伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

あせらず、たゆまず、ゆっくりと。 93歳の女優が見つけた人生の幸せ

2017-07-10 19:42:38 | エッセイ
 森繁劇団での舞台女優活動と「渡る世間は鬼ばかり」などのテレビドラマで活躍し、2013年に「ペコロスの母に会いに行く」で89歳にして映画初主演し「世界最高齢での映画初主演女優」としてギネスブックに登録された著者が語る思い出と人生論。
 この本の執筆の動機として、娘から「ママ、辛いだろうけど、繰り返してはいけない戦争を、“本当に心底ダメ”と言えるのは、そのときを生きた人しかいないのよ。その人からしか生まれない言葉なんだから、断ってはダメ」と背中を押されたことが挙げられている(3~4ページ)こともあり、戦争経験には思い入れが見られます。
 終戦直後満州でソ連兵と対峙し、発疹チフスに罹って死線をさまよい、ひたすら歩き続け、衰弱しきった次兄を見つけて軍と交渉して取り戻し日本に帰り着いたがすぐ次兄が死亡した(26~34ページ)という語り、「戦後、満州からの引き揚げのとき、ソ連の軍隊が迫る間際、急きょ乗り込んだトラックで、自分たちはわずかな乾パンだけを持っていました。一緒に乗り合わせた日本の軍隊の人たちは食料をたくさん持ち込んで食べていました。私たちは大人も子どもも、ひもじさを抱えて、彼らの食事をただ眺めていました。それは、とてもつらいものでした」(46ページ)、「戦前戦中戦後と、自分が食べたいときにろくすっぽ食べられなかったので、一緒にいる人全員のお腹の具合が気になって仕方がないのです」(45ページ)、「戦時下では思想的な偏向は教育だけにはとどまらず、芸術、演劇、芸能、スポーツなどに広くおよびました。どこにいても軍部の思想チェックが入り、戦意高揚に消極的だったり、少しでも左翼寄りと見なされると容赦なくパージの対象にされる時代。私がロマンティックな映画が好きなのは、そんな暗い時代の記憶を忘れさせてくれるからかもしれませんね」(151~152ページ)、「青春時代と呼ぶ年ごろを戦争のなかですごした私にとっては、50代からが青春だったかもしれません」(169ページ)などの記述は、実感がこもり、味わい深いというか、日本を再び「戦争のできる国」にしたがっている連中にかみしめてもらいたいところです。
 「俳優の仕事とは、先がまったく見えないものです。『一』はなかなか『二』にならないし、努力しても仕事が来るようになるかどうかはわからない。実力のある人が必ず、日の当たる場所に行かれるとも限らない。ひと作品終えるごとに失業者、一生、次の就職活動です」(188ページ)。自営業者にとっては、身に染みる言葉です。


赤木春恵 扶桑社 2017年3月14日発行
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