伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

NHKスペシャル 失われた文明 アンデスミイラ

2007-08-04 08:51:46 | 人文・社会科学系
 NHKスペシャル「失われた文明 インカ・マヤ」第1集「アンデス ミイラと生きる」の単行本化。
 スペインによる征服と破壊以前、アンデスでは多数のミイラが作られファルドと呼ばれる袋に多数の副葬品と共に安置され、ミイラと共に生活していた例も少なからずあったそうです。現在でもミイラを祀ったりしている村もあり、日本人にとっての仏壇のような位置づけのようです。
 当初は海岸の砂漠地帯で生まれたと見られるミイラの風習がインカ文明の拡大と共に高山に持ち込まれていき、6700mもの高山の山頂で神への生け贄にされたと見られる子どものミイラがほとんど生きているときと変わらぬ姿で発見されたりしています。この本ではインカがアマゾン川流域のチャチャポヤス族を攻略する際にチャチャポヤス族の先祖の墓にミイラを持ち込み精神的な支えを切り崩して抵抗を封じ込めたと解説しています(102~107頁)。またインカでは歴代の皇帝のミイラが死後も生きているものとして宮殿におかれ貴族たちは皇帝が生きているものとして世話をし続け、皇帝のミイラ(実質的にはその取り巻きの貴族)が権力を持ち続けたとか、新皇帝はそのために新たな領土と宮殿を獲得する必要がありそのためにインカ帝国が急速に拡大したと、この本では解説しています(98~102頁、128~129頁)。この歴代皇帝のミイラの権力を奪おうとした新皇帝が混乱をまき散らしていたところにスペインの侵略が重なったためにインカがあっさり滅びたのだとも。そして、インカで皇帝のミイラが生きているものと扱われているのを見て驚いたスペイン人がミイラを徹底的に弾圧したために地中に埋められていた以外のミイラはほとんど残存していないそうです。
 インカについて、単純にスペインの侵略による被害者という位置づけでなく、ミイラを切り口にして多方面から論じていて、これまでとは違う視点を持たせてくれるもので、興味深く読みました。


恩田陸、NHK「失われた文明」プロジェクト
NHK出版 2007年6月30日発行
コメント
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