伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

雇用差別と闘うアメリカの女性たち 最高裁を動かした10の物語

2021-11-21 23:57:08 | ノンフィクション
 1964年にアメリカの公民権法第7編(タイトル7)に性差別を禁ずる規定が設けられた後、その解釈として女性労働者が最高裁で勝訴した10の事件を採り上げて紹介した本。
 単なる判例紹介ではなく、それぞれの事件の原告となった女性労働者の経歴や人となり、事件の経緯、使用者側の対応、そしてその女性労働者が弁護士にたどり着いた経緯、弁護士のそれまでの経験や姿勢、担当した裁判官の経歴と傾向、1審での審理内容と判決、控訴裁判所の裁判官と判決、最高裁への上告の準備、そして最高裁での弁論、判決とその後の経緯までがほどよい量にまとめられていて、良質の裁判小説を読んでいるような読み心地です。弁護士の私にとっては、担当した弁護士の決意と準備、そして最高裁での弁論のシーンがとても興味深く読めました。2段組で400ページ近い本なので、読み始めまでに時間がかかりましたが、読み始めると一気に読めてしまいました。最高裁での弁論は、日本の裁判所での口頭弁論とは違い、裁判官が次々と質問を続け議論を仕掛けてきてそれに即座に応答しなければならないという緊張感の強いもので、私が経験した限りでは、日本では社会保険審査会の口頭審理がそれに近いものです(私のそのときの経験はこちらで書いています)。それは、経験するのも楽しいですが、読み物としても大変面白いものです。
 この本では、アメリカでは最高裁裁判官側でも、「口頭弁論を行う弁護士が有能で効果的な場合、彼がどのように主張を展開するかが、その事件の結論を左右するものだ」「私の経験では、口頭弁論における議論の展開によって自分の判断が定まることはよくあった」と述べていることが紹介されていて(34ページ)、弁護士としては、そういう世界、そういう場で弁論してみたいと思います。
 対価型(拒否したことで解雇等の不利益を受けた)でないセクシュアル・ハラスメントが(この件では性暴力と言ってよいと思いますが)公民権法第7編違反の「性差別」だということが初めて認められた事件を担当した弁護士が、1979年にこの事件を手がけて以来膨大な時間を費やしてきたのに報酬がまったくもらえないまま控訴裁判所で手続が3年も遅滞してほとんど破産状態になった(141ページ)というくだりは、似たような志向の労働者側弁護士として、涙なしには読めません…


原題:BECAUSE OF SEX : One Law , Ten Cases , and Fifty Years That Changed American Women's Lives at Work
ジリアン・トーマス 訳:中窪裕也
日本評論社 2020年12月5日発行(原書は2016年)

 
コメント
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