温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

津軽湯の沢温泉 秋元温泉 (惜別入浴)

2012年09月12日 | 青森県
津軽湯の沢温泉の「秋元温泉」が今年(2012年)9月末を以て長い歴史に幕を下ろすという話を聞いた時には、ひどく落胆したものです。3軒あった津軽湯の沢温泉のうち「でわの湯 湯の沢山荘」「なりや旅館」は既に廃業しており、残る1軒である「秋元温泉」が最後の牙城として頑張っていましたが、ここも遂に陥落してしまうんですね。そんな秋元温泉に8月某日入り納めをしてきました。


 
国道7号から湯の沢温泉地区へ入る分岐に立つ歓迎の塔。「またのお越しを…」という文言も来月からは意味を持たなくなっちゃいます。


 

湯の沢温泉へ向かう道の途中で、旧羽州街道矢立峠の湯の沢口を通過しますが、以前は砂利のままだった旧道入口の広場がいつの間にやら舗装されており、更には「峠下番所跡」と記された小さな標識杭が立てられていました。来月には湯ノ沢温泉は誰も利用できなくなり、この道を通る一般人は激減すること必至ですが、歴史の街道の整備は、温泉の休廃業とは別個に考えられているのでしょうか。


 
まずは、津軽湯の沢の中で最も早くギブアップしてしまった「でわの湯」を通過。当初は通り過ぎちゃおうかと思っていましたが、ゲゲゲの鬼太郎の妖怪アンテナにも似ている私の温泉アンテナがビビビと何やら怪しい気配を感知したので、アンテナが指し示す通りに浴場棟をよく見てみると…



あらら、パイプからお湯が出てるぞ。しかも激熱だ! こりゃいずれ強者がここにプールを作って(あるいはここから引湯して)入浴できるようにお湯を溜めちゃうのかもしれません。



次に「なりや温泉」前を通過。雪の重さに耐えきれなかったか、玄関上の屋根が崩落しちゃってますが、道路から見る限り、他の部分では目立った外的損傷は無い模様。玄関前のLEDサインを思い出しちゃいますが、ここも2011年1月末にあえなくクローズ。



さて秋元温泉に到着です。駐車場に車を止めたら、排気ガスと熱を察知して、たちまち車のまわりにアブが集結し、バチバチと体当たりしてきたので、大急ぎでドアを開閉して、すぐにその場を離れました。



とてもあと一か月ちょっとで休業する宿とは思えないほど、玄関はきちっと掃き清められており、スリッパも綺麗に並べられていました。帳場のおばあちゃんに直接料金を支払います。


 
湯治宿風の鄙びた雰囲気ですが、帳場から左右に伸びる廊下はピカピカと光っており、手入れすればまだまだ問題なく客商売できる状態が保てそうです。この日も休憩利用でお部屋を借りているお客さんが数組いらっしゃいました。


 
こちらには混浴の大浴場と、男女別の小浴場の2種類がありますが、まずは大浴場から。
昔ながらのタイルの洗面台。脱衣所にはただ棚があるだけ。シンプルですね。


 
いままで私が秋元温泉を利用してきたときには、必ず混浴の大浴場には先客がいらっしゃり、干からびたエリンギみたいな陰部を隠さないでトドになっている爺様や、あるいは先っちょにアンズ干しをくっつけたシワシワの垂れ乳を放り出ながら何度も掛け湯している婆様など、各自のスタイルを貫き通して湯あみしているお客さんが幾人か寛いでいたため、浴室内で撮影することは遠慮しておりました。しかし、折よく今回、最後の入浴というタイミングで初めてこのお風呂を独占できる機会に恵まれたので、せっかくなので撮影させていただきました。

秋元温泉へ訪問したことのある方なら誰しもが印象に残るであろう、この小判型の浴槽。みなさまご存じのとおり、中央に立つ背の低い衝立で仕切られており、その手前が女湯、奥が男湯と区分されているわけです。かなり漠然としたこの男女区分に、初めて目にした時には私もちょっとした衝撃を受けたものでしたが、慣れというのは恐ろしいもので、2回目の利用以降は、手前側で入浴している婆様方をちっとも気にすることなく、奥側の男性エリアへと泰然と直行できたことには自分でも驚きました。


 
この札だけが男女の境界を示しているんですね。


 
湯口は男女両側に各1本ずつ。トポトポと音を立てながら源泉が落とされています。浴室内には、源泉から放たれるアンモニアとクレゾールを一緒くたにしたような強烈な刺激臭が充満しており、浴室に入った途端に匂いを嗅いだ私は忽ちラリってknock out! 婆さんたちの裸体には慣れてもこの匂いだけはそう簡単には順応できるものではありませんね。しかも湯上りもしばらくはこの匂いが体に(とりわけ髪に)こびりついてしまいますから、入浴後しばらくは自分が臭気発生体となってしまうんですね。

湯船のお湯はやや黄色みを帯びたモスグリーンに濁っており、白色や黄色の溶き卵状の湯の華が無数に舞っているほか、黒い湯の華もその中に若干混じって見られます。湯口に置かれたコップで飲泉してみると、塩味とタマゴ味、強い苦み、そしていつまでも口腔に残る不快な渋みとえぐみが感じられ、その不味さゆえすぐに吐き出して水で口を漱ぎたくなるほどです。



浴槽のお湯は縁の上をオーバーフローすることなく、縁の下部に開けられた穴から床へと溢れ出ています。その床は木板ですが、硫黄のお湯が被さるために滑りやすく、床には滑り止めの溝が掘られており、その溝が美しい幾何学模様をつくりだしています。また硫黄のために浴槽も床も全体的に白っぽく染まっています。


 

窓とは単体側に洗い場が男女両側各1ヶ所ずつ配置されており、その洗い場は格子の衝立によって仕切られています。水栓金具は硫化して腐食しており、お湯や水を出すと吐水口がボロボロになっているためあちこちへ撒水されてしまいます。

また格子で仕切られた二つの洗い場の間には、冷水が注がれている枡があり、水分補給や水浴びなどが可能。この枡もすっかり白い硫黄で覆われていますね。枡の周りは玉砂利で囲まれており、神社仏閣の手水場のような雰囲気です。



窓を開けるとガレの斜面が迫っていました。決して火山活動が活発な場所ではないのですが、この景色を見ていると、あたかも噴気帯のど真ん中にいるかのような錯覚に陥ります。



あぁ、このお風呂にもう会えないのか…



一方、こちらは男女別の小浴場。脱衣所もこじんまりとしていれば…


 
浴室も湯船も貸切風呂並みに小さなもの。湯船は1人か2人でいっぱいになっちゃいます。でも混浴を敬遠される方や、大浴場の混雑を避けたい方など、この小さなお風呂を敢えて選ぶお客さんも多いんですよね。


 
お風呂から出た後は、一旦玄関から外へ出て、奥の方へ歩いてみましょう。いかにも昭和の湯治宿といった鄙びた風情に思わず心が奪われます。特に川を跨ぐ渡り廊下の草臥れ具合が非常に印象的であり、つげ義春の絵、あるいは宮本常一の写真集に出てきそうな風景でもあります。



路傍の山肌のガレガレしたところからは白濁したお湯がしみ出していました。


 
旅館の敷地の隅っこには橋が架けられており、その橋を渡った対岸には源泉小屋がありました。
真っ黄色の析出に覆われた筒状のタンクに、ドボドボと汲み上げられた源泉が落とされています。
このお湯があの浴室へと供給されていたんですね。こちらの源泉は自噴ではなく掘削揚湯なんだそうですから、旅館廃業後はポンプが止められてしまい、このタンクに源泉が落とされることも無くなるかと思われます。



秋元温泉よ、永遠に…


秋元温泉2号泉(再分析)
含硫黄-ナトリウム-塩化物泉(硫化水素型) 47.3℃ pH5.76 96L/min(動力揚湯) 溶存物質7.146g/kg 成分総計7.862g/kg
Na+:1934mg(72.01mval%), Ca++:358.9mg(15.33mval%),
Cl-:3753mg(91.22mval%), Br-:5.7mg(0.06mval%), HS-:4.1mg(0.11mval%), S2O3--1.8mg(0.03mval%), HCO3-:590.1mg(8.33mval%),
H2SiO3:97.4mg, HBO2:39.3mg, 遊離CO2:39.3mg, 遊離H2S:81.3mg,

青森県平川市碇ヶ関西碇ヶ関山1-26
TEL0172-45-2137

入浴のみ350円
備品類なし

2012年9月末で閉館

私の好み:★★★
コメント (10)
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