今日(11/9)の読売朝刊に、対 “イスラム国” 支援強化として、米軍のイラク派遣を倍増すると、オバマ大統領が
承認したと報じられていました。
記事によれば、米軍は、これまでに1600人の派遣が承認済みであり、今回の倍増(1500人)で、合計3100人となる。
イスラム過激派組織 “イスラム国” と戦うイラク軍等の部隊の訓練や作戦面での支援をするためだそうです。
米軍は、首都バクダッドと北部アルビルに、イラク軍との共同作戦センターを設置し、新たな攻勢地域であるアンバル県などに支援拠点を置く・・とされていました。
ミヤンマーで12日に開催される “ASEAN” (東南アジア諸国連合)首脳会議で、採択される声明に
「イスラム過激派組織 “イスラム国” について、放置すれば中東だけでなく、世界の脅威」と非難する文言を盛り込む
方針が固まったそうです。 ASEAN各国が危機感を強めるのは、イスラム国の過激思想に共鳴する若者らが
インターネット上などで勧誘に応じ、現地に渡航しているためで、 米軍によると、アジア太平洋から約1000人が
イスラム国への参加を目的にイラクに向かったとしている。 約2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアでは、
新興イスラム過激派組織が勧誘を行っているという。
19年前の地下鉄サリン事件(1995年)で、その脅威を見せつけたオウム真理教に、大勢の高学歴を持つ有能そうな
若者が入信していたことを思い出しました。 このような思想になぜ共感するのか全く理解ができませんでしたが、
今また、インターネットなどにより、より広範囲に世界的に、より早く勧誘する手段を使用するこれらの組織の恐ろしさに
マサに直面しているのです。
イスラムについて、聖典コーランという名前とメッカに向けた礼拝、豚肉を食さない、ラマダンがある・・など
断片的な言葉くらいしか知らない身として、このような記事をアップするなど、身の程をわきまえない 誹りを覚悟して
いますが、先日、少し以前ですが、例のH氏から配信された記事に触発されて、今日的な大問題に注目してみました。
ネット地図を少し加工して、以下に掲載させていただきました。
(ネット地図を加工しました)
それでは、配信されました記事をコピペします。
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「イスラム国を知っておく:スンニ派不満分子を取り込み石油と恐怖で支配地域拡大」
池田 明史(東洋英和女学院大学学長)
週刊エコノミスト(http://www.weekly-economist.com/)2014年9月30日号 p46-48
【要旨】米国に続き英国も空爆に参加することが議会承認されるなど、ますます大規模な国際紛争に発展しつつある
イスラム国問題。
イスラム国とは、シーア派とともにイスラム教二大宗派の一つであるスンニ派が、最高指導者カリフのもとに
樹立しようとしている国家だ。その勢力範囲はイラクとシリアの北部地域に広がっている。油田地帯を制圧している
ことや、異教徒・異宗派への容赦ない攻撃、欧米の人質に対する残虐な行為などから国際社会からの激しい
非難の的となっている。本記事は、そのイスラム国をめぐる現状と、これまでの経緯をわかりやすく整理して解説。
その勢力範囲の拡大には限界が見えていることなどを踏まえた今後の動向と、それに対して国際社会はどのような
考え方で対処していくべきかを論じている。
筆者は、中東現代政治、紛争研究を専門とし、2014年4月から東洋英和女学院大学学長を務めている。
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イスラム国は、アルカイダの唱えるカリフ(スンニ派イスラム最高指導者)復興の主張に共鳴し、2003年の
イラク戦争によってサダム・フセイン体制打倒後のイラクに進駐したアメリカ軍に対する攘夷主義的な武装抵抗運動から
出発している。 「イラク・イスラム国家」建設を掲げた彼らは、国外のアルカイダ系武装勢力を呼び入れ、
また国内ではサダム・フセイン体制下で享受していた既得権を剥奪されて不満を募らせていたスンニ派諸部族と結んで、
06年ごろは暫定政権を脅かすほどの勢力を誇示した。しかし、国外からの活動分子のふるまいに対する反発や、
イラク暫定政府がスンニ派の懐柔・取り込みといった融和政策に転じたために行き場をなくし、北西部のシリアとの
国境近辺に押し込められていたのである。
その彼らがここ数年で勢いを盛り返し、いまやイラク中部から北西部にかけて全領土の3分の1に及ぶ地域を
影響下に置き、さらにシリア領内にも進出して北東部を中心に支配地を広げている。要因は大きく二つ挙げられるだろう。
第一は、暫定政権を引き継いで新生イラク最初の正式政権となったヌーリ・マリキ内閣が、あからさまなシーア派
優遇路線に終始してスンニ派の疎外意識を格段に強化してしまったことである。
第二の要因は、シリア内戦である。11年の内戦勃発時には単純な構図であったが、その後反政府側の分断・分裂に
よって複雑怪奇な状況が生まれた。 イスラム国は、そこに付け込む格好で13年以降北部シリアに勢力を伸ばし、
トルコとの国境一帯の支配をクルド人勢力や他の反政府勢力と争いながら地歩を固めていった。
イスラム教スンニ派の極端な解釈に立って、異教徒・外国人の排撃を呼号して武力闘争を展開している点では、
現今のイスラム国も、母体となったアルカイダや西アフリカのボコ・ハラム、ソマリアのアル・シャバブ、あるいは等しく
シリア内戦を戦うヌスラ戦線など他のスンニ派過激勢力も同じである。
6月末に自らカリフを名乗ってイスラム国の樹立を宣言したアブ・バクル・アル・バグダディは、その支配を
東地中海(レバント地方)一帯に拡大して全世界のスンニ派ムスリム人口を指導し、異教徒・異宗派に聖戦を挑む
との構想を明らかにした。一方で、イラクではモスルまで進撃し、シリアでは東部デリゾールまでを制圧し、
いずれも相当規模の油田と製油施設を支配下に置いた。他の諸運動が「点と線とを結ぶ」遊撃的な戦闘に終始する
ばかりであるのに、イスラム国は明らかに「面の制圧」を目指した軍事作戦を展開している。
統治よりも戦闘(つまりテロ攻撃)を重視している他の過激派と異なり、イスラム国は、「カリフの下の統治」を
優先させているかに見える。支配地域においては、ムスリム男性を徴兵し、イスラム国に従う異教徒・異宗派からは
人頭税(ジズヤ)を取り立て、反抗する勢力を組織的に殲滅するという形で、彼らなりの実効支配を展開している。
それを可能にしているのは、日量で3万~4万バレル程度と推計される石油密売収入と、イラク、シリア両国政府が
イスラム国の存在を否認しているがゆえに、イスラム国の版図に含まれる自治体に対してなお公務員・教員などの
給与を支払っているという逆説による。ことさらに残虐さを見せ付けるのは、イデオロギー上の自己主張による以上に、
イラクのサダム・フセイン体制やシリアのアサド政権が残した「恐怖による支配」の成功事例に倣うという側面が
強いように思われる。
カリフ本人の出自はバグダッド近隣であり、イスラム国が土着的社会基盤を持つ「本領」はイラクのスンニ派居住圏で
ある。その意味では、その拡大はほぼ限界線に到達している。イラク北方や中南部以南はシーア派民兵の本拠地である。
スンニ派地域での作戦には戦意が見られなかったこれらの民兵諸派も、彼らの本拠地の侵犯に対しては政府軍と並んで
死守の構えを示している。シリアにおいても、イスラム国の統治を進んで受け入れているのは、北東部のイラクとの
国境沿いに点在するスンニ派地城に限られている。
寸断されたシリア北部から中北部の間隙を埋める形で進撃したイスラム国の主力は、外国人義勇兵の部隊と
見られる。イラク人将兵主体のイラクにおけるイスラム国軍事力とは対照的に、シリアではチェチェン人その他の
外国人司令官が混成部隊を率いる例が珍しくない。
12,000人に上るといわれるイスラム国外国人兵士の出自は、多くがスンニ派アラブ圏だが、欧米からも
ムスリム系移民の若年層が戦列に加わりつつある。その総数は3,000人を超えるとされ、国籍はフランス700人、
イギリス400人、ドイツ250人、アメリカとカナダかそれぞれ100人などとなっている。
フェイスブックやツイッターなどSNSを通じた英語による募兵キャンペーンの成果であろうが、これに応じる若者たちの
動機は、文字通り「神の召命」と捉える者から現実社会への復讐や逃亡、あるいは単純な冒険欲求まで、実に
さまざまである。
かつて「国際階級闘争」を呼号して国内外でテロやハイジャックを繰り広げたイタリアの「赤い旅団」や、日本赤軍などの
現象のイスラム版を想起すれば、なぜ「怒れる」あるいは「孤独な」若者たちがイスラム国に吸引されるのか、
わかりやすいかもしれない。
欧米各国の政府は、英米人人質の「処刑」などの残虐行為が、自国出身のこうした義勇兵の手による犯罪だとの
事実を突きつけられて戦慄を隠せない。その彼らが再び自国に帰還あるいは潜入して大規模テロを引き起こす
可能性は捨てきれないからである。
いずれにせよ現在、イスラム国は国際社会全体にとって「いま、そこにある脅威」としてその動向に深刻な懸念が
向けられている。最大の問題は、しかし、国際社会の側にイスラム国を生んだ中東アラブ・イスラム世界に対する
中長期的な戦略が欠けているところにあろう。 オバマ演説では、イスラム国支配地域(とりわけシリア)への空爆の
拡大とイラク政府軍や自由シリア軍など現地連携勢力への武器兵站供給・訓練といった間接支援、さらには
友邦諸国との情報共有といった具体的な施策を示した。「敵の敵は味方」という論理によって、つい最近まで
反目していた諸勢力がイスラム国を共通の撲滅対象として暗黙裏の連携を見せ始めているのも事実である。
しかしそれはどこまでも、対症療法的な作戦方針であり戦術的な達成目標にすぎない。
「アラブの春」でいったんは膨らんだ期待がその後の内戦や混乱で急速にしぼみ、閉塞感が蔓延する中東各地の
状況をどのように収拾するのか。「自由で寛容なイスラム世界の実現を目指す」といいながら、「いかにして」との
疑問には答えぬままである。この点について戦略的な展望を示せない限り、イスラム国が国際社会の喉元に
突きつけているやいばを外すことはできないであろう。
(週刊エコノミスト購入リンク http://www.weekly-economist.com/)
コメント: イスラム国問題で注目、注意すべきは欧米の若者たちのイスラム国側の義勇軍への参加だ。
本記事にあるように「現実社会への復讐や逃亡、あるいは単純な冒険欲求」という動機が真実であるならば、
それは宗教やイデオロギーが、それらとは無縁の行動モチベーションに恰好の場を与えているという構図になる。
これは、かつてのオウム真理教、さらには国家宗教が国民を戦争へと導いた構図とよく似ているのではないか。
現代ではSNSがそれを媒介するおかげで、世界規模での動きに発展している。これまでの民族や宗教の対立による
紛争・テロよりも複雑になっていることに留意して解決への糸口を探っていくべきだろう。
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