大学時代のサークル仲間だった高校の英語教師北井喜八郎とつかず離れずの関係にあった大手流通会社マーケティング部門所属の29歳キャリアウーマン川島とく子が、雨の夜の青山ブックセンターで遭遇した寡作の24歳作家山野辺塁と激しいセックスをしてのめり込んでゆくという恋愛小説。
気まぐれで欲望にのみ忠実なジコチュウの塁を純粋で傷つきやすい存在と描き、けんかを繰り返しながら離れられず忘れられず、善良な夫を放置し傷つけながらとく子が塁を追い求めていく展開は、塁が男であればただの身勝手な夫とDVを直視できない愚かしい妻と評価されるでしょう。それなのに女同士だと、「めくるめく性愛の深淵」「究極の恋愛小説」(裏表紙の解説)と美化されてしまうのは、どうかなと思います。
スタートでその終わりが語られているのに、その後思ったよりも執念深くとく子の塁に対する追跡が続き、最初に想定したのとは違うエンディングですが、それはそれで新鮮にもなるほどとも思えるのはストーリーテリングとしては巧いのだと思います。
2001年の小説が2021年に文庫版で復刊したのですが、文庫版あとがきで作者が60歳になり恋愛の機会も情熱もなくなり「女×女の恋愛小説」を書くこともなくなっているのに、いまだに「レズビアン作家」のレッテルを貼られ続けていると嘆いているのが、少し驚きです。作家を生業とする以上、作品から特定のイメージを持たれるのは致し方なくその覚悟を持って作品を発表するのでしょうし、むしろそれが売り物になるものだろうと思っています。弁護士の場合でも、お金にならない分野で有名になっても営業上役に立たないとも言えますが、それでも何も特徴がないよりもこの分野ならこの弁護士といわれるものがあることは、やはり強みだろうと思います。客商売はそういうものだと思うのですが。
中山可穂 河出文庫 2021年9月20日発行(単行本は2001年)
気まぐれで欲望にのみ忠実なジコチュウの塁を純粋で傷つきやすい存在と描き、けんかを繰り返しながら離れられず忘れられず、善良な夫を放置し傷つけながらとく子が塁を追い求めていく展開は、塁が男であればただの身勝手な夫とDVを直視できない愚かしい妻と評価されるでしょう。それなのに女同士だと、「めくるめく性愛の深淵」「究極の恋愛小説」(裏表紙の解説)と美化されてしまうのは、どうかなと思います。
スタートでその終わりが語られているのに、その後思ったよりも執念深くとく子の塁に対する追跡が続き、最初に想定したのとは違うエンディングですが、それはそれで新鮮にもなるほどとも思えるのはストーリーテリングとしては巧いのだと思います。
2001年の小説が2021年に文庫版で復刊したのですが、文庫版あとがきで作者が60歳になり恋愛の機会も情熱もなくなり「女×女の恋愛小説」を書くこともなくなっているのに、いまだに「レズビアン作家」のレッテルを貼られ続けていると嘆いているのが、少し驚きです。作家を生業とする以上、作品から特定のイメージを持たれるのは致し方なくその覚悟を持って作品を発表するのでしょうし、むしろそれが売り物になるものだろうと思っています。弁護士の場合でも、お金にならない分野で有名になっても営業上役に立たないとも言えますが、それでも何も特徴がないよりもこの分野ならこの弁護士といわれるものがあることは、やはり強みだろうと思います。客商売はそういうものだと思うのですが。
中山可穂 河出文庫 2021年9月20日発行(単行本は2001年)