学生を安く買い叩きながら責任を負わせ長時間労働を課しノルマまで課して自腹を切らせたり罰金を科するなどの身勝手で強欲な経営者たちが蔓延して学生らが食い物にされている近年の日本社会の実態・病理を告発する本。
労働者側の弁護士である私としては、ブラックバイトの実情を説明する第1章とその違法性を論じ、解決方法を示す第8章に強い関心を持ちました。解決方法は、確かに使用者側への請求額がかなり低い場合が多いために弁護士が代理して事件化するには依頼者が弁護士費用倒れ(解決によって得られる経済的利益より弁護士費用の方が高い)になりかねないケースが多いと思われ、弁護士の感覚では労基署を利用するとか本人申立のあっ旋(労働局や自治体等)を勧める場合が多くなると思いますが、著者の他団体との関係もあり労働組合(地域ユニオン等)による団体交渉による解決が強く推奨されています。
この本全体としては、ブラックバイト被害のパターン検討(分析)(第2章)や被害の調査(第3章)、ブラックバイトが蔓延する背景・原因の分析(第4章~第6章)、ブラックバイトの定義(第7章)など原因の検討と改善への政策的な方向性を追求することに重きが置かれている感じがします。
原因の検討で、日本の奨学金制度が世界的には異例の「貸与制」中心で学生に負債を負わせていること、日本学生支援機構(旧日本育英会)は有利子の奨学金を貸し付け回収するただの貸金業者に堕していることについては、まったくその通りと思います。日本学生支援機構の奨学金は近年は貸付の際に2人以上の収入がありかつ別世帯の保証人を要求し、それが満たせないときは保証業者を付けて5%の保証料を徴収するなど、やってることは本当にただの金貸し、学生・貧困者を食い物にする金融ビジネスとしか思えません。また、近年企業側が年功賃金を切り下げるために言い出して流行った「成果主義」などというものが、本来企業・経営者が負うべき経営責任を末端労働者に責任転嫁・丸投げするものだという指摘(190~192ページ)もなるほどと思います。そういう経営者が本来負うべき責任を末端労働者に押しつけ、それが以前はそれなりの賃金を支払われる正社員レベルだったものが、近年は最低賃金レベルの非正規労働者・アルバイトにまで平気で押しつけられるのがブラックバイトの過剰な組み込み(過剰なシフト:授業にも出られなくなる)やノルマ、自爆営業だというのです。まったく日本の企業・経営者がどこまで身勝手で強欲で恥知らずになれるのか、それを許すように「労働の規制緩和」などを推し進める政治家たちがのさばる様は目を覆いたくなります。
私たち弁護士は、そういった法規制が進まずむしろ企業がやりたい放題にできるよう緩和されていく中で、個別の事件でよりよい解決をしていくしかありません(その意味で第1章と第8章に興味を持ちます)。しかし、全体としては、企業・経営者の身勝手で強欲な行動を規制するような、また日本学生支援機構の横暴を抑制し給付制の真の意味での奨学金が広がるような制度改正こそが必要です。その意味でこういった本が広く読まれるようになるといいなと思いました。
大内裕和、今野晴貴 POSSE叢書(堀之内出版) 2017年3月31日発行(初版は2015年4月)
労働者側の弁護士である私としては、ブラックバイトの実情を説明する第1章とその違法性を論じ、解決方法を示す第8章に強い関心を持ちました。解決方法は、確かに使用者側への請求額がかなり低い場合が多いために弁護士が代理して事件化するには依頼者が弁護士費用倒れ(解決によって得られる経済的利益より弁護士費用の方が高い)になりかねないケースが多いと思われ、弁護士の感覚では労基署を利用するとか本人申立のあっ旋(労働局や自治体等)を勧める場合が多くなると思いますが、著者の他団体との関係もあり労働組合(地域ユニオン等)による団体交渉による解決が強く推奨されています。
この本全体としては、ブラックバイト被害のパターン検討(分析)(第2章)や被害の調査(第3章)、ブラックバイトが蔓延する背景・原因の分析(第4章~第6章)、ブラックバイトの定義(第7章)など原因の検討と改善への政策的な方向性を追求することに重きが置かれている感じがします。
原因の検討で、日本の奨学金制度が世界的には異例の「貸与制」中心で学生に負債を負わせていること、日本学生支援機構(旧日本育英会)は有利子の奨学金を貸し付け回収するただの貸金業者に堕していることについては、まったくその通りと思います。日本学生支援機構の奨学金は近年は貸付の際に2人以上の収入がありかつ別世帯の保証人を要求し、それが満たせないときは保証業者を付けて5%の保証料を徴収するなど、やってることは本当にただの金貸し、学生・貧困者を食い物にする金融ビジネスとしか思えません。また、近年企業側が年功賃金を切り下げるために言い出して流行った「成果主義」などというものが、本来企業・経営者が負うべき経営責任を末端労働者に責任転嫁・丸投げするものだという指摘(190~192ページ)もなるほどと思います。そういう経営者が本来負うべき責任を末端労働者に押しつけ、それが以前はそれなりの賃金を支払われる正社員レベルだったものが、近年は最低賃金レベルの非正規労働者・アルバイトにまで平気で押しつけられるのがブラックバイトの過剰な組み込み(過剰なシフト:授業にも出られなくなる)やノルマ、自爆営業だというのです。まったく日本の企業・経営者がどこまで身勝手で強欲で恥知らずになれるのか、それを許すように「労働の規制緩和」などを推し進める政治家たちがのさばる様は目を覆いたくなります。
私たち弁護士は、そういった法規制が進まずむしろ企業がやりたい放題にできるよう緩和されていく中で、個別の事件でよりよい解決をしていくしかありません(その意味で第1章と第8章に興味を持ちます)。しかし、全体としては、企業・経営者の身勝手で強欲な行動を規制するような、また日本学生支援機構の横暴を抑制し給付制の真の意味での奨学金が広がるような制度改正こそが必要です。その意味でこういった本が広く読まれるようになるといいなと思いました。
大内裕和、今野晴貴 POSSE叢書(堀之内出版) 2017年3月31日発行(初版は2015年4月)