二草庵摘録

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ぞっこん中国史! 魏晋南北朝通史ほか

2020年12月25日 | 歴史・民俗・人類学
■川本芳昭「中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝」中国の歴史5 (講談社学術文庫2020年刊 原本は2005年)


このところ、中国史に熱中している。以前からぽつり、ぽつりと読んではいたが、これほどつづけざまに読むことになったのははじめて(´Д`)
性格の違う本だが、ここで2冊まとめて取り上げることとする。

こちらは「中国の歴史」シリーズである。10巻で、中国と台湾併せて150万部のベストセラー、日本発の歴史書が本国でこれほど売れるとは、講談社もうれしい誤算だろう。

内容紹介は、いつものようにBOOKデータベースからコピーさせていただく。

《第3回配本の第5巻は、220年の後漢滅亡から隋の天下統一(589年)にいたる大分裂の時代を取り上げる。
前漢・後漢の400年の大帝国は、後漢末期の混乱の中に崩壊し、魏・蜀・呉が争う三国時代を経て、晋の司馬炎による再統一をみるが、まもなく匈奴・鮮卑・羯・羌など異民族の大侵攻を招いていわゆる「五胡十六国」の大混乱時代に突入する。
華北はやがて鮮卑が建てた北魏が統一し(439年)、東魏、西魏、北斉、北周と興亡を繰り返す。一方、江南には漢民族の王朝である宋に続き、斉、梁、陳と次々に王朝が交替する。胡漢の勢力がたがいにしのぎを削るなかで、華北では雲岡や龍門の壮麗な石窟寺院が営まれ、江南には建康(現在の南京)を中心に陶淵明、顧ガイ之らで名高い六朝文化が栄える。
この魏晋南北朝時代は、日本列島には邪馬台国や倭の五王が登場し、朝鮮半島には高句麗・百済・新羅が興って、東アジアの「世界秩序」が形成された。その中心をなす「中華」も分裂と融合を繰り返し、非漢民族が漢化(中国化)するなかで拡大し、新たな中華世界を形作っていったのである。現代に続く中華意識と民族問題を視野に、東アジア世界の秩序の源流へとさかのぼる一冊。》

いやあ、おもしろかった! すばらしい出来映えである。
わたしがとくに興味をもったのは、
第四章 江南貴族制社会
第五章 南朝後期の政治と社会
第六章 江南の開発と民族間抗争
第九章 古代東アジアと日本の形成
第十章 中華世界の拡大と「新」世界秩序

・・・あたりであるが、全般にわたって、この時代の混沌とした中国史を堪能することができた。
西暦でいえば、後漢が倒壊した220年から、隋の建国589年まで約370年間の歴史。
この時代の中国のことは、はっきりいって、これまでよくは知らなかった。
それで余計に新鮮、知的好奇心全開とあいなった^ωヽ*

クセのないスタンダードな文章なので、川本芳昭先生の叙述に安心して身をまかせていられる。つぎつぎ登場する歴史上の人物へ、感嘆すべき鋭い分析がおこなわれる。それらは物語的な展開にも配慮されていて、気難しい研究者の言になるのをまぬがれている。
一読者として「ふーむ、そうか、そうだったのか!」の連続であった。
中国史は、古代から現在まで、胡漢の抗争の歴史である。さまざまな王朝が、つぎからつぎ興亡をくり返し、頭が混乱してしまう。五胡十六国ともいわれるように、激しい抗争の370年であった。
積み重なるそういった時代の相を見事に整理し、叙述するお手並みは大したもの。

いろいろな政権が麻のごとくからみあった乱世なので、図版や系図を、立ち止まっては見直すことになる。戦争につぐ戦争、どの王朝も軍事国家といえる性格をもっている。
「人間は戦争をする生き物である」ということがよくわかる。中国のこの時代は、民衆も敗残兵も、皆殺しである。何万人、何十万人が、あっという間に殺される。
それに比べ、いまの日本のなんと平和なことだろう。

本書の白眉といえるのが第六章「江南の開発と民族間抗争」。
中国の長江の南は、はやくから開けた華北とはうってかわって、広大な未開の地がひろがっていたというのだ。
呉や蜀の地域まで、読み書きができない、多種多様な未開人が住んでいた。川本先生は西暦500年代、600年代の資料をいくつか紹介しているが、どれもこれも、かつて聞いたことがない民族ばかり。
それらが、現代のどの少数民族に該当するのか、はっきりとはわかっていないようである。

1986年になって蜀(四川省)の地で三星堆遺跡が発掘されたときも、非常な驚きをもって迎えられた。文献としてはまとまった記述のない、異様な習俗をもった文明なのだ。
これを残したのは、どんな民族なのか、そして、彼らはどこへ消えたのか?
本書は陶淵明「「桃花源記」(とうかげんのき)にも言及している。これは単なるユートピア物語ではなく、実在した桃源郷である、その可能性は十分あるというのだ。桃源郷は少数民族の村落であったという推測が成り立つとは、驚いたなあ・ω・´?

「第九章 古代東アジアと日本の形成」は、魏晋南北朝の中国を軸に、東アジアのなかの日本を考察した、これまた興味深い一章。
日本の「謎の四世紀」「倭の五王」の時代を、東アジア史の一部とLinkさせながら、説得力のある、すぐれた論を展開している。

何年かのちに、もう一度読み返すことがあるかもしれない。
秦漢帝国のあとに、こういう混乱期が、中国史にはあったのだ。このあとさらに、隋、唐がつづく。日本はこういった東アジア・・・中国、朝鮮半島を横目で追いながら、国づくりをしていくことになる。
川本先生は、淡々と論証を重ねていくが、ときどきひっくり返りそうになる歴史的記述に突き当たる。いやはや、中国4千年の歴史に、わたしはすっかり魅入られてしまった。

読了後、ずっしりとした手応えが残る。これは川本芳昭さんが、すぐれた一流のシェフであるからである。
最後の付録に「歴史キーワード解説」や参考文献一覧がある。しかも、年表、索引までいたれりつくせり。読者冥利につきるものがある。

※三星堆遺跡(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%98%9F%E5%A0%86%E9%81%BA%E8%B7%A1



評価:☆☆☆☆☆




■楊海英「独裁の中国現代史 毛沢東から習近平まで」(文春新書 2019年刊)


単純明快な本。論旨はクリアだが、こんなに「わかっていいのかしら?」と、かえって疑いたくなる。
わたしは悪漢小説を読んでいるわけではない。

共産党独裁下の現代中国史を、モンゴル人(だと思われえる)楊海英先生が、一刀両断に切り裂いてみせてくれる。
おもしろかったので、こちらは一気読み。雑誌「文芸春秋」の連載を読ませていただいた気分。
しかし、基本的には善玉悪玉の二元論である。

中国はとんでもない格差社会。上層に9千万人もいるという共産党員の存在がある。共産党員は特権階級である。
しかも都市と農村は別な戸籍が割り当てられ、ちょっとやそっとでは移動できないそうである。冨は都市に集中する。
その9千万人の党員の頂点に位するのが、党の総書記。

中国の人民解放軍は230万人を擁し、130万人の米軍を圧倒的に上回る世界トップの軍事大国。ちなみに、習近平さんは、党の総書記、国家主席、軍事委員会の首席を兼任している。そういう意味で“独裁”なのである。

こういう隣国が、すぐ近くにあるから、米軍基地は、これからさきもなくなることはない。
朝鮮戦争は厳密にはまだ終わっていない。休戦状態がつづいているだけ。台湾(中華民国)も最前線に位置する。
ロシア、中国が潜在的な脅威である以上、米軍基地がなくなることは決してない。

楊海英さんの本は、調べたらもう一冊「『中国』という神話」が手許にあった(´ω`*)
それを読んでから、あらためて書評を書いてみよう。
全人類のおよそ5人に1人は中国人。そのことを念頭に置きながらもう少し、中国史を深堀りしていくことにしよう。



評価:☆☆☆

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