伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

貧困女子のリアル

2017-07-05 22:48:18 | ノンフィクション
 フリーランス編集者の著者が、自分の周囲で探したりつてをたどってインタビューした11人の「貧困女子」の事例を並べた本。
 著者自身が、「貧困女子といえば、メディアで報道されている家族関係や健康問題に端を発し性風俗産業などで搾取され、家もない女性というイメージがある。シングルマザーの貧困も問題になっている」(3ページ)などとしつつ、この本ではそこそこの中流家庭に育ち大卒・短大卒の「貧困女子」が選ばれてインタビューされています。そういう人でも貧困に陥ることをある種の驚きを持って読ませようという意図でしょうし、実在する事例ですから当然に「リアル」でもあります。しかし、それが現代日本社会の「貧困女子」の全体像とマッチしている保証はなく、著者にそれを示そうという意思もないでしょう。そういった意図的に方向を決められた特定パターンを読まされているということは意識しておく必要があります。
 貧困の背景には労働問題があり、この本でもそのことに触れてはいます。「彼女たちの貧困の背景は大きくふたつある。ひとつは非正規雇用だ。裁量も与えられず命じられるままに薄給で仕事をこなしていると、突然雇い止めになる。まさに期間限定の“使い捨て”。ふたつめは、ブラック企業や男性社会でこき使われ、燃え尽きること。厳しく辛い環境下での労働は、うつ病などの発症にもつながりかねない。就職氷河期にやっとの思いで就職し、パワハラやセクハラを受け、会社の言いなりになってこき使われ、挙げ句の果てに解雇される。実に報われない。」(5ページ)。いや、報われない、で止めないで、更新を繰り返した後の雇い止めや十分な理由のない解雇は無効になり得る、闘えるよって、そういう問題を書くのなら、ちゃんと説明して欲しい。正社員を減らして非正規雇用に切り替えて安くこき使おうという企業・経営者の強欲さ/身勝手さを追及するスタンスは、この著者には見られません。終盤で非正規労働者が増えたことを論じているページでも、経営側の問題点を言うのではなく、「余談になるが団塊世代が再雇用されたことで、派遣先から雇い止めを受けたという人も少なからずいる」という言葉で結んでいます(157ページ)。高齢者が再雇用されても、それは前から勤務している人が定年前に続けて雇用され続けるだけで人員は増えず大半の(強欲な)経営者の下では定年後は同じ仕事をさせながら(だから職場の仕事量も減らない)給料が大幅に減る(だから経営者の元にむしろ金が余る。結局再雇用の前後で状況は何も変わらずただ経営者に残る金が増えるだけ!)というわけですから、派遣労働者を切る方向に働く要素はまったくありません。仮に経営者がそんなことを言ったらそれは別の理由で派遣労働者を切るのにそういう口実を使った(どう考えても嘘)ということのはずです。それなのに、そういう洞察力もなく、全然理由にならない派遣切り(雇い止め)を経営者の問題を指摘することもなく紹介し、派遣労働者と高齢労働者を対立させ分断させるような文章を書くような人物がいるのは、実に嘆かわしい。
 自己破産についても、弁護士費用が20~30万円かかると、なぜか「公認会計士」に説明させています(101~102ページ)。司法支援センター(法テラス)を利用すれば15万円程度で月5000円とか7000円の分割払いで済むことは、どこにも書かれていません。この人が知らないのか、困った人にも破産を諦めさせたいのか、私の目にはとても不親切な説明に見えます。どうして弁護士費用や破産制度の説明を弁護士にさせないで、公認会計士にさせるのかも含め、著者のノンフィクション執筆の姿勢にまで疑問を感じてしまいました。


沢木文 小学館新書 2016年2月6日発行
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