1
ある種のことばたちがぼくを取り囲んでいる。
その海の上を一寸法師のようにただよっていく。
酔っぱらって中島みゆきを鼻歌で歌ったり
道路と建物に切り刻まれた七月の四角い空の下を
汗を拭きふき歩いたりしながら。
昨日は古墳を見学にいったが
今日はプラタナスの“偉大な”木陰をさがそうか。
たいした意味はないけれど この暑さはたえがたいので。
2
いろいろな種類のアジサイが群生する庭がかつてこのあたりにあったな。
あれはどこだったろう。
地図はぼくが少年だったころとくらべ
ずいぶんと変化している。
そのあたりに立ちすくんだままのぼくがこっちを振り返ってなにかいう。
あれがぼくなんだろうか?
なにをいっているんだろう?
ああ なにを・・・。
過去は思い出すたびに新しい肌着みたいだね。
3
夏には夏の歌を
秋には秋の歌を歌う生きものたち。
そこいらの草むらを天地として生きるイナゴやテントウムシに
風景はどう映っているんだろう?
ぼく わたし おれ。
一人称の変幻のようにくるくると眼の高さをかえて
周囲を見まわす。
むろん しゃがみこんだからといって
あたりの風景が激変するってわけじゃない。
ぼくはグレゴール・ザムザのように変身はできないんでね。
4
自意識という息苦しい小さな世界から
逃れでようとするアリの群れに似た 文字の行列。
どこまでも どこまでもつづいていて
結局は本屋か図書館へ入っていくんだけど
まだそのさきがいくらでもあるらしい。
おや あれはシジュウカラ?
夕映えの空から 夏雲の空へとぼくの気持ちが切りかわる。
地球は太陽系のいのちのゆりがごか 子宮なんだね。
ほらほら 風が吹いてきた。
どこか近くに夕立があったんだね。
風はそれで生まれたんだよ きっと。
※写真は榛名山で見かけたギンイチモンジセセリ。詩とは直接の関係はありません。