伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ペギー・スー8 赤いジャングルと秘密の学校

2007-08-19 10:48:22 | 物語・ファンタジー・SF
 ケイティおばあちゃんと焼き菓子店をオープンして平穏に過ごすペギー・スーのところに役人が現れ、スーパーヒーローは免許制になったと知らせ、ペギー・スーはスーパーヒーロー学校に送り込まれてそこでの訓練として地球外生物の跋扈するジャングルでのサバイバルを強いられ、学校をめぐる陰謀に巻き込まれるというお話。
 スーパーヒーローの力は衣装にあり、その衣装は地球外生物の皮をはいで作ってその生物の持つ力を受け継ぐが、その衣装はそれを着る人間からエネルギーを奪い老化させるという設定。強力な衣装を着ると超人的能力を得るがすぐにエネルギーを奪われてミイラになる。その条件でもスーパーヒーローになりたがる生徒たちとかつての活躍が忘れられない元スーパーヒーロー(学校の先生)たちの異様な高揚ぶり、そのばかばかしさを認識しつつもなお完全にはそれを捨てきれない屈折した思いを持つ穴蔵挫折組、戦いの無益さを感じるペギー・スーの対比で、英雄を消耗(消費)する戦争と英雄志向のむなしさ/哀しさを描いています。
 同時にスーパーヒーローが存在すると住民たちはそれに頼り大したことじゃなくても泣きまねの名人になる(166頁)と「英雄」の傍観者たる一般人の姿勢も皮肉っています。この点は同時に「自己責任」の強調でもありますが。
 冒頭の人助けさえも管理したがる役人の根性(「予測できない行動をする勇者よりも、臆病者のほうがこちらは管理しやすいからな」とも:10頁)への皮肉とあわせ、官僚と政治家・軍隊の危うさ、そしてそれを支える一般人の意識・心情をめぐり考えさせられます。


原題:PEGGY SUE ET LES FANTOMES - La Jungle Rouge
セルジュ・ブリュソロ 訳:金子ゆき子
角川書店 2007年7月31日発行 (原書は2006年)

7巻はこのブログでは2007年2月12日の記事で紹介
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タラ・ダンカン4 ドラゴンの裏切り 上下

2007-08-18 17:05:25 | 物語・ファンタジー・SF
 別世界のオモワ帝国の世継ぎで強い魔力を持つ14歳の少女タラ・ダンカンが、別世界とは「移動の門」で接続されている地球でタラの友人ロバンらの襲撃事件やストーンヘンジをめぐる陰謀に巻き込まれるファンタジー。
 かつて悪魔とドラゴンの戦いで妻を殺されたドラゴンが、今は「煉獄」に住む悪魔たちへの復讐を計画し、遺伝子操作により魔術力を強めた魔術師を利用して、その魔力を吸い取って増幅する兵器として製造したストーンヘンジに追い込んで、悪魔の世界と地球を破壊するという陰謀を軸に、オモワ帝国内の権力闘争、ダンカン家の過去がからんできます。
 4巻で、タラの異常に強い魔力がドラゴンによる遺伝子操作によることが明らかにされ、その操作に積極・消極に関わってきた人々とタラ・タラの友人たちとの人間関係の機微が物語を少し深めています。
 4巻も3巻と同様にストーリー展開のテンポが通常のファンタジーレベルに減速されており、1巻、2巻に比べると私にはずいぶんと読みやすくなっています。
 2003年スタートの魔法使い物ですから、当然ハリー・ポッターとの類似性が問われますが、4巻では、イギリスで魔法使いだと知らされた14歳の少年に「ぼくは魔法が使えるって言ったよね。ハリー・ポッターみたいに?」(下12~13頁)なんてあっけらかんと言わせています。友人のファブリスが魔法の力を強めようとしているのには「ダース・ベイダーみたいじゃない?妻パドメへの愛ゆえにってわけね!」(上213頁)なんて言ったりしますし。このあたり作者にも楽しむ余裕ができたってところでしょうか。


原題:TARA DUNCAN , LE DRAGON RENEGAT
ソフィー・オドゥワン=マミコニアン 訳:山本知子
メディアファクトリー 2007年8月3日発行 (原書は2006年)

3巻についてはこのブログでは2006年8月20日の記事で紹介
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スカイブレイカー

2007-08-17 20:02:20 | 物語・ファンタジー・SF
 このブログでは2006年7月17日に紹介した「エアボーン」の続編。「エアボーン」の後、念願の飛行船アカデミーに入学したマットと、ソルボンヌ大学で動物学の研究を続けるケイトが、財宝と希少生物の剥製コレクションを積んで遭難した伝説の飛行船「ハイペリオン」をめぐる陰謀と争奪戦に参入/巻き込まれる冒険小説+ラブロマンス。
 こんなにうまくいっていいのかなと思うようなハッピーエンドと、まあだいたい先が読めるストーリー展開ですが、前作同様テンポのよさと語り口の軽さ、意外な新種生物や機械の構想と小道具の使い方の巧さで、無理なく読ませます。ハッピーエンドで読後感もいいし。
 あまり難しいこと考えたくないときのエンターテインメントとしてお薦めだと思います。
 ただ、前作の「エアボーン」も私は気に入ってベタ誉めしたんですがあまり売れた形跡は見られないし、世間の売れ筋の感覚とは違うんでしょうかね。


原題:SKYBREAKER
ケネス・オッペル 訳:原田勝
小学館 2007年7月15日発行 (原書は2006年)
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幼児化する日本社会 拝金主義と反知性主義

2007-08-16 06:49:52 | 人文・社会科学系
 元大蔵官僚で現在は大学教授の著者が教育、政治、メディア等の現状について論じた本。
 白か黒しかないという単純な二分割思考は思考の退化であり人間の幼児化だと嘆き、小泉政権のむき出しの弱肉強食を批判し、「わかりやすさ」と感情論に流れる(煽る)マスメディアの現状を批判する姿勢には、同感します。
 しかし、他方、元大蔵官僚らしく、福祉は最小限にして自己責任を主張し、公務員への批判は、文科省に対するもの以外は回避する姿勢が見え、全体としては今ひとつ。
 二分割思考を批判し事実は簡単じゃない、多面的な思考が必要と論じているはずなのに、いじめや自殺問題について「最大の責任が親にあることは自明のはずです」(19頁)と決めつける姿勢には違和感を感じます。テレビのバラエティ番組で若手タレントをいじめているのを親たちが笑って見ているから子どもたちに「こういうことは面白いことなのだ」という価値観が植え付けられるのは当然(20頁)とか、いじめの責任をとにかく学校以外に押し付けたい姿勢がありあり。元公務員にもかかわらず文科省に対してだけは批判を繰り広げていることとあわせ、現在は大学教授の立場から、教育をする側には自由にやらせろ、学校や教師の責任を追及するなと言っている感じ。いいこと言っている部分もあるけど、ちょっとそのあたり興ざめしました。


榊原英資 東洋経済新報社 2007年7月19日発行
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ワープする宇宙

2007-08-15 10:16:51 | 自然科学・工学系
 私たちが住む宇宙が5次元だが私たちや大半の素粒子が4次元時空(3次元空間)のブレーン(brane。membrane=膜の略)の中に閉じ込められているため5次元を検出できないということなどを論じた本。
 基本的には、あくまで素粒子論のレベルで理論上予測されながら発見できない粒子が検出できない理由や他の力(電磁力、原子核レベルでの「強い力」「弱い力」)と比較して重力が弱すぎる理由を説明するための仮説。他の仮説に対する新しさは、私たちがむき出しの5次元に居住しているのではなく5次元宇宙(バルク)に浮かぶ4次元ないし3次元のブレーンの中に閉じ込められ重力を伝えるとされる仮想粒子「グラビトン」(または+α)だけがバルクとブレーンを行き来できる(第1仮説)、または私たちはバルクに住んでいる(そこんとこ、明言はされていないんですが・・・)がグラビトンが重力ブレーン付近に偏在するために重力が弱くなるとともに5次元時空が歪曲しているために5次元を検出できない(第2仮説)というもの。従来の多次元宇宙論が、4次元を超える「余剰次元」は小さく(原子レベル以下のサイズに)巻き上げられているために検出できないとしていたのを5次元が大きくても検出されないとしている点がポイント。
 監訳者あとがきでも「数式を一切使わずに、身近なたとえを織り交ぜながらわかりやすく説明している」(606頁)と書いていますし、NHKの番組とかでもそう紹介されていて、図書館の予約を見てもけっこう人気があります(リサ・ランドールが40台半ばで容姿端麗なもんでちょっと見てみようかってところかも)。数式を使っていない(末尾の注釈の「数学ノート」を読まなければ)ことと、たとえがうまいことは事実です。本文の説明の難易度は、おおかた講談社ブルーバックスレベルです(ブルーバックスを開くと居眠りしたくなる人や「ブルーバックスって何?」レベルの人は、NHKが何を言おうが手を出さない方が無難です)。ですから、著者の自説を説明している最初と最後(第3章までと第20章以降)は感覚的にはわかりやすい。しかし、理論物理・素粒子論の発展経過と問題点を説明する残りの部分は、直観的には捉えられない素粒子の世界で多数の聞いたこともない素粒子の数々とそのふるまいについて一言二言のたとえがたまに混じる程度で了解して付いていける(洞察力がものすごいか、わからなくても気にしない)人でないと挫折の可能性大。こういう本を、売らんがために、とってもわかりやすい入門書のように紹介する手法は、物理嫌いを増やすだけじゃないのかなと危惧します。


原題:Warped Passages
リサ・ランドール 監訳:向山信治 訳:塩原通緒
NHK出版 2007年6月30日発行 (原書は2005年)
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明日この手を放しても

2007-08-14 19:00:31 | 小説
 法学部学生時代に中途失明した完璧主義者の凛子と不動産ディベロッパーに就職したがブライダルプランナーに回され不平を言い続ける兄の真司が、母の交通事故死、漫画家の父の失踪に遭い、当惑しながら試行錯誤していき成長していくお話。
 順番に凛子の立場、真司の立場で時期を開けて書かれていて、失明にとまどい、編集者に頼り切りの凛子が次第に自立していく様、何事も他人のせいにして不平を言うばかりだった真司が人を使う立場になり責任感を持って行く様が描かれています。もちろん、まっすぐには行かず、父親の失踪の真相もわからないままで、不完全燃焼の感じもありますが、ちょっとホッとするいい読み味でした。


桂望実 新潮社 2007年6月20日発行

 6日から帰省してボーッとして本もあまり読まず、HPもブログも更新せずでした。明日から頑張ろう・・・
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NHKスペシャル 失われた文明 アンデスミイラ

2007-08-04 08:51:46 | 人文・社会科学系
 NHKスペシャル「失われた文明 インカ・マヤ」第1集「アンデス ミイラと生きる」の単行本化。
 スペインによる征服と破壊以前、アンデスでは多数のミイラが作られファルドと呼ばれる袋に多数の副葬品と共に安置され、ミイラと共に生活していた例も少なからずあったそうです。現在でもミイラを祀ったりしている村もあり、日本人にとっての仏壇のような位置づけのようです。
 当初は海岸の砂漠地帯で生まれたと見られるミイラの風習がインカ文明の拡大と共に高山に持ち込まれていき、6700mもの高山の山頂で神への生け贄にされたと見られる子どものミイラがほとんど生きているときと変わらぬ姿で発見されたりしています。この本ではインカがアマゾン川流域のチャチャポヤス族を攻略する際にチャチャポヤス族の先祖の墓にミイラを持ち込み精神的な支えを切り崩して抵抗を封じ込めたと解説しています(102~107頁)。またインカでは歴代の皇帝のミイラが死後も生きているものとして宮殿におかれ貴族たちは皇帝が生きているものとして世話をし続け、皇帝のミイラ(実質的にはその取り巻きの貴族)が権力を持ち続けたとか、新皇帝はそのために新たな領土と宮殿を獲得する必要がありそのためにインカ帝国が急速に拡大したと、この本では解説しています(98~102頁、128~129頁)。この歴代皇帝のミイラの権力を奪おうとした新皇帝が混乱をまき散らしていたところにスペインの侵略が重なったためにインカがあっさり滅びたのだとも。そして、インカで皇帝のミイラが生きているものと扱われているのを見て驚いたスペイン人がミイラを徹底的に弾圧したために地中に埋められていた以外のミイラはほとんど残存していないそうです。
 インカについて、単純にスペインの侵略による被害者という位置づけでなく、ミイラを切り口にして多方面から論じていて、これまでとは違う視点を持たせてくれるもので、興味深く読みました。


恩田陸、NHK「失われた文明」プロジェクト
NHK出版 2007年6月30日発行
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ホーム・メディカ 虫歯・歯周病

2007-08-03 18:47:51 | 実用書・ビジネス書
 虫歯・歯周病についての一般向け解説書。
 虫歯も歯周病もバイオフィルム(歯垢が厚くなってその中で菌が増殖して膜を作ったもの)の中で細菌が活動することによる感染症という位置づけで、対症療法では治らない、原因をなくすことが大切という視点で書かれています。
 むしろ歯科治療がまたむし歯の原因になることもなんて書かれています。定期的なプロによる器械的な歯の清掃(バイオフィルムの除去)と薬剤による虫歯菌除去で原因を除去できる、だから定期的に歯科医に通いましょうっていうのが、この本の結論。
 新たな治療法の開拓に基づく記述なんでしょうけど、外野から見ていると、昔風の歯医者に行ってちゃダメ、新しい技術を持った歯医者に歯が痛くなる前から定期的に通いましょうって営業の話に聞こえ、歯医者さんも競争が激しくなってるんですねえって感想を持ちます。


花田信弘、井田亮、野邑浩美 2007年6月25日発行 小学館
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海賊ジョリーの冒険3 深海の支配者

2007-08-03 08:09:46 | 物語・ファンタジー・SF
 水上を歩き水中でも呼吸できる「ミズスマシ」の少女ジョリーが大渦潮(マールシュトローム)の攻撃から海上都市エレニウムの人々を守るために闘う物語の完結編。
 原作は2004年に3部作で完結していましたが、日本語訳は3年がかりで1冊ずつ出版されてようやく完結です。2巻はこのブログでは2006年9月10日の記事で紹介しています。
 3巻では最初から最後までエレニウムの攻防戦と「大渦潮」攻略で、血なまぐさい戦闘シーンと海中での心理戦が続き、私はちょっと疲れました。
 多くの大いなる存在ないし強大な力が数々の思惑を持って対峙する構成で、後半になるほど関係が複雑化していき、世界・正義は単純じゃないというメッセージが繰り返される感じです。ジョリーに近い大いなる存在(「神」ではなく創造主の手にならずしてこの世界に生まれたものだそうですが)「水の機織り女」が最後に謎解き役を務めます(346~353頁)が、それもどこか、真実は自分で考えよという突き放しも感じます。
 そういうあたりかなり抽象的・哲学的なテーマも感じますが、他方「大渦潮」がいじめ被害者の恨みから生まれたという設定はちょっと全体のスケールと違和感がありますし、後半はジョリーとグリフィン、ソールダッドとウォーカーのラブストーリーに収斂するのも、哲学的なテーマとはあわないような感じがしました。読み物的にはラブストーリー的なまとめはいいんですが・・・


原題:Die Wasserweber
カイ・マイヤー 訳:遠山明子
あすなろ書房 2007年7月30日発行 (原書は2004年)
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図解&入門 大人のための日本地理

2007-08-01 22:26:31 | 趣味の本・暇つぶし本
 日本の各地の人口とか気候とか山とか川とか湖とかの項目分けをして1項目見開き2頁で解説した本。
 見開き2頁だからもちろん深い解説はなく、トリビア的な興味で読むタイプの本です。
 河川は最近は「長さ」よりも「流域面積」で比較されることが多くなりましたが、流域面積って雨水等がその河川に流入する地域全体の面積なんですね(114頁)。川の表面積かと思っていました。
 製品出荷額最大の工業地帯は今や中京工業地帯(162頁)とか、政令指定都市はもう17もある(143頁)とか、面積最大の市は高山市(145頁)とか、昔習った知識では付いていけなくなっていますね。
 国立公園面積が最も大きいのは東京都で全体の33%が国立公園内(174頁)って、とっても意外。自然が守られてるとは感じにくいんですが。


浅井健爾 日本実業出版社 2007年7月1日発行
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