二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

小川国夫さんの自筆はがき

2018年02月25日 | 小説(国内)
このところ世界史や世界システム論にはまって、本を買ってきては、つぎつぎと読んでいる。
今日はそういったネタとはいくぶん違う内容で書いておこう。
というのも、BOOK OFFを散策中、作家小川国夫さんの自筆はがきを手に入れたからである。
小川さんがどんな人かお知りになりたい方は、ウィキペディア等で検索するのがよいだろう。2008(平成20)年に、80歳でお亡くなりになっている。
古井由吉さんや後藤明生さん、阿部昭さんなど、いわゆる内向の世代と呼ばれた小説家のお一人。
この世代の小説家では阿部昭さんは、波長が合うというのか、わたし的にはよく読んでいる。小川さんも本は書庫に10冊ほどあるが、デビュー作「アポロンの島」と、「生のさ中に」「悠蔵が残したこと」の3冊は読んだ記憶があるけど、ほかは寝かせたまま(^^;) それらを読んだのも、もうずいぶん昔、二十代~三十代はじめころ。

BOOK OFFで、たしか108円で手に入れた小川さんの著者署名本が2冊か3冊ある。神田の古書店と違って、BOOK OFFでは初版本(第1刷り)であろうが、署名本であろうが、まったく価格には反映されない。
わたしもそういう意味での好事家ではなく、たまたま手に入っただけ。



はがきが見つかったのは「或る聖書」(筑摩書房)の第3刷りで、ページのあいだからパラリとフロアに落っこちた。
はがき裏面はつぎのように読める。
《小生のつたない仕事をお読み下さるとのこと、ありがたく思っております。青銅時代など、お送りいたします。ごめんどうでしょうから、お金は要りません。ただし、きっと二、三冊しか差し上げられないと思います。審美社へ聞いてみて下さい。学校のお近くでしょうから、楽に行けると思います。262-5490へお電話して、小川から紹介とおっしゃって下さい。》






もの静かで、腰のひくい謙虚なお人柄がつたわってくるような文面である。筆跡は何か「文学アルバム」のようなもので見たことがある。
この人は、島尾敏雄さんがいなければ、世に出るのはずっと遅くなったはず。島尾さんに、同じキリスト者としての共感があったのだろう。

《1965年6月、私家版『アポロンの島』を唯一買った島尾敏雄が突然藤枝の小川家を訪れ、そして同年9月5日の『朝日新聞』「1冊の本」欄で、私家版『アポロンの島』を島尾が激賞する。これが契機となり、1966年から商業雑誌に登場。》(ウィキペディア)

このドラマチックなエピソードは、小川国夫ファンなら知らない人はいないだろう(^ー^)
小川さんはむろん、もしかしたら、はがきの受取人須永さんも、この世の人ではないのかもしれない。
いったいどのような経緯があって、前橋のBOOK OFFにならぶことになったのだろうか。
いろいろと想像がふくらむ・・・。

はがきの住所、藤枝市長楽寺。
漁港で名高い焼津の西、ヨーロッパから帰ってきた小川さんが、腰を据えた土地で、この故郷を舞台にした小説を読んだおぼろげな記憶がある。藤枝は根っからの私小説作家藤枝静男さんのふるさとでもあった。

いまはフィクションばなれが著しく、小説は読めない精神状態だが、何か機会があれば、フィクション=小説に復帰できるだろう。時は移ろいやすく、人はあたかも泡沫のように消えていく。
いまでは小川さんを読もうという人は少ないのだろう。しかし、たとえわずかではあっても、熱心なファンがいる。
フィクションの世界に戻ることができたら、書庫に眠っている本のチリを払って、小川国夫さんの、あの形容詞・副詞の極端に少ない、ひきしまった禁欲的な文体を、あらためて味わってみるとしよう(^^♪

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