山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

古代と近代の日朝関係をつなげた歴史ロマン

2020-05-16 17:47:16 | 読書

 安彦良和氏の近代歴史三部作の一つともいうべきマンガ『天の血脈(ケツミャク)』(講談社、全8巻、2012.8~2016.10)を読み終える。日朝を中心とした東アジア史を描いたもので、それは古代以来深く関係していた世界ではあるものの、現代ではタブーに近い扱いのテーマだ。それをあえて取り上げた安彦氏の勇気に前々から注目していた。

            

 主人公はスーパーヒーローではないさえない一高生<安積亮>が設定されているところが新しい。彼は信州に移住した海人・安曇族の流れをくむところが、以前からオイラが関心を持っていたところと一致する。

            

 戦前の右翼はアジアやインドの革命家を支援するなど懐が大きい。日本が朝鮮を併合する過程では右翼の<内田良平>の魅力と暗躍がしばしばマンガに登場する。しかし、「世界中の王室が全部なくなっても我が皇室は護らなければならん」と、天皇の「御稜威(ミイツ、威光)」の絶対性を言わせている。つまり、天皇制の在り方をそれとなく批判しているが、さすが元全共闘の闘士だった安彦氏のタブーへの挑戦を見せてくれる。

       

 近代の日本のアジア外交はどこで間違ってしまったか、という点では、日清戦争からだと安彦氏は指摘する。また「日本の視野に入っているのは、朝鮮の独立ではなくて植民地化だった」と喝破する。だから、朝鮮独立運動への支援も及び腰となる。

          

 主人公の安積は高句麗の英雄「好太王碑」の調査に出向く。その調査にかかわる研究者の立場をやんわり擁護しているが、それは同時に、当時も現代も権力者に対して及び腰の学者の姿を浮き彫りにしている。

  

 安彦氏と対談した評論家の松本健一氏は、「1970年ごろというのは若者がまだ世の中を変えられると思っていた時代で、その空気の中でマンガやアニメも盛んになりはじめた」が、今はドラマでも女と男の恋愛関係ばかりで、「<時代閉塞の現状>の頃に近くなっているのかなという気がします」と、啄木が嘆いた時代の基底に流れる類似を指摘した。

 そこに、フィクションという手法でマンガをアイテムに提起しているのがこの『天の血脈』ということになる。さて、それがどれだけ影響したのかは言うまでもないことだが。

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