二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「海の都の物語」第6巻

2014年11月13日 | 塩野七生
「海の都の物語」も最後の第6巻。第13話「ヴィヴァルディの世紀」第14話「ヴェネツィアの死」の2章を残すのみとなった。
さきほど読みおえた第12話「地中海最後の砦」は圧巻の一語。
胸がかき毟られるような深い感銘に満ちている。海洋都市国家ヴェネツィアの誕生から死へ。
大いなる物語が読者の目頭を熱くせずにおかない。

塩野さんは、いったいどこからこんな物語を掴み出したのだろうか?
ここまで読みすすめてきて、周到に考え抜かれた構想力に、あらためて舌を巻かずにいられない。
抽象論としてではなく、実践的な対象としての「国家」とは何であるのかを知るには、最良の書物といっていいだろう。“戦争”についても、多くの歴史的教訓をふくんでいる。

冷静沈着なのだが、いわゆる大学の先生方が書く書物とは、明らかに一線を画す。
歴史学の研究家ではなく、小説家の魂をもった人のノンフィクションが、壮大な規模で展開される。
わたしとしては、こういう本の読者がもっと、もっとふえてくれることを願わずにはいられない。本書は「ローマ人の物語」とほとんど同じ方法論で一貫している。

読者は政治家であった経験もない著者が政治について、こういうふうに生々しく、経験的に書けるということに、驚異の眼を向けないではいられないはず。
宗教やイデオロギーに対する距離のとり方の見事さ! 民主主義の根本精神というばかりではなく、そのベストといっていい歴史的具体例が、ここヴェネツィア共和国一千年にある、とわたしはおもう。

根底にあるのは、悲観的にも、楽観的にもなりすぎることのない、人間性への洞察力かも知れない。
ヴェネツィアの一千年を眺めわたしながら、わが日本のことが、しきりと脳裏を去来する。
百年後、あるいは百数十年後、この地球上に、日本が果たしていまあるような姿で、生き残っているのだろうか?
ひと口でいえば、そのことである。

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