「精霊の守り人」に始まる守り人シリーズの完結編と位置づけられた3部作の第1部。
30代半ばとなった短槍使いの女用心棒バルサが、タルシュ帝国の侵略の危機を前に新ヨゴ皇国の危機を救うために隣国との同盟を求めて単身奔走する青年皇太子チャグムを追ってロタ王国内に潜入してチャグムの危機を助けつつ旅に同行するというストーリーです。
これまでのシリーズが王家・政権内の諸グループの陰謀とそこに巻き込まれた皇族とさらに巻き込まれたバルサ(とその愛人のタンダや師匠のトロガイ)というような構図だったのですが、この作品では数カ国間の戦争とそれぞれの国の政権内の各グループの思惑が入り乱れ、より重層的な構造になっています。鎖国・籠城の戦争(迎撃)方針を固めた新ヨゴ皇国で防波堤役に徴兵される「草兵」たち(タンダも徴用されています)の姿も描かれ、戦争で犠牲になる庶民の様子も意識させています。全体として、シリーズの総決算という思いがあるのでしょう。かなり大きな構想で描かれている感じがします。
主人公のバルサの強靱な肉体と精神力は相変わらずで、このシリーズの魅力はそこにあると私は感じていますが、同時にバルサももう30代半ばで次第に体の衰えを感じ、子供を産む体だとか腰を落ち着ける時期とか言われて少ししんみりとタンダのことを考えたりもしてしまいます(すぐにまた自分は用心棒稼業を辞めることはできないと考えるのですが)。このあたりのバルサの迷いにも、私は、作品の深みを感じています。若くて超人的な主人公ではなく、あえて30過ぎの女性を主人公にした以上は、強さと戦いだけでない人生のあり方を考えさせ・考えざるを得なくなります。作者がこの完結編でそれをどう描くのかも(もう原稿は書き終わっているようですが)見どころだと思います。
第1部がバルサがチャグムと再会できたところまで書いているのは、読んでいてホッとします。3部作と決まっているわけですから、売りたい気持ちが前に出る作者・編集者だったらその直前で第1部を切る(例えば319頁で止める)なんてやり方だってあり得るわけです。それをしないのは作者の良心(自信かな)なんでしょうね。
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上橋菜穂子 偕成社 2006年12月発行
30代半ばとなった短槍使いの女用心棒バルサが、タルシュ帝国の侵略の危機を前に新ヨゴ皇国の危機を救うために隣国との同盟を求めて単身奔走する青年皇太子チャグムを追ってロタ王国内に潜入してチャグムの危機を助けつつ旅に同行するというストーリーです。
これまでのシリーズが王家・政権内の諸グループの陰謀とそこに巻き込まれた皇族とさらに巻き込まれたバルサ(とその愛人のタンダや師匠のトロガイ)というような構図だったのですが、この作品では数カ国間の戦争とそれぞれの国の政権内の各グループの思惑が入り乱れ、より重層的な構造になっています。鎖国・籠城の戦争(迎撃)方針を固めた新ヨゴ皇国で防波堤役に徴兵される「草兵」たち(タンダも徴用されています)の姿も描かれ、戦争で犠牲になる庶民の様子も意識させています。全体として、シリーズの総決算という思いがあるのでしょう。かなり大きな構想で描かれている感じがします。
主人公のバルサの強靱な肉体と精神力は相変わらずで、このシリーズの魅力はそこにあると私は感じていますが、同時にバルサももう30代半ばで次第に体の衰えを感じ、子供を産む体だとか腰を落ち着ける時期とか言われて少ししんみりとタンダのことを考えたりもしてしまいます(すぐにまた自分は用心棒稼業を辞めることはできないと考えるのですが)。このあたりのバルサの迷いにも、私は、作品の深みを感じています。若くて超人的な主人公ではなく、あえて30過ぎの女性を主人公にした以上は、強さと戦いだけでない人生のあり方を考えさせ・考えざるを得なくなります。作者がこの完結編でそれをどう描くのかも(もう原稿は書き終わっているようですが)見どころだと思います。
第1部がバルサがチャグムと再会できたところまで書いているのは、読んでいてホッとします。3部作と決まっているわけですから、売りたい気持ちが前に出る作者・編集者だったらその直前で第1部を切る(例えば319頁で止める)なんてやり方だってあり得るわけです。それをしないのは作者の良心(自信かな)なんでしょうね。
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上橋菜穂子 偕成社 2006年12月発行