温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台湾 野湯探索敗北記・その1 楽楽谷温泉

2013年04月05日 | 台湾
今回から約20回以上連続の長丁場で台湾の温泉などを取り上げてまいります。宜しくお付き合いのほどを。
初回はいきなり、野湯を探索しに行ったけれども結果的に見つけられず敢え無く撤退した涙の記録を、恥ずかしながら披露させていただきます。もしこの記事をご覧になって好奇心を抱き、現地へ行ってみたくなった酔狂な方がいらっしゃったら、私に代わって是非雪辱を果たしていただきたく切に願っております。

今回到達に至らなかったその野湯とは、南投県の東埔温泉から台湾の最高峰である玉山(3,952m)方向へ入っていった渓流沿いに存在するという楽楽渓温泉です。台湾の野湯(台湾では野溪温泉と称します)ファンが実際に訪れた際のブログがネット上で見られたので、それを参考にして台湾在住のWさんに相談の上、行って見ることにしたのです。なお今回参考にしたブログのうち代表的なものは以下のものです。
http://www.twem.idv.tw/2/a66.htm
http://blog.yam.com/c555555/article/59694395
(直リンクは避けておきます。いずれも繁体字中文です)

※拙ブログではいつも敬体で文章を著していますが、今回は常体文とさせていただきます。

 
【8:40 東埔温泉】
2013年3月某日、台湾に到着した日の翌朝、Wさんの車に乗って南投県南部の東埔温泉に到着。辺りは台湾原住民のひとつである布農(ブヌン)族が多く暮らしており、コンクリ擁壁には伝統衣装を描いたタイル絵が貼られていた。



 
【8:50 八通関越嶺道のスタート地点  (地図)
東埔温泉のはずれから「八通関越嶺道」という登山道に入る。この道は日本統治時代に台湾総督府が理蕃政策をすすめるために切り拓いたもので、1919年に着工、1921年に完成した。スタート地点にはそのことを示す記念碑がある。


 
同じくスタート地点には登山道の案内図や道路開通状況が掲示されている。これから進む道(東埔至雲龍瀑布)に対しては特に注意喚起は無かった。


 
【9:05 愛玉小站】
階段を上がって「愛玉小站」という名のお茶屋さんを通過。お店のお祖母ちゃんに楽楽谷温泉について尋ねると、はじめは「没有(そんなもん無い)」と答えたので耳を疑ったが、よく聞けば「入浴施設のようなものは無いから自分でよく探せ」という意味だったようだ。


 
ひたすら急な登りの連続だが眺望は素晴らしい。東埔温泉の全景も眺められた。



途中から農道と合流。この画像の辺りまでは農耕用の軽トラが入れるが、この先は車両通行不可。



車が通れなくなった箇所から先の方を眺めると、断崖絶壁に一筋の道がしがみついていた。今からあそこを進むのか!


 
足元の悪いガレ場を登り、更には落石で欄干がボコボコになっている橋を渡る。橋が連続する辺りから勾配は緩やかになり、等高線上をほぼトラバースするような感じになった。



繰り返すが、道からの展望は素晴らしい。この眺めを楽しむためだけにここへ登っても決して無駄ではないだろう。


 
【9:20 父子断崖 (地図)
この断崖絶壁は父子断崖を名付けられているそうで、説明プレートによれば、落石や崩落が非常に多い場所であるため、父と子が一緒に通過しようとしてもそうした事故によって親子が二度と会えなくなってしまうほど険しく危険である、という意味でこの名前になったらしい。北陸の親不知みたいなものだろう。説明プレートに付記されていた英語表記"Father and son Cliff"という、あまりに直訳すぎる表現には思わず笑ってしまった。


 
【9:40 楽楽谷への分岐】
道はやがて落葉樹に入ってゆく。クワガタが好みそうなこの環境を目にして、昆虫好きのW氏は興奮していた。父子断崖から約20分で上画像の道標が現れた。ここは右へ分かれる杣道へ進む。


 
道の入口には、この先は滑りやすく危険なので通行禁止、という旨の警告が掲示されているが、ここは自己責任で先へと進む。スズメバチにも要注意。実際に数匹のスズメバチがこの辺りで哨戒飛行をしていた。


 
誇張表現ではなく本当に滑りやすく危ない急坂。細い道を踏み外したら崖の下へ大きく滑落すること必至だろう。坂道の前半は落ち葉が、中盤以降は竹の根っこが足元を頻りに掬う。一歩一歩慎重に、けれども勾配に負けて転げるように下ってゆく。下れば下るほど、帰路に同じ道を登らねばならないのかと思うと、どんどん憂鬱になってゆく。



【10:05 川原へ下りきる】
下れども下れどもなかなか先は見えず、いつになったら到達できるのかと不安を抱き、何度も滑りかけて肝を冷やしながら、やっとのことで川原へ下りきった。ここからは川原を歩いて川の上流を目指す。


 
大きな岩がゴロゴロしている渓谷「楽楽谷」の底。楽楽とは楽しいという意味ではなく、岩がゴロゴロと音を立てて転がる様を表した、原住民の言葉の擬態語に由来しているらしい。川原には錆びきったワイヤーや建物の基礎らしきコンクリの塊が転がっていた。ここにかつて人工物があったことを示しているのだろう。



【10:15 渡渉その1】
岩の上を飛んで沢を越える。



【10:20 渡渉その2】
ここから上流側の本流左岸は断崖なので歩くことができず、岩の上をジャンプして右岸へ渡って更に奥へと向かう。



【10:30 断念 (地図)
ここから先は、左岸右岸両方の岩が切り立っており、ちゃんとした沢登りの装備がないと先へ進めない状態になっていた。あいにくこの時の私は単純なトレッキングの装い。まさかこれほど険しいとは想像しておらず、しかも空模様も怪しくなってきたので、この先に温泉が湯煙を上げているのはわかっていながら、泣く泣く断念して撤退することにした。汗だくになって息を切らせながら、急な坂を這いつくばるようにして登って帰路についたことは言うまでもない。

楽楽谷という名前に反してちっとも楽ではなかったが、今回は父子断崖からの絶景を楽しめただけでも佳しとしよう。こんな過酷な山歩きと骨折り損にお付き合い下さったWさんには心から感謝申し上げます。

コメント (2)
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