温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

不老温泉 草地人温泉民宿 (台湾南部)

2012年05月04日 | 台湾
 

前回取り上げた「天闊温泉SPA会館」を出た後、不老温泉でもう一軒ハシゴしたく、さきほど歩いてきた道の途中にあった「草地人温泉民宿」へ立ち寄ってみることにしました。場所としては前回記事の中で紹介した新開紀念公園の斜前です。さきほどは敷地内からオバチャンのカラオケの大音響が聞こえてきたため遠慮したのですが、改めて来てみると、カラオケは既に終わっており、それどころか誰もおらずにひっそりと静まり返っています。入浴をお願いしようとしても、受付にも建物内にも人影は見当たりません。無銭入浴するわけにもいかないので、どうしたらよいか迷っていたのですが、民宿の棟続きに万屋さん的な食料品店が営業しているのを発見し、おそらくこの店が民宿も兼業しているのだろうと推測して、店内でテレビを見ていたおじちゃんに声をかけたら、案の定そのおじちゃんが民宿とSPAの経営者でもありました。私が日本から来た旅人だと判るとおじさんは驚き、バス停から歩いてきたことを知ると更にビックリしていました。たしかに、わざわざ歩いてくる人なんていないでしょうね。


 
受付カウンターを含め、SPAは高い屋根に覆われているものの壁は無く、吹きっ晒しな造りになっており、実質的には露天状態となっています。カウンター上には「新的建設 新的風貌」と書かれた札が立てられていました。こちらも水害で罹災し、その後再建されたのでしょう。



台湾の一般的な温泉と同様に、こちらの露天SPAは水着と水泳帽の着用が必要ですから、更衣室を兼ねたシャワールームで着替えます。民間の小規模民宿のシャワー室は狭くて小汚い場合が屡ですが、こちらはブースの一つ一つが広くてなかなか清潔、しかも男性側だけでも11ヶ所もあり、シャワーのお湯からは明瞭なタマゴ味とタマゴ臭が感じられました。てことはSPAの浴槽のお湯も特徴的なのかしら…。宝来温泉エリアでは特徴のあるお湯に巡り会えなかったので、俄然期待に胸が膨らみます。なおシャワー室入口付近にはスチームバスも設けられていました。


 
はやる気持ちを抑えて、SPAエリアをぐるっと散策。画像左(上)はガッツリ水泳したい人向けの冷水プールでして、台湾らしくビニールのヒラヒラで覆われています。画像右(下)で写っている休憩エリアには、白いプラスチック製のラウンドテーブルやスタッキングチェアがたくさん置かれていました。


 
当SPAの真打ち、温浴槽の登場です。紅色に塗られた竹材で作られた「草地人」の三文字の下に、2つの浴槽が分かれて据えられています。左は熱く、右は水風呂に近い温度でした。両方の浴槽とも、手前側のステップからお湯(水)がしっかりオーバーフローしており、放流式の湯づかいであることが推測されます。


 

熱い方の湯舟は、泉質由来なのか浴槽内がべージュ色に染まっており、お湯も同じ色に薄ら濁っているように見えます。はじめ温度計は41℃前後を表示していましたが、私が入っているうちに数値が徐々に上昇し、やがて44℃をオーバーし始めました。温度計が狂っているのではなくて本当に熱い。入浴しているときにおじさんがお風呂の裏手へ廻っていたから、もしかしたらボイラーの設定温度をあげちゃったのかな。右の水風呂に比べるとオーバーフロー量がやや少なめなので、加温の上で半循環しているのかもしれません。なおシャワーで感じられたタマゴ的な味と匂いはこのお湯からはほとんど伝わってこず、石灰のような質感とともにツンと刺激のある薬品みたいな匂いが微かに感じられました。


 
特筆すべきは右側の水風呂です。左側と異なっているのは温度のみならず、張られている水の泉質も異なるのです。見た目こそ無色透明ですが、重曹味や弱めの金気を帯び、そしてゆで卵の卵黄的な匂いと味が明瞭に知覚できました。またよく神経を研ぎ澄ませると硫化水素的な刺激も微かに感じられました。しかもツルツルスベスベの爽快な浴感も得られます。この水風呂は単なる水ではなくて硫黄分と重曹を有する鉱泉なのですね。おそらくシャワーにはこの鉱泉水が使われていたんだろうと思われます。
左側の浴槽で体を温め、硫黄感たっぷりのツルスベ鉱泉でクールダウンする・・・私はひたすらこの冷温浴を繰り返していました。いや、鉱泉をじっくり堪能したいがために、隣の熱いお湯で体を温めた、と表現した方が正しいかもしれません。それほどにこの鉱泉の浴感に惚れこんでしまいました。すばらしい!



2つの温浴槽の隣には普通の水が張られた冷水槽もあります。


 
プールサイドから東側の山肌を眺めると、そこには大仏が鎮座していました。彩虹山大仏と称するんだそうです。台座のそばまで行くことができますが、バスの時間が迫っており、これ以上歩くのも面倒だったため、今回は遠くから眺めるだけに留めました。

特徴の少ない温泉が多い宝来・不老エリアの中で、硫黄感を伴うツルスベ浴感が強いこちらの鉱泉は白眉と評しても過言ではないのでしょうか。今回は入浴だけの利用でしたが、民宿ですから当然宿泊も可能。開放的で広々としており、豊かな自然に囲まれた静かな環境です。事前知識無くこちらに立ち寄ったのですが、大正解でした。


碳酸氢钠泉(ナトリウム-炭酸水素塩泉)

高雄客運・頂新発バス停から徒歩25分(約2km)
高雄市六亀区新発里新開33-1号  地図
(07)6791992

9:00~22:00
200元
ロッカー(有料10元)・シャンプー類・ドライヤー・脱水機あり

私の好み:★★★
コメント (5)
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不老温泉 天闊温泉SPA会館 (台湾南部)

2012年05月03日 | 台湾

宝来温泉「芳晨温泉渡假村」に宿泊した翌日は、高雄方面へ戻る途中に不老温泉へ立ち寄って何軒か温泉をハシゴする計画を立てていました。宝来から不老までは前回紹介した蘇羅婆温泉を抜けてゆく荖濃渓左岸の道をみちなりに5~6kmほど南下すれば辿りつけるのですが、あいにく両地点を結ぶ路線バスは運行されていません。六亀から不老温泉までの路線バスならあるのですが、早朝と夕方の計2往復のみなので、非常に利用しにくいダイヤ設定です。従いまして今回は、宝来からはまず六亀(高雄方面)行のバスに乗車し、途中の頂新発というバス停で下車、そこから荖濃渓左岸の道を徒歩で北上してゆくことにしました。
宿を10:00すぎにチェックアウトし、温泉街のセブンイレブンでこの日のランチにする食料と水を調達してから(現地で食堂や商店が見つからなかった時のための「保険」として購入)、目の前のバス停を10:30に発車する六亀行マイクロバスに乗車です。


 
バスの運ちゃんも車両も、昨日宝来まで乗ってきたバスと同じ。この日も前日も一人の運ちゃんが一台のバスで六亀と宝来(桃源)の間をピストン輸送していたのでしょう。乗客は爺さん婆さんばかり。


 
10:50、頂新発バス停で下車。数軒の民家がある以外は何もない辺鄙な場所です。食堂らしき建物が角に建っていましたが、営業しているような気配なし。
バス停付近で道が三叉路になっており、不老温泉へ向かう道(新開路)の入口には温泉施設の看板がいくつも立っています。この時は不老温泉でどの施設を訪れようか全く決めていませんでしたが、これだけ施設があるのならば、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、何軒か訪っていれば何とかなるだろうと、その看板の行列を見てちょっと安心しました。


 
三叉路から4~500mで「新宝橋」という真新しい橋を渡ります。民国100年(2011年)10月に竣工されたそうですから、まだ1年も経っていないんですね。88水害ではいくつもの橋が流出してしまいましたが、ここもその一つだったのでしょう。急ピッチの復旧工事のおかげで、幸いにも私は苦労なく再建されたこの橋を渡ることができました。


 
「新宝橋」付近の高台から荖濃渓を眺めてみます。河原が異様なまでに広く、草木が全く見られずにひたすら礫ばかりで荒涼としているのは、川が大暴れして流域のすべてを呑みこんだからなのでしょう。河原ではいまでも重機により復旧工事が行われていました。緑色の鉄橋は六亀と荖濃・宝来方面を結ぶ27号線(新発公路)の「新発大橋」です。宝来からのバスは頂新発バス停へ到着する直前にこの橋を渡ってきました。こちらも88水害によって流出し、その後復興事業により新しく架けられたもので、幹線道路ゆえに竣工式典では馬英九も出席したんだそうです。


 
ビンロウ並木が続く道。快晴の青空、灼熱の太陽、3月中旬の午前中だというのに気温は30℃近い暑さ。バックパックを背負い、直射日光をモロに受けながらクソ暑い山道を歩いていると、みるみるうちに体力が消耗していきます。
頂新発からダラダラと続くS字の坂を登ること20分弱(約1.5km)で「新開温泉渡假村」という施設を発見。看板には入浴100元という良心的な価格が記されていたので、重い荷物を下ろして早く入浴したいという心理も働き、ついその看板に惹かれてしまったのですが、あいにく休業中で、周囲には鉄板のバリケードが張り巡らされていました。ガックリ肩を落とし、更に奥へと進んでゆくことに。



「新開温泉渡假村」を過ぎてしばらくすると、山道が徐々に穏やかになって台地の上を進む感じになりました。たまに民家がある程度で、他にはただただ畑や樹林が広がるばかり。
途中「草地人民宿」という露天SPAのある施設が目に入りましたが、おばさんが大音量でカラオケを熱唱していたため、ひとまず通過させてもらいました(その後こちらも利用したので、その様子は次回紹介します)。


 
急に左側の視界が開けたと思ったら、そこには新しい公園が開設されていました。その名は「新開紀念公園」。なぜこんな人口の少ない場所に記念公園があるのか? 当然ながらそこには88水害という忌まわしい記憶が存在しているのです。高雄県(現在は高雄市)各地に甚大な被害を与えた88水害の魔の手はここ新開地域にも及び、大規模な土石流が発生して集落が悉く呑みこまれ、一瞬にして28人の尊い命が奪われてしまったそうです。この公園は地域の復興に当たり、犠牲者への鎮魂とともに災害の記憶を代々まで残すべく設けられたんだそうです。


 
公園となったこの場所は、以前は廃校となっていた小学校跡地だったそうでして、この場所で犠牲になった方はいらっしゃいませんが、校舎だった建物は土砂に飲み込まれてしまったんだとか。園名の石碑をはじめ園内には脱皮している蝶のモニュメントが目立ちますが、これには生存した方々に新たに生きる希望を与えたいという願いが込められているそうです。
【参考】「88水災の被災地に記念公園」(『台湾の情報ならお任せ RTIブログ』2011年8月10日付)


 
公園から一段下がった位置にある小さな廟の前には、川の上流を望む展望台が設けられています。そこに立てられた案内板には透明なアクリル板に稜線や川筋が描かれており、その線に実際の景色の稜線を合わせると、ここから眺める景色の中でどのように土石流が発生して河岸の集落を飲み込んでいったかがわかるようになっていました。川の左岸にあったはずの集落は壊滅してすっかり土砂の下に埋まってしまい、今や見る影もありません。


 
道を進んで実際に河原の方へ下りてみると、土砂に埋まった家屋が無残な姿で残っていました。



土石流に飲み込まれた集落跡を突き進みます。道路の両側には橋の欄干のような仮設の柵が並べられています。土石流の上に敷かれた道ですから、周囲の地盤が不安定で、下手に路肩を外れたら危険な状態なのでしょうね。


 
頂新発から歩き続けること35分(約2.6km)、土石流跡の殺風景な礫地の上に「天闊温泉SPA会館」と染め抜かれた水色の幟が路傍に多数立てられているのを発見。もうこれ以上歩くとバス停まで引き返すのに苦労すると判断し、ここで入浴をお願いしてみることにしました。施設そのものは河岸の高台に位置しており、道路からさらに急勾配なアプローチを登ってゆきます。既に十分疲労していた私にとって、このアプローチがえらく辛かった…。


 
広い駐車場の奥(というか川側)に建つシックで落ち着いた建物。山側の斜面には戸建のロッジも建ち並んでいます。



まだ開業して間もないのか、内部はとっても綺麗でラグジュアリ感すら漂っています。訪ってみると、この時は客が誰もいなかったのか、フロントのおじさんはソファーで気持ち良さそうにうたた寝の真っ最中でしたが、私の気配に気づくや否や急にシャキっと動きだして対応してくれました。


 
フロントを出るとすぐに露天SPAエリアです。こちらはシャワールーム兼更衣スペース。こちらで水着に着替えます(水泳帽も必要です)。一画にはコインロッカーがズラリと並んでいました。天井は木目、側面はオフホワイト、そして床は市松模様の石材で統一されており、とっても落ち着いた空間構成となっています。清潔感も漲っており、気持ち良く使えました。



脱水機や冷水機が用意されているのも嬉しいですね。



さてSPAエリアへGO!
オフシーズンの平日だからか、一番手前のプールには水が張られていませんでした。



こちらは打たせ湯やジェットバスが設置されている槽。一応お湯が張られていましたが、中途半端にぬるかったので(ぬるいというか冷たかった)今回は利用せず。恐らくここも閑散時なので営業準備がなされていなかったのでしょう。


 
冷水プール。ターコイズブルーの槽内がとっても綺麗ですね。


 
プールサイドではブーゲンブリアの花(実際には包葉ですが)が咲き乱れていました。紫味の鮮やかなピンク色には南国の紺碧の空がよく似合います。梢の上では小鳥たちがひっきりなしに囀っていました。


 
私が着替えている時、フロントのおじさんは駆け足でSPAの奥へと姿を消していったのですが、何をしに行ったのかと思っていたら、やがておじさんが冷水プールの奥の方で私を手招きしました。そこには正方形のおしゃれな露天風呂が6つほどあり、いずれも空っぽだったのですが、おじさんは私のためにその中のひとつへお湯を溜めていてくれたのです。この露天風呂はどれも1~2人サイズで、あたかも貸切風呂のように、利用の度にお湯を入れ替えるタイプのようです。なおお湯は無色透明無味無臭で特徴の少ないものでした。おじさん曰く本物の温泉を引いているとのことですので、ここではその言葉を信じることにしましょう。



高台の縁に位置しているこのミニ露天風呂からは、眼下に広がる荖濃渓、そして荖濃・宝来などの集落をはじめ、その後背に聳える対岸の山々などが一望でき、入浴しながらにして抜群の眺望が得られました。そして40℃前後の絶妙な湯加減も手伝って、いつまでも長湯していたくなります。炎天下の中、バックパックを背負って歩き続けてきた甲斐があった。こりゃ最高だ。疲れも憂いも一気に吹き飛んじゃいます。



展望デッキもあり、デッキチェアで横になりながら眺望することも可能。天気にも恵まれ、清々しい陽気の中で素晴らしい絶景を独り占め。贅沢だなぁ…。この高台の真下で数年前に惨劇が発生したと思うと、少々複雑な心境にもなるのですが、当地を訪れてこの絶景に触れ、以て当地の経済を少しでも潤すことになれば、僅かな力とはいえ積極的な復興のお手伝いになるのではないかと思ってみたり…。


 
なお個室風呂もたくさん用意されていますが、別料金(1000元以上!)なので今回は利用しませんでした。

新しさと上品さがそこかしこに満ち溢れている施設で、各設備もお庭も非常に綺麗。お湯はいまいち個性に掛けますが、ラグジュアリ感が伝わってきて快適でした。台湾の温泉にありがちなBGMが流れることも無くとっても静か。大自然に囲まれながら高台からの絶景を眺望し、小鳥の鳴き声を耳にしながらゆったりとした時間が過ごせることでしょう。雰囲気重視の女性客も満足できる施設ではないかと思います。


高雄客運・頂新発バス停から徒歩40分(約3km)
高雄市六亀区新発里新開路63号 地図
07-6791166
ホームページ

大衆池(露天SPA)200元
ロッカー(10元リターン式)・シャンプー類・ドライヤー・脱水機あり

私の好み:★★
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蘇羅婆温泉 蘇羅婆温泉渡假村 (台湾南部)

2012年05月02日 | 台湾
宝来温泉から荖濃渓の左岸を下流に向かって2kmほど南下すると蘇羅婆温泉(実際には蘇羅婆の各字に口偏が付きます)という温泉地にたどり着きます。大抵の場合は宝来温泉の一部として同温泉に内包されることが多いようですが、明らかに宝来とは離れており別箇の温泉街を形成しているので、ここでは宝来とは区別して取り扱います。


 
宿泊先の「芳晨温泉渡暇村」から宝来の温泉街を抜け、荖濃渓の左岸を下って不老温泉方面へと延びる新宝路を歩きます。この道は88水害によって深刻なダメージを受け、路面が崩落するのみならず、流域に架かる橋も次々に破壊されましたが、その後急ピッチで復旧工事が進められ、破壊された橋も新たに架け替えられました。宝来温泉の出入口にあたるこの「宝来渓橋」は民国100年10月、つまり2011年10月に竣工したばかりの新しい橋です。



橋の先に続く新宝路。何もない平穏な道のように見えますが…


 
沿道には水害の生々しい爪痕がはっきりと残っていました。こちらは道路沿いにあった「新宝来温泉渡假村」跡。土砂が建物をすっかり呑み込んでおり、無残な姿を晒す廃墟と化していました。


 
新宝路は途中から通行止となっているのですが、その代わりに河原へ下って礫の上に設けられた仮設道を通行することが可能です。時々走ってくる工事用の大型車両が砂埃を巻き上げながら走り去り、その度に道を歩く私は全身埃まみれ。3月だというのに灼熱の太陽が容赦なく照りつけているのに、河原の仮設道には日を遮るものが一切無し。砂埃と日光のダブル攻撃によって私は既にヘロヘロ。


 
山の方を見上げると、崩壊して一部が残った新宝路の路肩を発見。右(下)画像の左下に写っているオレンジ色の点は、道路工事中の作業員です。元の道がどれだけの高さに位置していたか、そしていかに被害が甚大であったかが一目瞭然です。


 
(右(下)画像はクリックで拡大)
河原から一気に河岸の上へ急坂で登りきり、道なりに進んでゆくと十字路に突き当たりました。仮設道路により河原へ迂回したので、本来のルートよりも大幅に遠回りしてしまったらしく、宝来からここまで40分近くも歩いてしまいました。十字路の角には保安宮という廟があるのですが、雰囲気から察するにどうやらここが蘇羅婆温泉の中心地のようです。廟の傍には蘇羅婆温泉の地誌を説明している最近建てられたと思しきプレートが立っており、ありがたいことに日本語による説明も書かれていました。要約するとこんな感じ↓…
蘇羅婆(ソロボ)はかつてイバラが茂る荒れ地だったが、やがて原住民が住み着いて開墾されてゆき、その原住民たちが(宝来よりさらに上流に位置する)桃源郷へ移住した後も地名だけが残った。ここは新しく開発された温泉地で、泉質は炭酸水素ナトリウム泉。源泉の採水口は除對Z渓の川中にあり、硫化水素を含んでいるため硫黄臭を有する。河岸の高台が除對Z渓に突き出て川の流れが大きく蛇行しており、その様子は二匹の竜が珠を抱えているかのように見える。
硫黄臭がするのか! 温泉ファンにとって関心を寄せずにはいられません。でも源泉は川の中にあるの? 川は88水害で大暴れしているから、源泉も使えなくなったのではないの? あるいは水害後に新たに源泉を掘り当てたの? もしかして水を沸かして仮営業しているの? 頭の中でいくつもの「?」が一気に発生してしまいました。ま、とりあえず、どこかの施設に行ってみるしかないか…。


 
保安宮のまわりに温泉民宿が点在していましたが、道路が完全復旧していないからか、どの施設も営業しているのか否かわからないほど鄙びており、辺りはひっそりと静まり返っていました。宝来と違って土産物屋も飲食店もない、単なる田舎の鄙びた集落です。人影も見あたらず、野良犬が暇そうにうろついているだけ。


 
何軒か見当をつけた後、最終的には岩に彫られた「天然硫黄泉」という文字に惹かれて「蘇羅婆温泉渡假村」へ入ることにしました。界隈の温泉施設の中では最も川に近い高台に位置しています。



高台には駐車場が広がり、宿泊用の木造ロッジも建てられていました。


 
食堂が併設されている受付棟には、わざわざ建物内に入らなくともいいように、駐車場側に受付専用の小窓が口を開けていました。入浴をお願いしようと窓口へ寄ると、係のおばちゃんは電話を握ってお喋りに夢中。なかなか終わりそうにないので、お釣りが無いように露天SPAの料金をカウンターに置いて、そのまま奥へと進ませてもらうことに。
食堂棟の並びにシャワールーム(兼更衣室)があり、内部はなかなか清潔感がありました。SPAは水着と水泳帽の着用が必要です。
なお撮影していませんが食堂棟の前には貸切個室風呂の小さな木造小屋がたくさん並んでいます。


 
構内はよく手入れされたガーデンの中にプールが点在しており、リゾート施設にいるような心地よい雰囲気です。訪問時は庭師のおじちゃんが客に笑顔で挨拶しながら、花や木の手入れに勤しんでいました。各プールやデッキチェアゾーンには四阿がかかっており、日差しを気にせず楽しめます。一番左の浴槽から時計回りに紹介していきましょう。


 
ジェットバスやジャクジーが設けられた槽「多功能按摩池」。カエルの湯口からお湯が注がれています。湯温は35℃くらい。



「多功能按摩池」の隣の槽には打たせ湯やシャワーのような設備がありますが、お湯は空っぽでカラカラに乾ききっていました。



こちらは温浴槽「湧泉池」。35℃と38℃の2槽に分かれており、なぜか35℃槽から38℃槽の方からお湯が流れていました(普通は熱い方からぬるい方へ流れるのが通例ですが…)。38℃槽のぬるま湯加減が非常に心地よく、入浴していたら微睡んでしまいました。



その右隣の槽にもぬるま湯が張られていましたが、お湯が淀んで鮮度に欠けていたので、ここは利用せず。



一番右の槽は冷水プール「游泳池」。ガンガン泳ぐ人向け。



冷水プールの傍にある小屋はスチームバス。


温浴槽には温泉水が用いられており、施設側の説明によれば炭酸泉と硫黄泉が混合されているんだそうです。ざっくりと表現すれば無色透明無味無臭ですが、ごく薄く白い靄がかかっているようにも見え、特に「多功能按摩池」ではそれが顕著でした。また匂いや味に関しては、石膏らしさこそ感じられたものの、この温泉の謳い文句である硫黄らしさは微塵も感じられず、この点ではかなり期待外れでした。やはり水害以降源泉が変わってしまったのでしょうか。あるいは元々そのようなお湯なのでしょうか。またどの浴槽も共通してお湯からはあまり鮮度が感じられませんでした。おそらくお湯は循環させているのでしょう。


 
お世辞抜きで素晴らしいのはプールサイドの展望台から眺める荖濃渓。視界を遮るものが何一つない大パノラマ。
温泉で寛いだ後に、水着のままデッキチェアーで横になりつつ、この素晴らしい絶景に酔いしれるひと時といったら、筆舌に尽くしがたいものがあります。おそらく蘇羅婆温泉の中では最も優れたロケーションではないでしょうか。
温泉の質はいまひとつとしても、美しいガーデンと眺望に関しては文句は無く、なんだかんだで私もこちらでゆっくり寛いでしまいました。


高雄市六亀区宝来里新宝11-13号  地図
(07)6881405
ホームページ

土日祝10:00~22:00(平日は大衆池休業、個室風呂は営業)
250元
ロッカー(有料10元)・脱水機(有料10元)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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宝来温泉 芳晨温泉渡假村(そして宝来までのアクセス) (台湾南部)

2012年05月01日 | 台湾
台湾南部の茂林国家風景区には大小の温泉地が点在していますが、過疎地の山間部ゆえにほとんどの温泉地は公共交通機関で訪れるのはなかなか困難。その中でも最も訪問しやすい宝来温泉へ行ってきました。日本統治時代から当地に湧く温泉の存在は知られていたそうでして、山深い仙郷のようなロケーションを見た行政官が「まるで蓬莱のようだ」と感じたところから、蓬莱、そして宝来という地名になったんだそうです。


 
高雄駅近くの高雄客運のターミナルからスタート。ここは四重渓へ行ったときにもお世話になりました。本来は宝来まで直通バスが運行されているのですが、88水害で道路がズタズタになった影響なのか、数年前から甲仙を経由する一往復を除いて直行便が休止していたため、途中の六亀でマイクロバスに乗り継ぐことにしました。ということで、窓口でまず六亀までのチケットを購入。
※なお、この数日後に高雄~宝来の直通バスが復活したそうです。


 
高雄のターミナル9:20発の高雄客運の六亀行バス。鉄道の無い地域への交通機関なので、乗車率はまずまず。トイレや荷室もありました。途中高鉄左営駅へ立ち寄り、高速道路を走って旗山や美濃などを経由していきます。


 
車窓には南国らしい景色が続きます。3月だというのに、外は夏のような暑さ。
バスは荖濃渓に沿って右岸を遡ってゆきます。画像では分かりにくいのですが、河原が荒れており、川と道路(27号線)が接近するところでは、道路が損壊して仮設になっている場所もありました。88水害の爪痕がいまだに残っており、復旧工事が続けられているのです。


 
2時間20分もバスに揺られ続けて、11:40に六亀へ到着。


 
とても大型バスが乗り入れているとは思えないボロくて小さな六亀のターミナル。


 
屋根や窓の桟が撓み、塗装の色もくすんでおり、何十年も時計の針が止まっているのではないかと思ってしまう、懐かしい佇まいのバスターミナル建屋。作られた(模造の)レトロは各地にありますが、この建物のような現役のレトロは模造品より遥かに心を惹きつける魅力を放っています。この建物だけでも一見の価値あり。


 
六亀は細い路地ばかりの鄙びた山間集落。


 
六亀からはマイクロバスに乗り継ぎ、30分強で宝来へ。



宝来温泉のメインストリートである中正路。南部横貫公路のスタート地点となる場所ですから、観光客を目当てにした店舗が道沿いにズラリと並んでいました。


 
腹ごしらえをすべく、バス停近くの食堂へ。頭上でハエがブンブン飛び回るテーブルに着席し、まずはチャーハンで炭水化物を補給。


 
そして香檳鳥(ウズラの親戚)の炒め物で脂質やたんぱく質を吸収。鶏の頭がそのまんま入っている大雑把な豪快な炒め方。頭もそのまま食べちゃうんだぜぇ。ワイルドだろ~(すぎちゃん風)


 
この日は宿を決めていなかったので、まずは一晩過ごす宿を選ばなきゃいけません。週末じゃないからどこでも空いているし、料金設定も低めなんでしょうけど、この日は暑くて灼熱の日光が照りつけていたため、あまり方々へ探し歩くのが面倒になってしまい、バス通り沿いで目立っていた「芳晨温泉渡暇村(芳晨山荘)」へ飛び込んでみました。



フロントの人は日本語はできませんが英語が話せたので、英語でやりとりし、案の定余裕で部屋を確保。またこちらの宿のチェックインは本来15時からなんだそうですが、台湾は大抵の場合こうした時間に対して融通が利きますから、チェックイン時間から2時間も早い13時でも問題なく客室へ入ることができました。


 
私はいつものように一人旅ですが、早めに着いたことだし、旅の疲れが出始めていた頃だったので、ちょっと奮発してゆったりすべく、戸建のロッジを1棟まるごと借りちゃいました。奮発といっても2,000元(約6,000円)ですけどね。


 
客室内の様子。よく手入れされており、綺麗で良いお部屋。ホテルで一般的な備品やアメニティは一通り揃っています。冷房も使えますが、この日は窓を開けたら爽快な風が室内へ流れ込んできたので、文明の利器の力は借りず、天然の涼風で快適に過ごせました。


 
客室内のお風呂。バスタブのすぐ横に便器が設置されているので、せっかくのバスタイムも排泄という人間の摂理に向き合わなきゃいけないんのはちょっと残念なところ。浴槽自体は少人数向けの部屋にしては大きめの造りになっており(2人サイズ)、SPA的な雰囲気を醸し出したい意図なのか、お湯の水栓から湯舟に向かってスロープのような流路が設けられていました。


 
お湯を溜めるとこんな感じ。浴槽が大きいからか、スロープ上の蛇口と、湯舟の上のシャワーの両方を全開にしても、湯舟が満たされるまでは20分近く要しました。微かに白っぽく霞んでいるように見えるお湯はほぼ無色透明と表現して差し支えなく、更には無味無臭でもありました。いや、かすかに石膏や芒硝らしさがあったような気もします。いずれにせよ、掴みどころの無い特徴の少ないお湯でした。


 
ロッジの前には荖濃渓が。
88水害で大暴れしたため、現在も災害復旧工事中。かつては河原に野湯もあったらしいので、ちょこっと散策してみましたが、水害によって河原の状況が変わった上に、工事で河原がすっかり人工的になったため、野湯らしきものは全く見当たりませんでした。


 
こちらは露天温泉プール「大衆池」。河原を望む爽快なロケーションです。この時はシーズンオフだからか、あるいは平日だからか、ぬるいお湯が浅く溜まっているだけで、まったく利用できませんでした。夏は川や山を眺めながら気持ちよく水浴びできそうですね。プールサイドには「湯の屋」と彫られた岩が置かれています。



大衆池の傍には、なぜか巨大な金精が天に向かってそそり立っていました。角度的にはそんなに若くなさそうですけど…。


 
大衆地に隣接して個室風呂が並んでおり、宿泊者は無料で利用できます。フロントに利用したい旨を伝えると個室のカギが手渡されました。各部屋の名前には春夏秋冬や花の名前が冠されており、今回あてがわれたのは「夏の屋」というお部屋でした。なお利用時間制限は1時間。


 
個室に入ると、内部は川に向かって開放されている半露天のような構造になっており、一人では空間を持て余してしまう程のスペースが広がっていました。竹を多用したなかなか良い雰囲気の内装です。入口の横には詰所の係員が座るような机と椅子が置かれ、その傍に入浴前の洗体用のシャワーが取り付けられています(画像のシャワーカーテンの箇所)。


 
入室したら、まずは湯船にお湯を溜めましょう。お風呂は日本の岩風呂風。湯・水ともコックが岩の形状をした吐水口の下にあり、けだし湯口を目立たなくするためにこのような設計にしたのかと思われますが、手を岩の下に潜らせなくてはいけない上、水栓の開閉の度に水や湯で腕を濡らさなねばならず、お湯の加減がわからないうちは火傷しそうになったりして、コックの操作はかなり面倒でした。でもお湯の投入量は多く、あっという間に入浴できるまでの嵩まで溜まりました。お湯の温度は結構熱いので若干の加水は必要です。お湯は客室と同様に無色透明無味無臭で癖の無い優しい浴感でした。


 
川側にはテラスが設けられ、ガーデンテーブル&チェアが置かれています。周囲は緑の山、白い飛沫を上げる渓流、そして真っ青な空が広がるばかり。静かで自然豊かな環境です。湯船から上がってここに座り、ヨシズ越しに吹いてくる川の風でクールダウンすると、とっても爽快。


 
夕食はホテルのフロントにショップカードが置かれていた「姉妹快炒店」という名前の店へ行くことに。看板から察するに、このお店は布農(ブヌン)族料理のレストランのようです。終始ニコニコ笑顔を絶やさず、はきはきと働く奥さんが印象的。



注文したのは芹菜山豬肉(台湾セロリとボタン肉の炒め物)・梅汁炸豆腐(梅干しのあんかけを載せた揚げ豆腐)・竹筍湯(この時期が旬だったタケノコのスープ)の3品。いずれもとても美味でしたが、特に梅干しの味は日本で食べるものと殆ど変りなく、布農族と日本との間に共通する食文化があることを認識できました。



宿泊料金には朝食が含まれていたので、翌朝フロントに隣接しているカフェルームへ行ってみると、テーブルの上にはミルクコーヒーとサンドイッチがポツンと一組置かれていました。まさか…。フロントの兄ちゃんに「これって、もしかしたら?」と尋ねてみたら、兄ちゃんは「そうですよ、さぁどうぞ」と満面の笑みで答えるのです。朝食ってこれだけ? 兄ちゃんの笑顔に対して不釣り合いなほどショボい内容に戸惑いを隠せませんでしたが、これが御当地流なのかもしれません。客が少ないので、わざわざ厨房で朝食をつくるのは不合理ですしね。

ところで宝来温泉は88水害で源泉が壊滅的被害を受けてしまい、各宿泊施設への配湯がしばらく止まっていたそうですが、その後復旧作業によって配湯が徐々に再開されて今に至っているんだそうです。客室内や個室風呂には、温泉は源泉から引いている天然のものである旨が説明されていましたが、しかし宝来温泉の配湯は完全復旧までには及んでいないという情報もネット上で見受けられ、客室や個室風呂で入浴できた無色透明無味無臭の特徴のないお湯が、果たしてホンモノの温泉であるのか、正直疑念を拭いきれませんでした。尤も、水害前の温泉も特徴の少ないお湯だったそうですから、私の疑念は的外れなのかもしれませんが…。宝来温泉は、お湯にこだわる人には物足りないかもしれませんが、ゆったりとした時間の中で綺麗な空気を吸いながら、山間の長閑な雰囲気を満喫するにはもってこいの仙境でした。


高雄駅近くの高雄客運バスターミナルから宝来行バスで約3時間。
高雄市六亀区宝来里中正路132号  地図07-6882311
ホームページ

入浴のみ300元(だったはず)
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント
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