伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

母性

2022-10-02 23:57:15 | 小説
 ある母と娘の間で起きた事件に至る経緯を、母の側からの語りと娘の側からの語りでたどる形の小説。
 各章が「母性について」の後に「母の手記」と「娘の回想」で構成されています。このパターンを使う以上は必然的とも言える同じ事件についての母の見方と娘の見方のギャップに加え、事実関係そのものについても食い違いが見られます。事実関係の食い違いについては、おそらくは娘の側の語りが真実で、母が自分に都合の悪い事実を隠しているのか、あるいはこの母には都合の悪いことは記憶されていないのかというところと思われます。私が、小学生から中学生・高校生の娘の健気な姿勢と思いに不憫を感じているため、娘に共感するということかもしれませんが。
 その母と娘の語りのギャップに、母親の視野の狭さ、独りよがりを感じさせ、また自分の娘のみならず何か気に入らないところがあると自分の家系ではなく夫等の家系の血のせいにする思考パターンに嫌悪感を持たせながら、しかし、母親の人生のつらさも実感され、読み進めるうちに、これくらいの我が儘さ、人のせいにしたがる傾向は、誰にもあると、我が身をも振り返らせる巧さがあるかなと感じました。
 普通の読者は、冒頭におかれた報道記事とみられる7行の記載を念頭に、この事件の真相を解明するミステリーと考えて読み続けると思います。そして、読み進めるに従い、方向性を予測しながら、しかし、次第に違和感が膨れ上がって行くことと思います。こういう終わらせ方には、私は納得感を持てませんでした。また、母と娘の名前は終盤まで明らかにされませんが、明らかにされたところで驚きがあったり何かその名前でストーリーのどこかに絡んで謎が解かれるわけでもありません。名前を書かないことで、キャラクターの存在を一般化するというか、そのキャラが自分でもあり得るという感覚を持たせたいというような意図があるのかもしれませんが、「君の膵臓をたべたい」で感じたのと同様の違和感が残りました。


湊かなえ 新潮社 2012年10月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする