温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

泰安温泉郷 泰安警光山荘

2013年04月17日 | 台湾
 
泰安温泉は近年になって大型のリゾート型温泉ホテルが誕生しており、観光地として脚光を浴びるようになったのは比較的最近のことなのですが、温泉そのものは日本統治時代から存在しており、当時は上島温泉と称されていたんだそうです。その上島温泉の伝統を受け継いでいるのが、泰安温泉の最奥に位置している「泰安警光山荘」です。「警」の字が含まれていることからもわかるように、警光山荘とは警察職員のための保養所であり、台湾全土には10箇所以上存在しているのですが、ここ泰安の他、南投県の廬山、台中市の谷関、泥湯でおなじみの関子嶺など、温泉を擁する施設もあって、いずれも源泉に近いロケーションで素晴らしいお湯が堪能できることで知られています。さすが、国家の権力機関だけあり、美味しいところはきっちりとおさえているんです。


 
保養所とはいえ警察関係の施設ですから、各地の警光山荘はあまり一般客に公開されていないようですが、なぜか泰安の警光山荘は入浴利用の他に宿泊までできちゃうんだそうでして、実際にこちらでリーズナブルに宿泊なさった日本人の方の旅行記もネット上で散見されます。今回は宿泊ではなく入浴のみで利用させていただきました。受付の係の方は私の姿を見るや「日本?」と即座にこちらの素性を見破り、「泡湯ヒャクゲン」と言って入浴券を手渡してくれました。意外にも日本人客が多いのかもしれませんね。どうでもいいことですが、券に写っている入浴中の後ろ姿が女性じゃなくてオッサンなのは何故かしら? 普通は若いオネエチャンじゃねぇのかなぁ…。

宿泊施設というより古い病院のような薄暗くて装飾性の無いロビーから真っ直ぐ伸びる廊下の突き当たりに、赤と青の暖簾が見えます。


 
 
廊下の両側には日本時代に撮られた当地の警察の写真や統治機構に関する説明がずらりと並べられています。当時の日本は理蕃政策をすすめるためにどんな僻地に対しても警察の派出所を置いたわけですが、派出所こそ戦後に国民党政権によって壊されたものの、台湾全土に対して張り巡らせた統治機構の網はその後の社会の基礎となり、何だかんだで国民党の施政でも都合よく活用されたのでしょうね。泰安温泉の東に聳える山岳地帯を南北に縦貫していた北坑渓古道という古道には、台湾総督府の手によって5kmおきに派出所が置かれ、霞喀羅(シヤカロ)事件を起こすほど日本の支配に対して強く抵抗していた当地のタイヤル族を屈服させるべく目を光らせていたんだそうですが、当地の歴史にとってこの古道エリアに対する当時の日本の政策は非常に大きなインパクトだったようで、各派出所の写真や説明図が廊下で大きく掲示されていたことは、私にはとても印象的でした。



廊下を真っ直ぐ進めば浴室ですが、いきなり目的地に食らいつくのは少々野暮ですから、ちょっと脇にそれて建物から出てみましょう。本館とは別に宿泊用の棟が建っており、病院のような無機質な本館と異なりその宿泊棟は良い雰囲気のようでした。


 
翻って浴室のある本館の方を見てみますと、「旭湯楼」と書かれた扁額の他、「泰安第一湯」と揮毫された札が誇らしげに提げられていました。今ではいくつもの旅館で湯浴みを楽しめるようになった泰安温泉郷ですが、その端緒は戦前から存在していたここ「警光山荘」のお湯なんですから、「第一湯」と名乗るに相応しい矜持があるのでしょう。
余談ですが、私が大学の第2外国語で選択した中国語の授業では、「湯」といえばスープのことであり、"hot water"という意味は無いと習ったのですが、日本の文化を積極的に取り入れている台湾に限っては事情が異なり、近年になって温泉入浴がレジャーとして普及してゆくと、次第に日本語と同様の「温泉(お風呂)のお湯」を意味するようになったんだそうです。


 
暖簾を潜って脱衣室へ。室内はちょっと窮屈で棚の数も多くないのですが、こちらのお風呂では裸で入浴しますので、日本の温泉と同様に心置きなくスッポンポンになりましょう。



お風呂はこの内湯のみです。装飾性の無い質実剛健とでも言うべき実用本位の造りで、なぜか室内にはトイレが併設されていました。台湾では水回りを全て一括りにしようとする発想があるのか、シャワーとトイレが一緒になっていて両者の間に仕切りが無く、シャワーを使うとトイレまでビショビショになってしまう旅館や民宿が多いのですが、こちらのお風呂も同じような設計思想によって造られたのでしょうね。
山荘は川を臨む高台に建てられており、浴室の窓はまさにその川の方に面しているのですが、ガラス窓にはスモークが貼られているため、残念ながら入浴しながら渓谷を眺めることはできません。

浴槽は20人近くは同時に入れそうなほど大きなものでして、槽内には青い濃淡のタイルでモザイク模様が描いています。槽内側面の穴から時々泡を上げながら源泉が投入されており、そのお湯とともに膜が千切れたような薄い茶色の細かい浮遊物が吐き出されていました。お湯は無色透明で、42~3℃程の日本人向きな湯加減です。湯使いについては不明ですが、特に槽内吸引などは見当たらず、浴槽のお湯は窓側へ溢れ出てそのまま排湯されていました。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭の、掴みどころが少ないものなのですが、癖が少ないので体への負担は軽く、またサラサラスベスベな浴感が爽快でした。


 
洗い場にはシャワーが5~6基取り付けられているのですが、その設置間隔が狭いため、一度に全てを使うことは無理でしょう。シャワーから出るお湯はかなり熱く、また普通のお湯とはちょっと違うような感触が得られたので、おそらくこの熱いお湯は源泉かと思われます。
シャワーの上には、温泉を飲むことなかれ、水着を着て入浴する事なかれ、と書かれた注意書きが掲示されていました。

温泉風情はいまひとつですが、日本統治時代から浴用として愛されてきたこの温泉に浸かれたことは、日本人として非常に感慨深いものがありました。そんな小難しい話は抜きにしても、広いお風呂でサッパリとした少々熱めのお湯に裸で入れるのですから、熱い温泉が好きな日本人としては喜ばしいですよね。


苗栗県泰安郷錦水村9鄰18号  地図
037-941175

100元
ボディーソープ・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (2)
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