伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

マグヌス

2006-12-14 08:55:09 | 小説
 第2次大戦末期5歳の戦災孤児だった「マグヌス」が、ナチスの戦犯の家庭の養子とされ、逃亡生活、養親の失踪と死亡、親族(ナチス批判勢力)家庭への引取、旅先で知り合った文化評論家の女性との同棲とその女性の死亡、かつての憧れの女性との同棲と戦犯の養親の発見と女性の死亡を経て隠遁生活に入るというストーリーを展開しながら、マグヌスの自分探しを追い描いた小説です。
 「マグヌス」は、実は本名もわからない主人公が持っていた、そしてその後の旅の同伴者のクマのぬいぐるみに書かれていた名前です。

 テーマは重く、やや観念的で、200頁ほどの比較的薄い本なのに読むのに時間がかかります。文章自体は美しく、観念的な表現の部分も重苦しくなくむしろ流れるようにつづられています。文体だけ見ればすぐに読み切れてしまいそうに見えるのに、なかなか読み飛ばせませんでした。
 どう表現してよいのか言葉に困るのですが、久しぶりに作品の質というか品というか、あるいは格というか、そういうものを感じる作品でした。
 おもしろいかと言えば、そうは言いがたいし、方向性について共感するということでもないので、人にお薦めという感じもしないのですが、テーマと文章の美しさは一読の価値ありと思います。
 章の代わりに「断片」としてナンバリングされ、その間を解説文と詩的な文章がつないでいます。「断片」が2から始まるのに最初とまどい、誤植かとも疑いますが、後で時を遡った断片1が登場します。最後の方で断片0が登場しますが、これは時を遡っておらず謎めいたナンバリング。

 この種の作品を読むとき、いつも自分が何者か(出身、ルーツ)がそれほどまでに重要なのかと考え込んでしまいます。ラストはそこからの解放かさらなるこだわりか、自由な読みを残すものと思います。私は前者と読みたいですが。


原題:MAGNUS
シルヴィー・ジェルマン 訳:辻由美
みすず書房 2006年11月10日発行 (原書は2005年)
コメント
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