■寺田隆信「永楽帝」(中公文庫)1997年刊 原本は1966年刊人物往来社
平易でオーソドックスな文章なので、高校生向けの入門書みたいにすらすら読めた。寺田隆信先生は、京大の史学科なので、宮崎市定さんの門下生になるのかもしれない。
論旨もいたって明快、しかも物語性があるので、歴史小説風味がある^ωヽ*
永楽帝はよく大帝と称されるが、この皇帝をあつかった評伝は、日本では最初のものだということである。
現在では檀上寛さんの「永楽帝――華夷秩序の完成 」(2017年刊)が講談社学術文庫に収められている。
蒙古討伐の一部始終が、かなり詳細に記述されている。それから安南(現在のベトナム)遠征や、世界に誇る一大壮挙として近ごろ評価の高い、鄭和の南海遠征事業についても、多くのページをついやしている。
しかし、なんといってもわたし的に一番面白かったのは、サマルカンドに都をおいて、中央アジアに大帝国を築いたチムールの一代記!
これほど“幸運にめぐまれた”帝王は、世界史を見渡しても、そうめったにいるものではない。
彼は偉大な風雲児であったチンギス・ハーンを、心から尊敬していた。そして、結果としてチンギス・ハーンにも匹敵するような大帝国を築くが、彼の死後、帝国はあっというまに四分五裂。
寺田先生がどんな資料に基づいているのか、歴史評伝といっていいほど詳しく述べられている。
チムールについては、わたし的にほとんどなにも知らないというに等しかった。サマルカンド、そして中央アジアの興亡は、一般向けの概説書があるようでないから、貴重な記事だと思われる( ´◡` )
社会・経済史的な言及があまりなく、政治史、つまり権力中枢の物語のため、物足りない部分もあったから、評価は4点にとどめておこう。しかし、手に汗握るおもしろさを備えた、秀逸な一冊。賞味期限切れには、まだなっていない・・・と思われる。
評価:☆☆☆☆
■杉山正明クビライの挑戦」(講談社学術文庫)2010年刊 原本は1995年朝日新聞社
杉山正明さんの著作は、「モンゴル帝国と長いその影」興亡の世界史、講談社学術文庫(単行本では2008年刊)
・・・につづいて2冊目。
12月に入ってから、とり憑かれたように中国史にのめり込んでいるのだ(。-ω-)
中国は4千年というとんでもない歴史をもっている。しかも、面積的には、全ヨーロッパに匹敵する。
万世一系の日本と違って王朝が交代するし、それら千変万化する王朝と権力者の“群像”が、歴史ドラマの宝庫なのだ。
四川省だけで、わが国の1.5倍もある。しかも、中国人は歴史叙述に非常に熱心な国民であった。したがって、東洋史は、これまでほぼ中国史というに等しかった。
それに対し、真っ向から切り込んで、モンゴルのユーラシア制覇を歴史の表舞台に登場させたのが、杉山先生であろう。
本書は表題にあるように、大元ウルスをうち樹てたクビライに的を絞った著作。
杉山さんは、本書でサントリー学芸賞を受賞しておられる。大元ウルスとは、昔は単に“元”といわれ、中国王朝の一つとみなされていた。
そういったこれまでの誤解を覆そうと、懸命な努力をしておられる。そしてそのもくろみは、ほぼ達成されているのだ。
第一章「新たな世界像をもとめて」は、モンゴル大帝国のユーラシア制覇が、いかに世界史の画期であるか、くどいくらい縷々考察されている。
これに比べたら、ヨーロッパの果たした、世界史の役割が半減する。そう述べておられる。
とても説得があるご意見であり、これによって、中国史、モンゴル史が世界史にLinkすることがよくわかる。
しかし、かなりの部分は「モンゴル帝国と長いその影」と重複している。はじめにこの本を読んでいたら、衝撃はもっと大きかったろう。
クビライ政権の実態と、その中身の検証はじつに興味深かった。モンゴル人という、ある意味少数民族に属する人々による、ほぼユーラシア全域を覆う大帝国。その全容はいまだ解明の途上にあるというのだから(^^;;)
わたしは清朝をはるかに見はるかしながら、あれこれ想像をめぐらすことになった。
中国における少数民族は、途轍もないポテンシャルを秘めているし、フビライも大政治家である。
第三章「クビライの軍事・通商帝国」が、本書のメイン記事。あとがきふくめ全300ページと、比較的コンパクトにまとめられ、読後の印象がかえって鮮明となった。
評価:☆☆☆☆
平易でオーソドックスな文章なので、高校生向けの入門書みたいにすらすら読めた。寺田隆信先生は、京大の史学科なので、宮崎市定さんの門下生になるのかもしれない。
論旨もいたって明快、しかも物語性があるので、歴史小説風味がある^ωヽ*
永楽帝はよく大帝と称されるが、この皇帝をあつかった評伝は、日本では最初のものだということである。
現在では檀上寛さんの「永楽帝――華夷秩序の完成 」(2017年刊)が講談社学術文庫に収められている。
蒙古討伐の一部始終が、かなり詳細に記述されている。それから安南(現在のベトナム)遠征や、世界に誇る一大壮挙として近ごろ評価の高い、鄭和の南海遠征事業についても、多くのページをついやしている。
しかし、なんといってもわたし的に一番面白かったのは、サマルカンドに都をおいて、中央アジアに大帝国を築いたチムールの一代記!
これほど“幸運にめぐまれた”帝王は、世界史を見渡しても、そうめったにいるものではない。
彼は偉大な風雲児であったチンギス・ハーンを、心から尊敬していた。そして、結果としてチンギス・ハーンにも匹敵するような大帝国を築くが、彼の死後、帝国はあっというまに四分五裂。
寺田先生がどんな資料に基づいているのか、歴史評伝といっていいほど詳しく述べられている。
チムールについては、わたし的にほとんどなにも知らないというに等しかった。サマルカンド、そして中央アジアの興亡は、一般向けの概説書があるようでないから、貴重な記事だと思われる( ´◡` )
社会・経済史的な言及があまりなく、政治史、つまり権力中枢の物語のため、物足りない部分もあったから、評価は4点にとどめておこう。しかし、手に汗握るおもしろさを備えた、秀逸な一冊。賞味期限切れには、まだなっていない・・・と思われる。
評価:☆☆☆☆
■杉山正明クビライの挑戦」(講談社学術文庫)2010年刊 原本は1995年朝日新聞社
杉山正明さんの著作は、「モンゴル帝国と長いその影」興亡の世界史、講談社学術文庫(単行本では2008年刊)
・・・につづいて2冊目。
12月に入ってから、とり憑かれたように中国史にのめり込んでいるのだ(。-ω-)
中国は4千年というとんでもない歴史をもっている。しかも、面積的には、全ヨーロッパに匹敵する。
万世一系の日本と違って王朝が交代するし、それら千変万化する王朝と権力者の“群像”が、歴史ドラマの宝庫なのだ。
四川省だけで、わが国の1.5倍もある。しかも、中国人は歴史叙述に非常に熱心な国民であった。したがって、東洋史は、これまでほぼ中国史というに等しかった。
それに対し、真っ向から切り込んで、モンゴルのユーラシア制覇を歴史の表舞台に登場させたのが、杉山先生であろう。
本書は表題にあるように、大元ウルスをうち樹てたクビライに的を絞った著作。
杉山さんは、本書でサントリー学芸賞を受賞しておられる。大元ウルスとは、昔は単に“元”といわれ、中国王朝の一つとみなされていた。
そういったこれまでの誤解を覆そうと、懸命な努力をしておられる。そしてそのもくろみは、ほぼ達成されているのだ。
第一章「新たな世界像をもとめて」は、モンゴル大帝国のユーラシア制覇が、いかに世界史の画期であるか、くどいくらい縷々考察されている。
これに比べたら、ヨーロッパの果たした、世界史の役割が半減する。そう述べておられる。
とても説得があるご意見であり、これによって、中国史、モンゴル史が世界史にLinkすることがよくわかる。
しかし、かなりの部分は「モンゴル帝国と長いその影」と重複している。はじめにこの本を読んでいたら、衝撃はもっと大きかったろう。
クビライ政権の実態と、その中身の検証はじつに興味深かった。モンゴル人という、ある意味少数民族に属する人々による、ほぼユーラシア全域を覆う大帝国。その全容はいまだ解明の途上にあるというのだから(^^;;)
わたしは清朝をはるかに見はるかしながら、あれこれ想像をめぐらすことになった。
中国における少数民族は、途轍もないポテンシャルを秘めているし、フビライも大政治家である。
第三章「クビライの軍事・通商帝国」が、本書のメイン記事。あとがきふくめ全300ページと、比較的コンパクトにまとめられ、読後の印象がかえって鮮明となった。
評価:☆☆☆☆