伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ダ・ヴィンチ絵画の謎

2017-07-12 23:57:28 | 人文・社会科学系
 レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画のうち、「モナリザ」と「聖アンナと聖母子と子羊」を中心にレオナルドの意図等を、レオナルドが残した膨大なメモ類からレオナルドの自然観・地球観・絵画観などを読み取ってそこから論じた本。
 レオナルドの父親が公証人で様々な裕福な宗教団体の代理人を務めていたため大口の注文があったがレオナルドが悪戦苦闘した挙げ句にすべてを未完成のまま放棄し、債務不履行のため信用を失い、フィレンツェを離れミラノに移住した(51~54ページ)、ミラノでも契約通りに完成できず何年も放置して訴えられた(59ページ)、「南半球の水の重さが大地を押しているので、北半球のユーラシア大陸とアフリカ大陸が海面から突出したと考えている」(73ページ)などの説明は、天才・偉人のレオナルド像を見直させるもので興味深く思いました。
 大地の隆起(それ自体は、現在は、プレート・テクトニクス、ホットプルームによる造山運動として理論づけられるわけではありますが)についてのレオナルドの考えから、「モナリザ」「聖アンナと聖母子と子羊」の背景、特に遠景の切り立った岩山、その崩落、川の流れなどとのつながりはいえるのでしょうけれども、そこに示された意図については、著者も必ずしもすっきり説明できていないように感じられますし、「モナリザ」の制作経緯に関する推理はロベルト・ザッペリの仮説(155ページ~)に依拠しているので、著者が見事に謎を解いてくれたという読後感を持ちにくいのが哀しい。


斎藤泰弘 中公新書 2017年3月25日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

陽性

2017-07-11 22:08:13 | 小説
 21歳のトップアイドル上原なつきの妊娠をめぐり、交際相手の売れない俳優、おつきのヘアメイク、スタイリスト、マネージャー、事務所の実力者の陰のオーナー、相手の俳優のマネージャー、ライバル女優、芸能記者、郷里の両親などの反応・対応、右往左往と思惑・対立関係などを描いた芸能界内幕系のアイドルの恋愛・出産を考えさせる小説。
 最初の方でなつきの出自に関してさらっと謎めかして放置される情報があり、ずっと気になっていましたが、それはラストで回収され、もうひとつのいかにもぶら下げた布石というか謎の「ティンカー・ベル」も、途中でわかりますが、最後にはご丁寧に解説され、様々な点でひととおり謎が説明された感がある結末です。(130ページの足のあざは・・・? (^^;) それくらいは大目に見よう)
 青春小説として読んでも、芸能界内幕ものとして読んでも(通には中途半端感があるのでしょうけど)、ミステリーとして読んでも、そこそこに納得感がある作品かなと思います。


中尾明慶 双葉社 2016年1月24日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あせらず、たゆまず、ゆっくりと。 93歳の女優が見つけた人生の幸せ

2017-07-10 19:42:38 | エッセイ
 森繁劇団での舞台女優活動と「渡る世間は鬼ばかり」などのテレビドラマで活躍し、2013年に「ペコロスの母に会いに行く」で89歳にして映画初主演し「世界最高齢での映画初主演女優」としてギネスブックに登録された著者が語る思い出と人生論。
 この本の執筆の動機として、娘から「ママ、辛いだろうけど、繰り返してはいけない戦争を、“本当に心底ダメ”と言えるのは、そのときを生きた人しかいないのよ。その人からしか生まれない言葉なんだから、断ってはダメ」と背中を押されたことが挙げられている(3~4ページ)こともあり、戦争経験には思い入れが見られます。
 終戦直後満州でソ連兵と対峙し、発疹チフスに罹って死線をさまよい、ひたすら歩き続け、衰弱しきった次兄を見つけて軍と交渉して取り戻し日本に帰り着いたがすぐ次兄が死亡した(26~34ページ)という語り、「戦後、満州からの引き揚げのとき、ソ連の軍隊が迫る間際、急きょ乗り込んだトラックで、自分たちはわずかな乾パンだけを持っていました。一緒に乗り合わせた日本の軍隊の人たちは食料をたくさん持ち込んで食べていました。私たちは大人も子どもも、ひもじさを抱えて、彼らの食事をただ眺めていました。それは、とてもつらいものでした」(46ページ)、「戦前戦中戦後と、自分が食べたいときにろくすっぽ食べられなかったので、一緒にいる人全員のお腹の具合が気になって仕方がないのです」(45ページ)、「戦時下では思想的な偏向は教育だけにはとどまらず、芸術、演劇、芸能、スポーツなどに広くおよびました。どこにいても軍部の思想チェックが入り、戦意高揚に消極的だったり、少しでも左翼寄りと見なされると容赦なくパージの対象にされる時代。私がロマンティックな映画が好きなのは、そんな暗い時代の記憶を忘れさせてくれるからかもしれませんね」(151~152ページ)、「青春時代と呼ぶ年ごろを戦争のなかですごした私にとっては、50代からが青春だったかもしれません」(169ページ)などの記述は、実感がこもり、味わい深いというか、日本を再び「戦争のできる国」にしたがっている連中にかみしめてもらいたいところです。
 「俳優の仕事とは、先がまったく見えないものです。『一』はなかなか『二』にならないし、努力しても仕事が来るようになるかどうかはわからない。実力のある人が必ず、日の当たる場所に行かれるとも限らない。ひと作品終えるごとに失業者、一生、次の就職活動です」(188ページ)。自営業者にとっては、身に染みる言葉です。


赤木春恵 扶桑社 2017年3月14日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

転職に向いている人転職してはいけない人

2017-07-09 21:16:17 | 実用書・ビジネス書
 転職サイト「リクナビNEXT」の元編集長で転職支援サービス事業を運営する著者が転職求職者向けに転職市場の実情などを説明する本。
 転職市場では年齢が35歳、40歳、45歳で事情が大きく変わり、転職により収入が増える可能性は年齢が上がると小さくなる(35~38ページ)、3回以上の転職は特に年齢が若いほど不利に評価される(40~41ページ)といったことに加えて、「1件の求人に対して、人事担当者が受け付ける応募者は(職種や地域によってかなり幅がありますが)約30人存在すると仮定しておきましょう」(39ページ)と説明されています(30倍の根拠はまったく説明されていません。「仮定しておきましょう」でその後はまるで既成事実のように話が進められます)。転職市場は求職者が思っているよりも厳しくライバルが多く市場の評価は自己評価より低いのだから、あれこれと慎重な検討をするよりもまずは応募してみて条件も高くしすぎずに妥協することを勧めることに通じます(反面で、転職市場で魅力のない人物は転職など考えずに現職にとどまった方がいいということにもなりますが)。
 大企業の事務系の管理職など、自社での経験はその企業の風土や恵まれた業務環境、企業のブランド、支えてくれた部下の質などによる部分が多く、過去の成功も(自己評価とは異なり)自身の力量による部分は多くなく、他社で使い物になるかは疑問があるということは、よく言われることで、過去にやってきたレベルの努力を続ければ他社でも自分にニーズがあり過去の待遇水準をキープできるという幻想を持つ求職者に対して「会社を超えても通用する競争優位なスキル水準を獲得するために、これまでの2倍、3倍の努力が必要になる」(81ページ)と諭すことはいいと思うのですが、同業種・同職種にこだわる転職者にまったく未経験の分野への転職の成功例を挙げて煽るのもいかがなものかと思います。
 たぶん、その成功例の陰に、やっぱり失敗したという例が多数あるのではないかと思いますし、求職条件をエージェントのすすめに応じて柔軟にしろ(妥協しろ)というのは、エージェントにとってとりあえず成約させるのが容易になる(エージェントの利益になる)話ですから、そこは割り引いて聞いておくべきだろうと思います。


黒田真行 日本経済新聞出版社 2017年5月24日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラックバイト[増補版] 体育会系経済が日本を滅ぼす

2017-07-08 19:17:35 | 実用書・ビジネス書
 学生を安く買い叩きながら責任を負わせ長時間労働を課しノルマまで課して自腹を切らせたり罰金を科するなどの身勝手で強欲な経営者たちが蔓延して学生らが食い物にされている近年の日本社会の実態・病理を告発する本。
 労働者側の弁護士である私としては、ブラックバイトの実情を説明する第1章とその違法性を論じ、解決方法を示す第8章に強い関心を持ちました。解決方法は、確かに使用者側への請求額がかなり低い場合が多いために弁護士が代理して事件化するには依頼者が弁護士費用倒れ(解決によって得られる経済的利益より弁護士費用の方が高い)になりかねないケースが多いと思われ、弁護士の感覚では労基署を利用するとか本人申立のあっ旋(労働局や自治体等)を勧める場合が多くなると思いますが、著者の他団体との関係もあり労働組合(地域ユニオン等)による団体交渉による解決が強く推奨されています。
 この本全体としては、ブラックバイト被害のパターン検討(分析)(第2章)や被害の調査(第3章)、ブラックバイトが蔓延する背景・原因の分析(第4章~第6章)、ブラックバイトの定義(第7章)など原因の検討と改善への政策的な方向性を追求することに重きが置かれている感じがします。
 原因の検討で、日本の奨学金制度が世界的には異例の「貸与制」中心で学生に負債を負わせていること、日本学生支援機構(旧日本育英会)は有利子の奨学金を貸し付け回収するただの貸金業者に堕していることについては、まったくその通りと思います。日本学生支援機構の奨学金は近年は貸付の際に2人以上の収入がありかつ別世帯の保証人を要求し、それが満たせないときは保証業者を付けて5%の保証料を徴収するなど、やってることは本当にただの金貸し、学生・貧困者を食い物にする金融ビジネスとしか思えません。また、近年企業側が年功賃金を切り下げるために言い出して流行った「成果主義」などというものが、本来企業・経営者が負うべき経営責任を末端労働者に責任転嫁・丸投げするものだという指摘(190~192ページ)もなるほどと思います。そういう経営者が本来負うべき責任を末端労働者に押しつけ、それが以前はそれなりの賃金を支払われる正社員レベルだったものが、近年は最低賃金レベルの非正規労働者・アルバイトにまで平気で押しつけられるのがブラックバイトの過剰な組み込み(過剰なシフト:授業にも出られなくなる)やノルマ、自爆営業だというのです。まったく日本の企業・経営者がどこまで身勝手で強欲で恥知らずになれるのか、それを許すように「労働の規制緩和」などを推し進める政治家たちがのさばる様は目を覆いたくなります。
 私たち弁護士は、そういった法規制が進まずむしろ企業がやりたい放題にできるよう緩和されていく中で、個別の事件でよりよい解決をしていくしかありません(その意味で第1章と第8章に興味を持ちます)。しかし、全体としては、企業・経営者の身勝手で強欲な行動を規制するような、また日本学生支援機構の横暴を抑制し給付制の真の意味での奨学金が広がるような制度改正こそが必要です。その意味でこういった本が広く読まれるようになるといいなと思いました。


大内裕和、今野晴貴 POSSE叢書(堀之内出版) 2017年3月31日発行(初版は2015年4月) 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

坂の途中の家

2017-07-07 21:01:10 | 小説
 2歳児の娘を持つ専業主婦里沙子が、8か月の娘を水のたまった浴槽に落として死なせた児童虐待死事件の補充裁判員に選ばれ、公判が続く10日間、娘を日中夫の両親に預けて審理に加わり、その過程で、娘や夫、夫の両親らとの軋轢、行き違いを生じ、次第に自らを被告人の女性に重ね合わせていくという展開の小説。
 何でも気軽に話せる友人を持たない孤独な子育てママが、夫や夫の母の善意を圧力と感じ、夫が相談するメールを覗き見て夫の浮気を疑い、夫の母の訪問も保健婦の訪問も断り、心理的に追い詰められ子どもに暴力を振るい、虐待して行く姿を、他の裁判員が身勝手で冷たい女と評価するのに対し、主人公が、自らに重ね、あり得る姿、自分だったかも知れない姿を見いだしていくというパターンです。
 私が疑問に思うのは、作者が、この主人公をどのように位置づけているのか、どのような読者層を想定しているのか、この主人公は、多くの/普通の子育てママにとって、自分もありうるものと感じられ、共感できるのか、です。夫や夫の母らの言葉を素直に受け取らず猜疑心を持ち続け悪意に解釈し苛立ち続ける姿は、多くの読者に、「あるある」と思われるのでしょうか。ぐずり続ける子どもに苛立つことは、普通にあっても、その子が夫や夫の義母には泣かずに甘えているのを子どもの悪意と受け取るでしょうか(子どもの態度、機嫌は、親の態度・感情を反映していることも多いと思いますが)。人気の無い夜道でぐずった子どもを置き去りにしたことを夫に見とがめられて批判されたのを「誤解」だと正当化することに執着する姿は、子育てママの共感を呼ぶのでしょうか(暗い夜道で置き去りにされた子の恐怖感には想像が及ばないものでしょうか)。夫の長期にわたるさまざまな言動をすべて自分に劣等感を植え付けるためだと断じ「相手を痛めつけるためだけに、平気で、理由も意味もないことのできる人間」と評価し、子どもを夜道で置き去りにしたのを見つけた夫は「小躍りしたい気分だったのではないか」とまで考える姿(369ページ)に共感する妻は多数いるのでしょうか。自分の娘を死なせた妻に対し離婚するつもりはない、罪を償ったあとはあらたに2人で歩んでいきたいと語る被告人の夫の言葉を聞いて、絶望を感じ「この妻は、子どもまでなくすほど虐げられたこの妻は、その罪と向き合ってもう一度世間に戻っても、あの夫から逃げられないのか」(373ページ)と思う主人公と同じ感想を持つ妻が多数いるのでしょうか。
 私には、ジコチュウで視野狭窄で周囲の人物の善意を素直に受け止めず殊更に悪意に評価し自分だけが苦しい思いをしていて自分は正しく起こった問題はすべて周囲の人間のせい(その悪意によるもの)と考え続けるこの主人公が、子育てママの多くと重なったり共感を得るとは考えにくいのですが。そういう思いは、子育てママの立場に立ったことがない男の偏見だと、世間では受け止められ、また作者はそう考えているのでしょうか。


角田光代 朝日新聞出版 2016年1月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不倫女子のリアル

2017-07-06 22:33:32 | ノンフィクション
 フリーランス編集者の著者が、自分の周りで探したりつてをたどってインタビューした9人の「不倫女子」の事例を並べた本。
 経済的に自立し、不倫を謳歌している人を選んでインタビューしています。9名のうち年収が最低の人が400万円(28歳、契約社員)で、450万円1人、500万円2人、600万円3人、約800万円1人、1000万円1人ですから、これだけで十分平均像からかけ離れたラインナップだということがわかるでしょう。そういう余裕のある人々が不倫を謳歌しているという本です。まぁ、弁護士のところに来る不倫のケースは、悲劇となり事件化してから来るわけですから、私が目にする不倫カップルたちも、当然にこの本とは別の方向に平均像から外れていると思いますけど。
 それにしても・・・登場する女性たちの「経験人数」が、既婚者では「結婚前2人/結婚後15人以上」「結婚前10人/結婚後5人」「結婚前5人/結婚後5人」「結婚前3人/結婚後10人」「結婚前5人/結婚後8人」、シングルは「15人」「約35人」「約40人」「約20人」って。謳歌している人たちだからなんでしょうけど、すごいというか、かわいげがないというか、あっぱれというか・・・


沢木文 小学館新書 2016年6月6日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

貧困女子のリアル

2017-07-05 22:48:18 | ノンフィクション
 フリーランス編集者の著者が、自分の周囲で探したりつてをたどってインタビューした11人の「貧困女子」の事例を並べた本。
 著者自身が、「貧困女子といえば、メディアで報道されている家族関係や健康問題に端を発し性風俗産業などで搾取され、家もない女性というイメージがある。シングルマザーの貧困も問題になっている」(3ページ)などとしつつ、この本ではそこそこの中流家庭に育ち大卒・短大卒の「貧困女子」が選ばれてインタビューされています。そういう人でも貧困に陥ることをある種の驚きを持って読ませようという意図でしょうし、実在する事例ですから当然に「リアル」でもあります。しかし、それが現代日本社会の「貧困女子」の全体像とマッチしている保証はなく、著者にそれを示そうという意思もないでしょう。そういった意図的に方向を決められた特定パターンを読まされているということは意識しておく必要があります。
 貧困の背景には労働問題があり、この本でもそのことに触れてはいます。「彼女たちの貧困の背景は大きくふたつある。ひとつは非正規雇用だ。裁量も与えられず命じられるままに薄給で仕事をこなしていると、突然雇い止めになる。まさに期間限定の“使い捨て”。ふたつめは、ブラック企業や男性社会でこき使われ、燃え尽きること。厳しく辛い環境下での労働は、うつ病などの発症にもつながりかねない。就職氷河期にやっとの思いで就職し、パワハラやセクハラを受け、会社の言いなりになってこき使われ、挙げ句の果てに解雇される。実に報われない。」(5ページ)。いや、報われない、で止めないで、更新を繰り返した後の雇い止めや十分な理由のない解雇は無効になり得る、闘えるよって、そういう問題を書くのなら、ちゃんと説明して欲しい。正社員を減らして非正規雇用に切り替えて安くこき使おうという企業・経営者の強欲さ/身勝手さを追及するスタンスは、この著者には見られません。終盤で非正規労働者が増えたことを論じているページでも、経営側の問題点を言うのではなく、「余談になるが団塊世代が再雇用されたことで、派遣先から雇い止めを受けたという人も少なからずいる」という言葉で結んでいます(157ページ)。高齢者が再雇用されても、それは前から勤務している人が定年前に続けて雇用され続けるだけで人員は増えず大半の(強欲な)経営者の下では定年後は同じ仕事をさせながら(だから職場の仕事量も減らない)給料が大幅に減る(だから経営者の元にむしろ金が余る。結局再雇用の前後で状況は何も変わらずただ経営者に残る金が増えるだけ!)というわけですから、派遣労働者を切る方向に働く要素はまったくありません。仮に経営者がそんなことを言ったらそれは別の理由で派遣労働者を切るのにそういう口実を使った(どう考えても嘘)ということのはずです。それなのに、そういう洞察力もなく、全然理由にならない派遣切り(雇い止め)を経営者の問題を指摘することもなく紹介し、派遣労働者と高齢労働者を対立させ分断させるような文章を書くような人物がいるのは、実に嘆かわしい。
 自己破産についても、弁護士費用が20~30万円かかると、なぜか「公認会計士」に説明させています(101~102ページ)。司法支援センター(法テラス)を利用すれば15万円程度で月5000円とか7000円の分割払いで済むことは、どこにも書かれていません。この人が知らないのか、困った人にも破産を諦めさせたいのか、私の目にはとても不親切な説明に見えます。どうして弁護士費用や破産制度の説明を弁護士にさせないで、公認会計士にさせるのかも含め、著者のノンフィクション執筆の姿勢にまで疑問を感じてしまいました。


沢木文 小学館新書 2016年2月6日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地球の歴史(上)(中)(下)

2017-07-04 22:54:43 | 自然科学・工学系
 太陽系と地球の誕生から現代に至るまでの、地球の変化、生命の誕生と進化・盛衰について解説した本。
 非常に長期間の大きなスケールでの大きな話が語られ、知的好奇心をそそられまたある程度それを満たすことができるという点でも、読み物としても、興味深い本です。
 私の関心としては、プレート・テクトニクス(大陸移動)が地球に(特に陸上に)生命をもたらしたという説明/主張に大いに興味をそそられました。海洋プレートが大量の水を含んだままマントル内に沈み込むことで海洋の(プレートより上の)水を減らして海の深さが現状程度にとどまり陸地が相当程度(現在地球表面の約3割)存在できている、当初はマントル上部と下部で別々の2層の対流だったものが水で冷やされた海洋プレートが沈み込みを続けるうちに28億年前にマントル下部までまとまって崩落するに至り(コールドプルーム)マントル全体での(1層の)対流が生じ、外核(液体金属)上部を冷却して外核内での対流を生じてこれが地球の磁場を発生させ、この磁場によって太陽風などの宇宙線が地表に届かなく(届きにくく)なり陸上でも生物が暮らせるようになった、またコールドプルームの下降流に対しマントル内での上昇流ホットプルームを生じてこれがマグマを噴出させて大きな大陸を作っていく、というような話です。
 興味深いエピソードが多数ありますが、同時に、どの程度実証されていることなのか、数字を挙げて見てきたように言われると、そんなことまでどうしてわかるのか疑問に思えます。12万3000年前までの氷期に人類の総人口は1000人を切るほどまで減ったと推定されている(下巻216ページ)、7万4000年前のトバカルデラの大噴火では人類が総人口は約1万人から3000人まで減少した(下巻233ページ)なんて、ミトコンドリアのDNA遺伝子に関する調査によるとか言われるともっともらしいけれど、そんなところまで本当に特定できるのかなと思ってしまいます。


鎌田浩毅 中公新書 2016年10月25日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

AV出演を強要された彼女たち

2017-07-03 22:26:25 | ノンフィクション
 「ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS:People Against Pornography and Sexual Violence)」と「NPO法人 人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」が行っているAV被害者相談支援事業の経験から、相談事例と筆者らの活動、弁護士を介した交渉事例などを紹介した本。
 相談者自身が資料・証拠をほとんど持っておらず、思い出したくない内容だというような事情もあって記憶の方も曖昧な部分があるということがあるのでしょうけれども、内容のわりに、業者の行為を違法だと断言せずに、慎重なというか遠慮したというか筆者の戸惑いためらいが感じられる書きぶりです。
 弁護士としての感覚でいうと、契約書にサインし、いったんは合意したということだとしても(どこまで説明されているか、理解したかは怪しいと思いますが)、裸体をさらしましてや性行為を行うという内容の契約を本人が(気が変わって)いやだと言っているのに履行させる/拒否したら違約金を支払わせるという契約は、公序良俗違反で無効と言ってしまっていいと思います。少なくとも、性行為とその撮影の拒否は、契約書にサインしていても、後から気が変わったという主張でも、全然問題ないし違約金請求が来ても支払わなくていいと思います。そこは遠慮した書き方しなくてもいいんじゃないかと。撮影までしてしまった後の販売禁止請求とかは、そう簡単ではなくて、いろいろ工夫がいるだろうとは思いますが。
 プロダクションとの解約交渉で立替金等の出費100万円の返還請求をされ和解に至らずうやむやに終わったケースで、本人が音信不通となったのに「弁護士への弁護料の支払いが、着手金以外に残っていた。弁護士からクレームが来た。」(69ページ)って、書くかなぁ。組織的な力もない運動体の持ち込む困難な事件にお付き合いして、こういうふうに書かれるの、弁護士の側からしたら泣きたくなると思うんですが。それも「ヒューマンライツ・ナウ」の「I弁護士」って・・・ヒューマンライツ・ナウにほかにも「I弁護士」がいるかもしれませんけど、13ページでは「手探り状態の私たちが連携を求めたヒューマンライツ・ナウの事務局長伊藤和子弁護士」と書いていることを見たら読者100人のうち100人が同一人物だと思うんじゃないでしょうか。


宮本節子 ちくま新書 2016年12月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする