伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

公園

2006-12-04 07:58:39 | 小説
 公園を雑多な人々が雑多なことをする世界の縮図と捉え(16頁とか)、近くの公園からたぶん公園的なものとしてのニューヨークへ行き、居住地の歌舞伎町へと戻るぼくの過去と旅行(河出のコピーでは「終わりなき移動」、「冒険」だそうですが、私の感覚では、そうは書きにくい)の小説。
 ぼくは、すぐにめんどうだなあと思うけど、流れに任せて動くしわりと話し好きの学生。ぼくは、高校生の頃の想い出では友人のバックにヤクザがいてしかも2人を相手に数十人でやる自分は絶対安全なリンチには参加する卑怯な高校生、学生の今は足を洗って映画オタクになり下田で遭遇したヤクザが運転手をリンチする場面からは走って逃げつつ警察に電話するというようにスタンスを変えています。それでラストは歌舞伎町に帰ってきて、やっぱり公園(象徴としての公園)が好きって印象でまとめていて、今ひとつ過去と現在のつながりをぼくがどう捉え消化しているのか読み取りにくく思いました。
 場面もニューヨークは象徴としての公園なんでしょうけど、そこではただ白人と話をするくらいですし、下田への展開は狙いも見えませんし、行かなかったけど行きそうなところでチベットなんて出てくるのも、公園というテーマとのつながりが見えません。なんか、取って付けたように場所を移すことでストーリーが展開しているような効果を狙っているのかなと感じました。
 文章でも、冒頭の1文が「で、ぼくは公園にいる。」であるように、前後の脈絡なく「で、」で始まるパラグラフが度々登場します。「で、」っていうのは順接の接続詞でそれ以前の展開を受けて用いられる言葉と思っていたのですが、この作者には、単に場面を切り替える言葉のようです。この「で、」があるとそれまでの展開はなかったように忘れられていくような使われ方です。その結果、ストーリーもぶつ切りになってただのエピソードの羅列のように読めてしまいました。

 たまたま2006年の文藝賞(河出の新人文学賞)受賞作を連続して読みましたが、2作とも弁護士が登場した(ヘンリエッタの方は正確にはドラマで弁護士役を演じる俳優ですが)のは、若者(なんせ作者はヘンリエッタが高校生、公園が大学生ですからね)に印象がいい仕事だということなんでしょうね。


荻世いをら 河出書房新社 2006年11月30日発行
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ヘンリエッタ

2006-12-04 07:26:10 | 小説
 一方的に恋して恋した男の数だけ魚(金魚とか)を飼っている騒々しいみーさん、落ち着いているけど時々なぜか三輪車を盗んできたり子どもを拾ってくるあきえさんと一緒にあきえさんの家で暮らしている引きこもりの少女まなみが、3人で暮らすうちに少し外に出られるようになり前向きになる様子を日常生活の中で描いた小説。

 放浪癖のある父親と戻っておいでという母親のありがちな家族像と、あっけらかんとした女たちの微妙な距離感、牛乳配達の高校生を対比的に描いて、まなみに後者の居心地のよさを選ばせています。
 時代の雰囲気は、そうなんでしょうけど、なんだか最近はそういう話、小説以外でよく聞かされる感じがして、ちょっと食傷気味。

 家に「ヘンリエッタ」なんて名前をつけて、みんなが、「行ってきます、ヘンリエッタ」「ただいま、ヘンリエッタ」と挨拶しているのが、3人の生活に少し不思議な感覚を持たせています。また、それがなんとなくリズムを作っているような印象もあります。それを除くと引きこもりで幻視のあったまなみが立ち直っていく話を、日常生活のエピソードを交えながら少しほわっとさせたお話というところですね。


中山咲 河出書房新社 2006年11月30日発行
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