伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

猫弁と指輪物語

2022-10-27 22:35:39 | 小説
 ペット訴訟で有名になり依頼を断れずに無理な案件を受けてしまう弁護士百瀬太郎が、63歳の舞台女優白川ルウルウが豪邸内で飼育している前年にアメリカのキャットショーで2位となった大型猫ルウルウ・べべが妊娠した「密室猫妊娠事件」の犯人捜し・真相解明を依頼されるという小説。猫弁シリーズ第3作。
 相変わらず、最初関係なさそうに出てきたものが最後に結びつけられ絡んでいく展開です。シリーズの他の作品と比較するとミステリーらしく謎解きにこだわっていますが、ミステリーとしては枠外の結末に思えます。少なくとも「密室猫妊娠事件」という設定の下でミステリーファンが期待する/納得するものではないでしょう。
 この作品では、目立たない脇役だった百瀬法律事務所のおじさん秘書野呂法男が、ホームズを支えるワトソンに自己投影して奮闘し、さらにはその過去(司法試験に落ち続けた過去ではありますが)にもスポットライトが当てられます。野呂法男ファン(というのがいれば:第1作の解説でTBSのドラマ制作部のディレクターがドラマの配役を書いています(「猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち」375ページ参照)が、そこに野呂法男はいませんし)には快い読み物かと思います。
 このシリーズでは、裁判についての描写は踏み込まないようにしていると感じられ、それはたぶんその方がいいと思っているのですが、利益相反についてはあまりに配慮というか検討がなさ過ぎると思います。百瀬の友人の獣医柳まことを訴えたいという依頼者小松が「もしここで百瀬が依頼を受けなければ、よその弁護士をあたる」というのを聞き「金になるならどんな無茶も引き受ける弁護士はいっぱいいる。まことが心配だ。裁判となり、訴えが棄却されたとしても、相当いやな思いをするだろう。ここは自分が引き受けるべきだ。百瀬はそう判断した」(126~127ページ)って、これ、依頼者の相手方の利益を守ることを動機として受けるという話で、弁護士としてはそれは絶対ダメでしょう。その辺の感覚が、百瀬太郎には、というか作者には根本的に欠けていて(第5作でシュガー・ベネットに対する公判請求をする指定弁護士の選任を受けるのも同様でしょう)、弁護士の仕事をテーマとする作品としてどうよと思ってしまいます。


大山淳子 講談社文庫 2014年6月13日発行(単行本は2013年2月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする