二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

秋はやってくる(ポエムNO.28)

2011年07月17日 | 俳句・短歌・詩集

子どもたちが出ていってしまい
この家はあのころと比べ ずいぶんとしずかになった。
風景の変化というけれど
どこがどんなふうに動いて 変わっていくのかわからない。
三百六十五日かかって わずか数センチしか動かないものがある。
数センチとはいえ 動いている。
そして愕然とするときがくる。

永遠の中の一瞬などといってはみるが
そんなのただのレトリック――ことばのアヤというやつさ。
まあ それだっていいけれど。
ぼくもきみも そこいらにやたら生えている草の葉にすぎないとわかるまで
何十年もかかったんだ。
ここはぼくのふるさとで終(つい)の栖(すみか)。
夕方には雷雨があるといいな。
たえがたい暑さはたえがたいからね やっぱり。

さっきまではブルックナーの七番のつばさに乗って
近隣の町や村を飛翔していた。
音楽が終わったので 地面におりて氷あずきを食べている。
「お代は百五十円にしておきましょう」
ぼくはおかみさんの手に二枚の硬貨を落とす。

なにもかもが遠くに見えるっていう日がある。
タイムマシンで たったいまここに着いた人のように
ぼくはまばゆい夏空を見あげている。
あの人はどこへいったんだろう それにあの人。

庭の隅のほうから父と母の声が聞こえる。
昔愛した人の声やため息や
いつぶら下げたか思い出せない風鈴の音も。
ふとったトラ猫がすり寄ってくる。
「まだおいらがいるよ。ここにいるよ」
ソクラテスに似た気むずかしげな老人が麦わら帽子をかぶって通りすぎる。
ん? 叔父さんの散歩――だとしたら
もう墓場へもどるころ合いだろう。

雷雨があるといいな いくらか気温がさがるだろうし。
アキアカネの標識をたどってやがて秋がやってくる。
今日は優雅に包丁を研ごうと考えていたけれど気が変わった。
いまさらあわてたってはじまらない。
あわてる必要はない。
きみがだれを愛し なにに時間をそそごうと
寝過ごして大事な約束をすっぽかそうと
・・・秋はやってくる。
やがて冬にその座をわたすために。




※詩と写真には直接のつながりはありません。
(左が息子、右が姪。いまから二十数年前の写真)

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