アメリカ(サンフランシスコ)の弁護士事務所の東京オフィスが、日本の依頼者向けにアメリカの民事訴訟の手続について説明した本。
手続中心の説明で技術的なこともあって企業の法務担当者や弁護士以外にはかなり取っつきにくい本ですし、法律用語の訳がちょっとしっくり来ないところがあるのが難点。また、主な読者をアメリカで訴訟リスクを抱えるあるいは訴訟を希望する日本企業の法務担当者(顧問弁護士も含む?)と想定しているので、説明に使われる事例が企業間の特許紛争のケース中心というのも、一般読者にはなじみにくいと思います。
しかし、そこを乗り越えることができれば(けっこう高いハードルですが)、アメリカの訴訟手続に興味がある読者には有益な本だと思います。
私のサイトで裁判手続について書いているページで時々アメリカとの比較を書いていますが、アメリカの裁判を支えているディスカバリーという証拠開示手続は弁護士にとっては(有能な弁護士にとっては、かも知れませんが)極めて魅力的です。証拠を隠す当事者(企業)に対して裁判官が関与して強い制裁の下に証拠提出を強制している事例は、日本の庶民側の弁護士にはうらやましい限り。この本で紹介されている事例では、訴訟に関連する電子データの保全を怠った企業に100万ドルの罰金が科されたとか、保全命令に違反して電子メールを破棄した企業に対して2750万ドルの罰金が科されたそうです(70頁)。読んでて、桁間違えてるんじゃないかと思うほどすごい額ですね。
ただ同時に、ディスカバリーの最も重要な手続のデポジション(証人尋問)では裁判所の速記官の立ち会いの下で証人予定者を尋問できて、これがあるから弁護士は審理前に証人の証言内容を知ることができる上に証人にはデポジションと違うことを言えない(言ったら前には違う話だったでしょうと指摘できる)よう拘束をかけられるという尋問を行う弁護士には楽園のような条件が得られるのですが、この裁判所速記官の日当が1日1000ドル以上(82頁)、ビデオ録画者の日当や専門家証人の日当もあって、かなり費用がかかるのは、庶民側には辛そう。
そういう費用の問題は感じますが、アメリカの訴訟手続は、手続上の公正さ・公平さということに関しては、かなり気を遣っていると思います。アメリカの法律は自由競争重視の弱肉強食的な部分が多々ありますが、同時にこと手続の公正・公平に関してはかなり徹底しています。
昨今の日本の政治は、法律をアメリカ型の弱肉強食型にどんどん変えていますが、手続の方は見習っていません。こういうやり方ではアメリカ以上の弱肉強食社会になると思います。今のような法改正を進めるなら手続の方もアメリカ型にするべきだと私は思うのですが。そういうことを考えるのにも役に立つかも知れません(著者はそういう視点では書いていませんが)。
モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所
有斐閣 2006年11月10日発行 (初版は1995年)
手続中心の説明で技術的なこともあって企業の法務担当者や弁護士以外にはかなり取っつきにくい本ですし、法律用語の訳がちょっとしっくり来ないところがあるのが難点。また、主な読者をアメリカで訴訟リスクを抱えるあるいは訴訟を希望する日本企業の法務担当者(顧問弁護士も含む?)と想定しているので、説明に使われる事例が企業間の特許紛争のケース中心というのも、一般読者にはなじみにくいと思います。
しかし、そこを乗り越えることができれば(けっこう高いハードルですが)、アメリカの訴訟手続に興味がある読者には有益な本だと思います。
私のサイトで裁判手続について書いているページで時々アメリカとの比較を書いていますが、アメリカの裁判を支えているディスカバリーという証拠開示手続は弁護士にとっては(有能な弁護士にとっては、かも知れませんが)極めて魅力的です。証拠を隠す当事者(企業)に対して裁判官が関与して強い制裁の下に証拠提出を強制している事例は、日本の庶民側の弁護士にはうらやましい限り。この本で紹介されている事例では、訴訟に関連する電子データの保全を怠った企業に100万ドルの罰金が科されたとか、保全命令に違反して電子メールを破棄した企業に対して2750万ドルの罰金が科されたそうです(70頁)。読んでて、桁間違えてるんじゃないかと思うほどすごい額ですね。
ただ同時に、ディスカバリーの最も重要な手続のデポジション(証人尋問)では裁判所の速記官の立ち会いの下で証人予定者を尋問できて、これがあるから弁護士は審理前に証人の証言内容を知ることができる上に証人にはデポジションと違うことを言えない(言ったら前には違う話だったでしょうと指摘できる)よう拘束をかけられるという尋問を行う弁護士には楽園のような条件が得られるのですが、この裁判所速記官の日当が1日1000ドル以上(82頁)、ビデオ録画者の日当や専門家証人の日当もあって、かなり費用がかかるのは、庶民側には辛そう。
そういう費用の問題は感じますが、アメリカの訴訟手続は、手続上の公正さ・公平さということに関しては、かなり気を遣っていると思います。アメリカの法律は自由競争重視の弱肉強食的な部分が多々ありますが、同時にこと手続の公正・公平に関してはかなり徹底しています。
昨今の日本の政治は、法律をアメリカ型の弱肉強食型にどんどん変えていますが、手続の方は見習っていません。こういうやり方ではアメリカ以上の弱肉強食社会になると思います。今のような法改正を進めるなら手続の方もアメリカ型にするべきだと私は思うのですが。そういうことを考えるのにも役に立つかも知れません(著者はそういう視点では書いていませんが)。
モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所
有斐閣 2006年11月10日発行 (初版は1995年)