな皺しわ。
しわにうもれながら顔を洗い歯をみがく。
なにか一つくらい成就させたいと
させたいと願いつづけてもうすぐ七十年。
なにもかもが皺しわ。
あきれてものもいえないけど
“ものもいえない”といっておこう 
とりあえず。



4 大事な秘密

絶景ほどつまらないものはない
とTさんがいう。
なぜかというと
なめることも囓ることもできないから。

じゃ なめたり囓ったりできる風景って
どんな風景。
動物や昆虫がいる風景かしら。
いやいや違う・・・ Tさんは説明に窮する。

「たとえばこれかな?」
差し出されたプリントにはどこにでもありそうな路地が写っている。
「いつもここを通って出たり入ったりしているんだ。
角をまがるとそのさきにわが家があるので」

なめたり囓ったりできる風景。
それは一番身近な風景だった。
Tさんはそれをぼくに知らせたかったのだ
大事な秘密をうちあけるときみたいに。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 黒のドレスを着たチョウ | トップ | 永久に完成しえない音楽 ~... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

俳句・短歌・詩集」カテゴリの最新記事