<写真左上から時計回り>
1)クラリネット:プリンツ&ウィーン室内合奏団 2)クラリネット:シュミードル&新ウィーン八重奏団員 3)クラリネット:クイケン&ラ・プティット・バンド 4)ミュンヒンガー&ウィーン・フィル(クラリネット:プリンツ)
このあいだ田村隆一さんの詩のアンソロジーを読んでいたら
死者への追悼詩編がぞろぞろならんでいたので
ぼくはちょっと・・・なんていうのか
脚が一本たりず腰かける人のいない椅子のように悲しくなり
そのあとCDをかけて
モーツァルトとブラームスの「クラリネット五重奏曲」を聴いてすごした。
八月は死者たちがあの世から客にやってくる季節。
歳をとって感覚器官が鈍くなると
それに応じて親しかった世界がぼくから すこしずつ遠ざかる。
その分 星々への距離がちぢまる。
星々とはこの場合 ぼくが迎えねばならないあの世からの客
――のことだけれど。
不世出の作曲家二人は 晩年にちかくなって
まるで前世からの申し合わせでもあったように
すばらしいクラリネットの五重奏曲をぼくらに残した。
遺言というには美麗すぎる二曲を。
肖像画の二人は 涙なんか流したことがないようにとり澄まして
さっきやってきたばかりなのに
もう立ち去ってゆく観客の後ろ姿を見つめている。
耳かきではかれるような時間の
あるいは涙の・・・小さなちいさな溜まり場。
そこに亭々とそびえ立つケヤキの巨樹がまるまる映っている。
帰ってきた死者の姿が ほんの一瞬その木の下をよこぎって
ツクツクホウシが鳴く庭のほうへ出てゆく。
「お帰りなさい お帰りなさい」
「おや もういってしまうのですか?」
五大に響きあり と喝破したのはわが師KUUKAIだが
その響きをつかみだして
クラリネットの奏者が この世へと届けてくれた二つのGift。
ぼくはその音楽の羽毛につつまれて
あの世とこの世の境目
ハマナスがぼうっと霞むまぶたの裏の渚を散歩する。
なぜこの世に生まれてきたんだろう?
モーツァルトとブラームスが 音楽の中で
くり返し問いかけることをやめない。
遺伝子を解析したってだめさ。
そんな質問への解答など書かれているはずはない。
二人とも 涙なんか流したことがないようにとり澄まして。
質問だけが クラリネットの名曲となって
いつまでも ぼくらの胸をゆさぶる。
1)クラリネット:プリンツ&ウィーン室内合奏団 2)クラリネット:シュミードル&新ウィーン八重奏団員 3)クラリネット:クイケン&ラ・プティット・バンド 4)ミュンヒンガー&ウィーン・フィル(クラリネット:プリンツ)
このあいだ田村隆一さんの詩のアンソロジーを読んでいたら
死者への追悼詩編がぞろぞろならんでいたので
ぼくはちょっと・・・なんていうのか
脚が一本たりず腰かける人のいない椅子のように悲しくなり
そのあとCDをかけて
モーツァルトとブラームスの「クラリネット五重奏曲」を聴いてすごした。
八月は死者たちがあの世から客にやってくる季節。
歳をとって感覚器官が鈍くなると
それに応じて親しかった世界がぼくから すこしずつ遠ざかる。
その分 星々への距離がちぢまる。
星々とはこの場合 ぼくが迎えねばならないあの世からの客
――のことだけれど。
不世出の作曲家二人は 晩年にちかくなって
まるで前世からの申し合わせでもあったように
すばらしいクラリネットの五重奏曲をぼくらに残した。
遺言というには美麗すぎる二曲を。
肖像画の二人は 涙なんか流したことがないようにとり澄まして
さっきやってきたばかりなのに
もう立ち去ってゆく観客の後ろ姿を見つめている。
耳かきではかれるような時間の
あるいは涙の・・・小さなちいさな溜まり場。
そこに亭々とそびえ立つケヤキの巨樹がまるまる映っている。
帰ってきた死者の姿が ほんの一瞬その木の下をよこぎって
ツクツクホウシが鳴く庭のほうへ出てゆく。
「お帰りなさい お帰りなさい」
「おや もういってしまうのですか?」
五大に響きあり と喝破したのはわが師KUUKAIだが
その響きをつかみだして
クラリネットの奏者が この世へと届けてくれた二つのGift。
ぼくはその音楽の羽毛につつまれて
あの世とこの世の境目
ハマナスがぼうっと霞むまぶたの裏の渚を散歩する。
なぜこの世に生まれてきたんだろう?
モーツァルトとブラームスが 音楽の中で
くり返し問いかけることをやめない。
遺伝子を解析したってだめさ。
そんな質問への解答など書かれているはずはない。
二人とも 涙なんか流したことがないようにとり澄まして。
質問だけが クラリネットの名曲となって
いつまでも ぼくらの胸をゆさぶる。