イラク派遣中に爆弾で右耳の聴力を失った元陸上自衛隊三等陸曹村主雅哉が、恋人をレイプして殺害した犯人らに対する復讐を誓い、その後自衛隊時代の友人が経営するファミリーホームで働きつつ生育歴に問題のある児童を監視し見守る様子を描いた小説。
人の命をなんとも思わない軽さと残忍さと迅速で荒々しい展開(この速さで展開して最後まで持つのかと思うほど)の前半と、子どもの成長と揺らぎに寄り添いスピードがなくなる(まぁそうなるだろうなとも思いますが、前半が速いだけに失速感というかもたつき感が強い)後半は、あまりの落差に、主人公も作者も別人のように感じられます。長期連載のうちに気が変わったというパターンではなく、文学賞応募・受賞作品ですから発表前に全体として検討・見直しているはずですが、この断絶感はどうでしょう。前半は村主の内心が描かれていたのに、後半は村主の内心が描かれなくなることもあり、後半の村主が何故そのような行動を取っているかが理解しにくく、そのことも話の不連続感、村主の言動の唐突感を増しているように思えます。
生育歴に問題がある(親の愛を受けていない)児童が「悪果」となり他人に危害を加えるようになるかを監視し、そうなりそうなら死なせるという考えと、それに囚われる村主の生き様がこの作品の基調となっていますが、そのような考え自体が偏見と傲慢さの産物だと思います。その観念的に過ぎ、特異な思考が、作品自体のコンセプトをなじめないものにしているように思えました。
永山千紗 文芸社 2021年8月15日発行
草思社・文芸社W出版賞金賞受賞作
人の命をなんとも思わない軽さと残忍さと迅速で荒々しい展開(この速さで展開して最後まで持つのかと思うほど)の前半と、子どもの成長と揺らぎに寄り添いスピードがなくなる(まぁそうなるだろうなとも思いますが、前半が速いだけに失速感というかもたつき感が強い)後半は、あまりの落差に、主人公も作者も別人のように感じられます。長期連載のうちに気が変わったというパターンではなく、文学賞応募・受賞作品ですから発表前に全体として検討・見直しているはずですが、この断絶感はどうでしょう。前半は村主の内心が描かれていたのに、後半は村主の内心が描かれなくなることもあり、後半の村主が何故そのような行動を取っているかが理解しにくく、そのことも話の不連続感、村主の言動の唐突感を増しているように思えます。
生育歴に問題がある(親の愛を受けていない)児童が「悪果」となり他人に危害を加えるようになるかを監視し、そうなりそうなら死なせるという考えと、それに囚われる村主の生き様がこの作品の基調となっていますが、そのような考え自体が偏見と傲慢さの産物だと思います。その観念的に過ぎ、特異な思考が、作品自体のコンセプトをなじめないものにしているように思えました。
永山千紗 文芸社 2021年8月15日発行
草思社・文芸社W出版賞金賞受賞作