伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

流浪の月

2022-10-10 21:09:10 | 小説
 公園で小学生女子を見つめる日々を送る19歳大学生佐伯文が、その文の存在を意識しつつ家に帰りたくないために夕方まで公園で過ごす9歳の家内更紗が雨の中でもベンチに座り続けるのを見て傘を差し掛け、「帰りたくないの」という更紗に「うちにくる?」と問い、更紗が「いく」と答えて付いてきて、そのまま2か月帰らなかったために、逮捕され報道されという事件から15年後に更紗と再会し、そこに至る2人の過ごした時間で変わったこと変わらなかったこと、そして2人のその後を描く小説。
 当然により大人の側が状況を考えて行動すべきではあるのですが、9歳のときも、24歳のときも、更紗側が後先考えずに文を巻き込み、文が世間から非難されるような事態を巻き起こして行くのに、文側はそれを仕方がないと受け入れていく、そのことに更紗には自覚がないというところ、何だかなぁと思います。24歳でも、まだ24歳、そして文は34歳ですから、更紗は自分が考えるべきとは感じられないのかもしれませんけど。もっとも、更紗の事情と内心を語り続けた後に、終盤に語られる文の事情の描写で、文の側も災難だったということでもなく自ら栗を拾いに行っているところもあって、人それぞれだねというところに収まる感じですが。
 「彼が本当に悪だったのかどうかは、彼と彼女にしかわからない」(299ページ)という言葉と、報道でレッテル張りをしたがるメディアとネット民たちへの疑問が際立ち、そこに共感するのですが、他方で少女に対する性的虐待への批判を躊躇させる効果を持つ面があるであろうことへの反感を持つ人たちもいそうです。「犯罪者」と決めつけ評価した相手に対する非難・罵り一色になりがちなこの国の現状を考えると、この作品が描くか細い心情の方を支持したいと思いますが。


凪良ゆう 東京創元社 2019年8月30日発行
第17回(2020年度)本屋大賞受賞作
コメント
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