三浦しをん原作の「舟を編む」の映画(2013年公開)を、一昨日(12/12)NHK
BSで観ました。
新しい辞書「大渡海」を編纂する辞書編集部を舞台に、辞書を作る膨大で緻密な
作業を成し遂げるまでの苦労や発見を主に、中に主役の松田龍平と下宿大家の孫娘
(宮崎あおい)との恋なども織り交ぜて構成されています。石井裕也監督で第86回
アカデミー外国語映画賞の日本代表作品に選出され、第37回日本アカデミー賞では
最優秀作品賞、最優秀監督賞ほか6冠を獲得しているそうです。
「大渡海」は、「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」
との意味から名付けされているとありました。
(ネット画像より)
「舟を編む」は、拙ブログ6年前の2016.2.27に記事投稿していました。この時は、
友人S氏から「この本を読んでみたら」と手渡されたのでした。本で読んだ感想を、
ブログ記事に取り上げたのですが、今回、映画を観て、本で読むのと映画では異なり、
本の場合は、登場人物や職場などの風景などは読者(自分)の創造の中で作り上げ
ていますが、映画の場合は、俳優や職場などが実物で表現されていますから、自身
の想像の入る余地がなく、目から入る情報に限定されているということに、当然な
がら改めて認識したのでした。
1シーン
(ネット画像より)
読書後の感想を、かってのブログ記事から抜粋していかにコピペしました。
『「船を編む」(三浦しをん、2015.3.20初版、光文社文庫)は、新しい辞書「大
渡海」を編纂する、15年に亘る歳月をかけた“ことば”との戦いにおける苦労話と、
辞書編集部の主人公始め部内社員や関連する人々のユニークな個性の絡み合いが織
りなす特殊な世界も、自らも経験したビジネス とくに重要な大プロジェクトを前に
して一喜一憂したそれぞれの場面が再現されているようにも感じたりして、大変面
白く一気に読んでしまいました。
文庫本「舟を編む」
(光文社HPより)
「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」 という
意味でこの書名が付いているといっています。 そして、完成した辞書は『大渡海』
という名がつけられています。何万語という見出し語をどのように選定するか、ま
たそれぞれの語の意味をどのように説明するかなどから始まって、それ(辞書)を
必要とする人、利用する人のそれぞれの立場をどのように設定するか・・など、
これまで、そのようなことは考えてもみなかったことなので、大変新鮮な感じであ
るとともに、なるほどそう言うものなのだと気づかされたのでした。
たとえば、文中に出て来る中から、【西行】という見出し語の原稿として、「平
安末・鎌倉初期の歌人、僧。法名は円位、俗名は佐藤義清」は、 何だかぶっきら
ぼうな感じがするし、あまりグッとこない。「北面の武士として鳥羽上皇に仕えるも。
23歳で出家。以降、諸国を旅し、自然と心情を詠んで独自の歌風を築いた。『新古
今和歌集』には94首と最多歌数を採録。歌集に『山家集』など。河内の弘川寺で没。」
ここまであればいうことなし。 しかし、【西行】には、人名の他の意味があると
いう。「不死身」「遍歴する人、流れ者」などの意味があるとの理由などの説明が
記されている。
また、【愛】という項目について、話題にするところがあります。語釈に①かけ
がえのないものとして、対象を大切にいつくしむ気持ち。「愛妻、愛人、愛猫」と
説明している辞書があるが、これには問題がある・・といっているのです。愛妻と
愛人を併記しているのと、かけがえのないもの という点が矛盾している。つまり
愛妻と愛人のどちらが大切かとか、猫と同列にしている。 また、もし、ここに
「異性を慕う気持ち」などとあったら、これも「異性」だけではないから むしろ
辞書としては問題である。 そんな風なことも論じられていて面白い。
大渡海
(ネット画像より)
辞書を完成させるには、これらの見出し語の選定、意味・内容記述、編集、校正
などの流れの他に、用紙開発、抄紙機の調整、印刷、製本、デザインなどなど一連
の仕事がうまく調和しながら進められなくてはならない。非常に広い範囲の、また
深い技術的要素も関連していることが理解できます。もちろん、目的とする辞書の
大きさ、ページ数、価格など全体企画があることは言うまでもありません。
「大渡海」専用の薄い、軽い、裏写りのない“究極”の用紙開発が述べられてい
て、これらの要素の他に“ぬめり感”が大事だと言っている。ページをめくる時、
指に吸い付くようで、しかも1ページずつしかめくれない、そんな感じが必要だと。
以前、私が製紙工場を見学させてもらった時、一連の工程の最後に、広い部屋に
積まれた“用紙”を1枚ずつ人手で検査しているところがあり、質問したことがあ
りました。
“なぜ、こんな風に1枚ずつ検査しているのですか?” “用紙は、辞書などに使
われる紙で、例えば小さなゴミが付いていたりすれば、もし「大」という文字の右
上にあったり、中央の下にあったりすると、文字そのものが異なったものになって
しまうからです” そんな記憶がまざまざと思い出されたのでした。
小説が設定されているロケーションは、辞書ということから、会社は神保町にあり、
下宿は春日、そして結婚した相方 香具矢さんが営む割烹「月の裏」は、なんと神
楽坂にあり、製紙会社本社は銀座にある・・など、馴染の深い場所ばかりで身近に
感じられました。 神楽坂・・狭い石畳の路地のどん詰まりに一軒家、とか毘沙門
天の横を通って、などとその辺界隈のイメージですが、先の「神楽坂研究(1)」
からみると、どのあたりの割烹か? あるいは、全くの架空のお店なのか? つま
らない興味も出てきたりしました。
3000ページに及ぶ、「大渡海」の完成祝賀パーティでの関係者の心境、苦労の末
の完成の喜びと、その道程が込み上げる思いは、それぞれ感動するものがありました。』
映画では、加藤剛、八千草薫らの懐かしい姿がありました。
Chris Spheeris - Eros