時代によって、好きな花 というのは違っているようです。もちろんその時代には、まだその花が無かったということも
あるでしょう。 やはり、その時代の人々の価値観というか時代そのものが有している背景というのも影響しているように
思います。
先日の園芸友の会では、講師先生(工藤忠氏)は、いつもは会員の質問(事前提出)に応えるという形で進行されますが、
今回は会員からの質問は無しで、先生の体験を通じた幅広いお話がありました。
先生は東京都農業試験所栽培部花卉研究室に長く席を置かれ、その間利島(伊豆諸島)での “サクユリ” の
品種改良に成功されたり、ニホンサクラソウの改良も手掛けられたり、花卉の大きさや開花時期を制御するなどの
産業面での有効薬剤等の開発・実用化に注力されたそうです。 農業試験所を退職された後も、専門学校で教鞭を
とられたり 神代植物園でのベゴニア栽培にも取り組まれていたそうです。
先生の専門学校教授時代に発表された 『花の好みも世につれて』 と題する記事が紹介され、興味がありましたので、
以下に抜き読み(コピペを含みます)で、ご紹介します。
奈良時代、万葉集4516首の中には、166種類の植物が登場するそうですが、この中から詠まれた植物の数の順に
ベスト10をあげると、ハギ(141首)、ウメ(118首)、がダントツに多く100首を超え、以下、マツ、タチバナ、サクラ、
アシ、ススキ、スゲ、ヤナギ、フジと続いているそうです。 サクラは50首に出現し第5位ですが、ここにはキクが
1首も詠まれていないのは、この時代にはまだ、キクが出現しておらず、平安、鎌倉時代に広く人々の目に触れるように
なったそうです。
キクは古今集では詠まれるようになり、後鳥羽上皇はキクを愛用し、文様にも用いたことから、皇室の紋章の起源に
なったといわれているようです。 サクラは、ヤナギとともに平安京の街路樹となり貴族の庭にも栽培され、
古今集ではウメとサクラの歌の数は逆転し、サクラがキクとともに最も好まれる花という立場を確立したとあります。
更に室町時代になると、ただ花を観賞するだけでなく、好きな花へと積極的に品種改良がおこなわれるようになり、
とくに、ツバキは京都の公家が、サクラは鎌倉の武士たちが熱心に品種改良を進めたとか。 また、この時代には
茶道や華道が始まり、花の文化と強いかかわりを持つようになったようです。
江戸時代に入ると、園芸植物の品種改良が驚異的に発展したそうです。 中でも、ツツジ、シャクヤク、ツバキ、ウメ、
ボタン、キクなどが盛んに品種改良されたとあります。 技術的方法としては、自家受粉、自然交雑の種子を栽培して、
変わりもの、優れものを選んでゆく “選抜育種法” が基本であったといいますから、気の長い話ではあります。
近年に入り、1960年代の日本経済の成長期に入ると、いわゆる “軽薄短小” を反映した、花の世界でも
“5つのS” という現象が始まりました。 すなわち、スマート、シンプル、スモール、ソフト、センシティブな花と緑に
人気が集まりますが、この現象は現在でも見られるところです。
ごく最近の一般的な調査では、1983年では、表1のように、サクラ、バラ、キクの順で好きで、1989年の表2では
(調査母体や対象は同じではありませんが)バラ、カスミソウ、キク、ランの順で、カスミソウやランが上位に入っています。
また、先生が講師を務められた花卉の専門家集団の1994年の調査では、表3のようにバラ、カラー、チューリップ、
カスミソウ等であり、プロらしい少し変わった結果が出ています。 好きというだけではなく、販売や贈り物という側面も
入っているのかもしれません。 しかし、先生によれば、4年間330人の調査で、1票も入らなかった主な花に、
シャクヤク、ダリア、ベゴニア、ハボタンなどがあり、重ねの厚い量感豊かなものは若い人たちには苦手なようだと
結ばれています。
表1 好きな花1983年(NHK調査)
順位 |
種類 |
1 |
サクラ |
2 |
バラ |
3 |
キク |
4 |
チューリップ |
5 |
スズラン |
6 |
コスモス |
7 |
ツツジ |
8 |
スミレ |
9 |
ウメ |
10 |
カーネーション |
表2 好きな花1989年中小企業情報センター調査
順位 |
種類 |
1 |
バラ |
2 |
カスミソウ |
3 |
キク |
4 |
ラン |
5 |
シクラメン |
6 |
コスモス |
7 |
カーネーション |
8 |
ユリ |
9 |
チューリップ |
10 |
キキョウ |
表3 好きな花1994年JFTDカレッジアンケート
順位 |
種類 |
1 |
バラ |
2 |
カラー |
3 |
チューリップ |
4 |
カスミソウ |
5 |
ヒマワリ |
6 |
ガーベラ |
7 |
サクラ |
8 |
スートピー |
9 |
ユリ |
10 |
グロリオーサ |
ところで、私に “好きな花は?” と聞かれれば、何を挙げようかと迷ってしまいます。
あれこれ花の名前を挙げてみて、どれもその時季に美しいそぶりを見せるので、これだと決める花はありませんが、
強いて挙げるとすれば、ハナミズキ、サギソウ、サクラ、レモンの花、スイセンでしょうか・・。
今日は、どんよりとして、一日中小雨が降る寒い日でした。
小田原城 菊花展より