二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

遺伝子 ほか3編の短詩(ポエムNO.3-71)

2020年06月05日 | 俳句・短歌・詩集
  (年4化5化するヤマトシジミ、遺伝子の交換をしている。2012年8月)



1 遺伝子

だれもが持っている小さな
小さな秘密 遺伝子という秘密。
・・・最後の解答
すべてがそこに書き込まれているって
ほんとうだろうか。

だれも見たことのない 秘密。
シャガールのニワトリ
シャガールの馬。
その隣りを遺伝子がふわふわ飛んでいく
ピエロそっくりの服を着て。

おーい きみはなんの遺伝子?



2 クロアゲハ

地の神の使いとでもいうように
一頭のクロアゲハが舞い降りる。
素朴きわまる自然主義者。
彼女は真っ黒い ゴージャスなドレスをまとって
どこかからどこかへいく途中なのだ。

ほんの数瞬ぼくの人生とクロスし
神に約束された茫漠たる未来へと去っていく。
クロアゲハがそこにいた時間
彼女が去ったあとの時間。
つぎに遇うまで何年の歳月を要するのだろう。

学ばなければ 永遠を。



3 遠い明日

弦楽四重奏曲の中にしばらくたたずんでいたら
ずぶ濡れになった。
激しい豪雨があった というみたいに。
しずくをしたたらせながら

きみはその音楽から出て
入館料のいらない枯枝の美術館や
傷つきやすい人たちがつくる堤防や
過去からの漂流物でうまった墓地の

そのかたわらを通りすぎる。
弦楽四重奏曲のしずくは
いつまでも乾かない。
明日って なぜこんなに遠いのだろう。



4 まっ白い乗車券

「このバスはどこへゆくバスですか」
と隣にすわった 頑固そうなおやじがいう。
さっきからポテトチップスを一袋食べて
手持ちぶさたなのだ。

立っていって 窓から外の景色を眺める。
それにもあきてしまって
つぎに文庫本を取りだして読みはじめた。
横で野球帽をかぶった男の子がスマホ画面と首っぴき。

バスはカーヴを曲がる。
未舗装の道路をガタコンガタコン走る。
見慣れた景色はどこまでもつづく。
大部分の乗客は居眠りしている。

「どこへも着きませんな いっこうに」
おやじがあきれたように話かけてくる。
「ゆきさきが決まっていないバスなんです。
乗車券がまっ白でしょう」

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