おそ松さん妄想日和:十四松は「腹黒い」のか?

2017-02-03 12:15:09 | レビュー系

 

 

 

 

今日、果たしてこれほどまでにcontroversialな話題があるだろうか、いやない。というのも、十四松という人間は、普段が底抜けに明るく相手が引くのも省みずどんどんネタを繰り出す六つ子の中のビッテンフェルトであるため、少しでもそれに反するような行動・言動があると大いに目立つからだ。加えて、作中でも「実は闇を抱えているのでは?」といった一松の発言もあり(一応すぐに否定されているが)、作品自体裏があることを連想させるようなフックをいくつも仕掛けているのである。このような中で、パチンコ勝利口止め事変(cf.桃白白式移動)や灯油戦争(cf.どてら魔人は鍋一気の夢を見るか)が視聴者の好奇心をくすぐったことは無理からぬことであろう。「十四松には、いくつかの事例から明らかに二面性があるように思える。とすれば、普段はそれを隠している彼は腹黒いのではないか」と(まあそもそも、灯油戦争は[ハタ坊タワーならいざ知らず]松野家だと毎年起こりうる話であるにもかかわらず、他の五人が十四松の新しい一面を発見したような展開になっており、かなり必然性がないというか、「ためにする」話という感じはするが)。

 

とはいえ、「腹黒い」という言葉が極めて曖昧なまま使われていることもあって、議論は平行線をたどっているように思える。そこで取りあえず補助線として広辞苑先生にご教授いただくとこうだ。

「心に何か悪だくみをもっている。陰険で意地が悪い」

この定義はドライモンスターたるトド松を連想すれば思い半ばにすぎるだろう。ただ、十四松がこの定義に当てはまるのか?というと疑問である。なるほど確かに、灯油戦争の際、「灯油を入れてこい」とは言わず「キレてるよ、灯油」と言ったのは婉曲的なプレッシャーのかけ方であり、この点を「心に何か悪だくみをもっている」に当てはめることはできる。またおそらく、その前の侮蔑的発言が原因だろうと推測されるが、チョロ松を理由も告げず指名したのは「陰険で意地が悪い」と言うことはできるかもしれない。

 

しかし、だ。「腹黒い」が曖昧だと言った以上、その類語にもあたってみると、「悪賢い」「ずる賢い」「こざかしい」「狡猾」といった言葉が出てくる。そう、「腹黒い」という言葉を十四松に使った場合の明らかな違和感は、この「賢い」という要素なのである。なぜ違和感を覚えるのか?たとえばパチンコ勝利口止め事変を例にとって考えてみよう。このエピソードにおける十四松の振る舞いについては、灯油戦争と絡めてカラ松の意図がわかっててわざとバラそうとしている(下手をするとそれで慌てる様を愉しんでさえいる)と解釈する向きもあるようだ。なるほどだとすれば実に「陰険で意地が悪い」が、しかしそれならどうして、カラ松・トド松両方から迫られた時には何も言えなくなってパチ玉バーストしてしまうのだろうか?この矛盾について考えてみるに、そもそも十四松が「腹黒い」のであれば(つまり「賢い」要素があれば)、最も賢明な選択、すなわち六つ子で勝ち金をシェアした時の取り分よりは多い額を口止め料として請求するであろう(そして後のカラ松とトド松を掛け合わせたかのごとく、「これでウィン―ウィンだね」と笑顔で言うわけだ)。しかし十四松は、アメをもらってうなずいて、でもすぐに秘密をしゃべってしまおうとしている。これはむしろ、秘密だと言われたら後先考えずバラしたくてしょうがなくなる幼児的振る舞い(「いかにも頭の悪いガキんちょ」と言い換えてもいいが)の典型であろう。つまりここでの十四松スタイルは、彼が腹黒いどころかむしろ天然である(裏表がない)ことを印象付けるものである。

 

では、灯油戦争はどうか?先にも触れたが、実は十四松が起きてて誰かが灯油を入れにいってくれるのを待っており、「キレてるよ、灯油」発言をしたことは、思ったことを何でも口にするわけではないという意味で、いわゆる「アホの子」ではないとは言いうるかもしれない。しかしながら、先のパチンコの件と同じで、私はここに一分も「賢い」要素を見出すことができないのである。たとえば、あなたの周りには、ある状況になると無茶苦茶機嫌が悪くなる人はいないだろうか?ちなみに私は眠い時がそうで、とにかく喋らないし愛想の欠片もなく、喋ると殺人的な口の悪さを発揮する・・・という次第である(まあ首を絞めたりはせんけどねw)。その他、腹が減った・体調が悪い・阪神が負けた・賭け事で負けたetc...と他人の事例も含めて十四松のギャップは非常にありふれたもののように見える。

 

ではその「ありふれた」行動・言動は「腹黒い」と評価できるものなのか?つまりはそこに「賢い」要素はあるのだろうか?私の答えは否である。たとえば、先に述べたようなある時極端に機嫌が悪くなったり横暴になったりというのは、相手に直接的原因がない限りただただハタ迷惑なもので、良くても「あの人今ヤバい状態だから近づかない方がいいよ」と敬遠されるぐらいがオチである。それゆえに、かような行動は(あえて言えば子供じみた)迷惑なものと認識され評判の低下にこそなれ、評判が上がることは決してない(まあそういうキャラとして諦められることはあるかもしれないが)。ゆえに、多少なりともメタ認知能力のある(≒賢明な)人間であれば、むしろ今の心情を素のまま出すのは危険と考え、振る舞い方を考えるものである。

 

こうしてみると、灯油戦争における十四松の賢明な行動とはむしろ真逆で、寒さへの不快感を隠す余裕は全くなく、それを少しでも避けようと頑強に抵抗するばかりである(良し悪しはさておき、そこにはスマートさの欠片もない)。その意味において、彼の行動は「腹黒い」どころか多分に本能的かつ情動的である。もし仮に多少なりとも「賢い」要素があるとすれば、最初から最後まで狸寝入りを決め込むか、心底寒さにやられてるフリをして同情を引くであろう(後者はいかにもトド松っぽい)。以上要するに、はた迷惑ってことと「腹黒い」ってことは全然違うぜという話で、十四松でもこんなに機嫌が悪くなるんだ・・・と二面性が明るみになったからといって、そこには賢明さの要素が微塵もなく、むしろその機嫌の悪さに計算=裏表がないという意味で「腹黒い」とは言えないのである。

 

まとめると、十四松の「腹黒さ」の根拠として取り上げられることの多いパチンコ勝利口止め事変や灯油戦争は、むしろ十四松の幼児性であると考えた方がすんなり説明できるのであって、少なくとも私は彼ってやはりお子様なんだなあ、という認識を強くするだけである(ここで違和感がぬぐえない人は、多分に無邪気=善というありがちなイメージに毒されているように思える)。

 

まあもっとも、分身や巨大化すらしてしまうキャラに対して、本当は「腹黒い」だのそうじゃないだの言っても無意味って感じもするよね・・・と自分でちゃぶ台をひっくり返しつつ、この稿を終えることにしたい。


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