本日の十五夜の月は美しい。秋の高く薄い雲がゆっくりと東から西に流れ、橙色の火星を従えた月が悠然とたたずんでいる。ときどき丸い暈が後光のように柔らかく広がる。
雲によって月はさまざまな表情を見せてれる。このような月ならば一晩でも見飽きることはないと思う。
本日は岩波書店の「図書10月号を半分ほど。本日目をとおしたものは次の8編。
・[表紙]ジョークの刺激 司 修
「わたしたちは奄美にいて、ヨーロッパの終着駅構内のようなところうろうろしていました。奄美にそんな絵があるはずないのです。‥沖合に三角形の小島が見えました。それはたしかに奄美の風景でした。前の晩、‥それは小さな河豚料理店で奄美の話をしていたのです。‥」
・福島の哲学者とオルテガ 宇野重規
「かつて福島県の原町に、佐々木孝という哲学がいた。生涯をオルテガ・イ・ガセットやミゲル・デ・ウナムーノを中心とするスペイン思想の探求に捧げ、スペイン語とスペイン文化を教えた。‥この地で福島原発事故を体験した佐々木は、その渦中にあってスペイン思想の意味を考え続けた。‥佐々木は原発事故を受け、東北のみならず日本とは何か、東北と日本の再生はいかにして可能かを模索した。佐々木の目に、事故の原因究明はもちろん、そこに至った日本の近代を徹底的に問い直すことなく、目をそらす日本の現状は嘆かわしいものだった。佐々木が遺した訳稿によって、先ごろ、岩波文庫でオルテガの「大衆の反逆」が刊行された。(オルテガ)のいう大衆とは、文明の便益を享受しながら、その文明を可能にしたものについて問わない人々であった。それはまさに現代人の自画像である。」
・対談「日没」を迎えて 桐野夏生・武田砂鉄
(武田)「「コロナ感染は自業自得だと思うか」というアンケートをした結果、‥日本は11.5%が「本人が悪い」と答えたそうです。この突出した数字を安倍首相も小池都知事も理解しているんですよね。「補償金を出さなくても、誰かしらが自粛警察として働いてくれる」と。」
(桐野)「「夜の街」に非を押し付けるというのも、日本だけですよね。自己責任論って日本人の性質と合っているんじないですか?‥収容所なんて作らなくとても勝手に自滅するかもしれませんね。」
(桐野)「若くてはっきり意見を言う人を「しゃらくさい」と思っている。だから、やはり、若い女性に希望があるかもしれません。彼女たちは就職先もなく、六割くらいが非正規で、貧困化も進んでいる。「社会が悪い」と真剣に怒っていますよ。フェミニズムの視点から社会の仕組みを見て行けば、自分たちがいかに搾取され、騙されてきたか分かるわけだから、そこを起点に変えていってほしい。怒っている若い女性とそのハートナーたち。萌芽はそのへんでしょうか。」
(武田)「きちんと絶望するというのは、逆説的に、明るさへの道でもありますね。この小説を読んでいて、少し先にある未来が描かれているような「嫌な気持ち」を終始感じました。」
・演劇と絵画の結婚 高階秀爾
「(ワッツ・ギャラリー)はジョージ・フレデリック・ワッツの1837年ロイヤル・アカデミー店に出品されてワッツの名を一躍世に知らしめた「傷ついた鷺」をはじめ、初期の作品から、世紀末的幻想趣味の濃厚な「愛と死」、「パオロとフランチェスカ」などの代表作を経て、最晩年の未完の「自画像」まで、全体で150点ほどの作品がほぼ年代順に並べられている。それはイギリス耽美主義の夢の迷宮のような趣きであった。」
・でこぼこに 川上弘美
「子どもの頃の読書においては、わたしはいつも物語の中の風景や人物が実際にあらわれたとしたら、自分はそれに耐えうるか、という視点で読書をしていたのだ。‥」
・ユカㇻとは? 中川 裕
・知識と社会の過去と未来 М・ウェーバーから百年(2) 佐藤俊樹
「コトバだけでは十分にとらえられないことを、無理にコトバだけで語ろうとすれば、コトバ自体が腐食し陳腐化してしまう。メディアだけではない。政治家のコトバでも全く同じだ。それも今回の出来事ではっきり見えてきた。もちろん、そんな現状にに危機感をもつ関係書も少なくない。」
・仏作って、魂入れず -2013年8月、ロンドン 亀山郁夫