読みごたえのあった現静岡県知事川勝平太『富国有徳論』(中央公論新社、2000.1.)を読んだ。県知事になったのが2009年だから、就任前に書いたいくつかのエッセイを集成したものだ。
要するに、富国強兵という西洋の「力の文明」の破たん・限界が明らかになった今日、文化・自然を基調とした日本の和の文明を再評価した国家戦略をたてるべきだということだ。
「近代化の終点は都市ではなく田園にある」として、緑豊かな「庭園国家」を主唱する。「富国有徳」は小渕恵三元総理が気に入った言葉として利用されたという。
世界の文明の高さがヨーロッパではなく中国やイスラムにあったとき、産業革命に成功したイギリスが「脱亜」を果たして大英帝国が世界を凌駕する。
日本の「脱亜」は、西欧流の富国強兵によって「入欧」に成功するが、太平洋戦争で破たんする。その教訓がいまだ生かされていない。
ダーウィニズムの競争原理に対して今西錦司の「棲み分け」理論の先見性を紹介し、これからの方向を指し示す。
川勝氏は、自分中心に「生きる」西洋に対し、モノや人を「生かす」日本の発想がこれからの世界を拓くと指摘する。
川勝氏の発想が静岡県政にいかに反映されているかはわからない。自民党にいびられてきた川勝氏はぜひ卑近な瑣事に翻弄されずに大志を貫いてもらいたいと切に思う。
今まで構築してきた理論をより具体化して、それをもっと発信するべきではないだろうか。田園に暮らすオイラの世界にはまだ川勝理論は届いていないぜ、よ。