伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

かがみの孤城

2022-10-21 22:35:42 | 物語・ファンタジー・SF
 恵まれた家庭に育ちながら、いじめに遭って引きこもり、母親とともに面接をして通うことにしたフリースクールへも初日から行けず、いじめについて徹底的に自分の立場には立ってくれない担任を恨み、母親に対して不満を持ち続ける不登校の中1少女安西こころが、自室の鏡を通して「鏡の城」に呼ばれ、同様に呼び込まれた6人の中学生とともに、狼面の少女から翌年3月30日までの間朝から夕方までは自由に鏡の城に通って好きに過ごしてよい、その間に鍵を探し出し「願いの部屋」に入れれば何でも願いを叶えるという課題を与えられ、自らはいじめ加害者の真田美織をこの世から消すことを目指して、他のメンバーと間合いを計りながら付き合い、鍵を探すという設定のファンタジー仕立てのミステリー小説。
 最初は、ファンタジーの舞台設定を用いているものの、基本はいじめ加害者を抹殺するという暗い願いに固執する主人公の成長物語かなと思って読んでいたのですが、どこまで行っても安西こころの加害者への恨みと自分は正しい、自分を理解しない大人たちが間違っているという強い信念はまったく揺らがず、中盤は主人公の変化もストーリーの進展もあまり見られず、だれた感じがして、投げたくなりました。これがどうして「本屋大賞」?という疑問を持ちながら読み続けていると、終盤に大きな展開が始まり、ミステリーとしても走り出して、そこからはぐいぐい引き込まれます。読み終わってみると、鮮やかなお手並み、と思えます。もちろん、「本格ミステリー」じゃなくて、ファンタジーなので、設定自体が非現実だから突き詰めて納得できるわけじゃないですけど。そう、狼さんのヒントってメンバーの3月29日の行動を予め予知した上で出したんですかとか、どうして他人の記憶がこころに見えるんですかとか、いやそれならこころよりも別のメンバーがずっと早く謎を解けていたはずじゃないですかとか、そういう疑問は、ファンタジーなんだから、聞くだけ野暮だよねと封印するべきなのでしょう。


辻村深月 ポプラ社 2017年5月15日発行
2018年本屋大賞受賞作
コメント
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