「最近、驚いたこと」の第29回目は、美容師で冒険家の稲葉香さん。
先日、NHK Eテレ「こころの時代〜宗教・人生〜」の、
「歩き続ける、その先に 稲葉香」(放送日:2025年2月2日、再放送:2月8日)を観た。
「歩き続ける」というタイトルに惹かれて、
〈歩くことにこだわりのある人のドキュメンタリーかな?〉
と、軽い気持ちで観たのだが、
予想とは違う内容に、ちょっと驚かされた。
大阪・千早赤阪村で小さな美容室を営む稲葉香さん(51歳)は、
関節の変形や痛みが生じる重いリウマチを患いながら、
20年以上ネパールの山々を歩き続けてきた。
困難に挑み続ける功績が評価され、2020年「植村直己冒険賞」を受賞。
酷使してきた足首の病状が悪化するなか、
去年(2024年)、これまで以上に険しい中国国境の峠に挑んだ。
いつ歩けなくなるか分からないという不安を抱えながら、なぜ歩き続けるのか……
そんな稲葉さんの歩みをたどるドキュメンタリーであったのだ。
(放送された「歩き続ける、その先に 稲葉香」の内容の一部をコチラからご覧になれます)
【稲葉香】 (いなば かおり)
1973年、大阪府東大阪市生まれ。(現在、千早赤阪村在住)。
美容師の傍ら、1997年から旅に出るライフスタイルを続ける。
東南アジア・インド・ネパール・チベット・アラスカを放浪し、
旅の延長で山と出会う。
18歳でリウマチが発病し、山に登るなど想像も出来なかったが、
ヒマラヤトレッキングにより自然治癒力に目覚め、山を登るまで復活した。
再発と復活の繰り返しの中、
同じ病気(リウマチ)を患っていた僧侶・探検家の河口慧海(1866~1945)の存在を知り、
彼のチベット足跡ルートに惚れ込み、
2007年、西北ネパール登山隊の故・大西保氏の遠征参加をきっかけに、
西ネパールに通いはじめる。
2007年、河口慧海師の足跡再調査・カンテガ未踏峰登頂。(西北ネパール登山隊・故・大西保隊長)
2009年、MuguからDolpo横断。(西北ネパール登山隊・故・大西保隊長)
2010年、Dolpo-hair prezents ヒマラヤトレッキングツアー企画を開始。(年に一度)
2012年、Dolpoの12年に一度の仏教の巡礼祭・Shey Festival参加、無名峰登頂・6042m.6025m.6089m。(Himalko keti登山隊)
2014年、河口慧海師の足跡を辿りUpper Mustangで河口慧海像と出会う。
2016年、河口慧海師の足跡を再確認 Upper Mustang & Upper Dolpo &Low Dolpo (Himalko keti登山隊)
4度目の横断に成功し、エメルンカン登頂(6028m)。
2018年、ネパール最西北Humla、無人地帯含む250kmを踏破する。Nalakankar.R(6039m)登頂。
2019年11月~2020年3月、Dolpo越冬122日間。
2020年、第25回植村直己冒険賞受賞。
2022年、ネパール極西Bajhang•Darchula 220km踏破。
現在、大阪唯一の村・千早赤阪村を拠点に、
都会と山生活とのバランスを保ちながらヒマラヤに通っている。
著書に『ドルポ 西ネパール 祈りの大地』(2024年、彩流社刊)等がある。
恥ずかしながら、
NHK Eテレ「こころの時代」の「歩き続ける、その先に 稲葉香」を観るまで、
稲葉香さんのことは知らなかった。
関節リウマチは、
自分自身の体に免疫反応が起こることにより、
関節の内面を覆っている滑膜かつまくに炎症が起こる自己免疫疾患で、
滑膜に炎症が起こると、
滑膜が増殖して周囲の軟骨や骨を溶かし、関節に長期間にわたって炎症が起こるため、
結果として関節が破壊され、関節の変形、脱臼、癒合など、
体の機能に障害が現れることがある。
日本では人口の0.5〜1%がかかる比較的頻度の高い全身性免疫疾患で、
男女比は1:3〜4で、女性の患者が多い病気とされている。
そんな重いリウマチを患いながら、
ヒマラヤの山々に登頂したり、
ヒマラヤ最奥の地「ドルポ」で越冬(122日間)をしたり、
ドルポよりさらに奥地にある中国国境の峠への540km(2ヶ月間)踏破に挑んだりと、
驚かされることの連続であった。
日本人女性初8000m峰全14座登頂を達成した渡邊直子さんは、
看護師として働きながら偉業を成し遂げていたが、
稲葉香さんもまた美容師として働きながらヒマラヤを歩き続けているのが凄い。
しかもリウマチというハンディキャップを背負ってのチャレンジなのだ。
リウマチが、実は原動力になっている。
普通の足だったら、これだけ歩けていないかもしれない。
逆に、リウマチのおかげで、面白人生になっているし、
いろんな所へ行けているんじゃないか……
そういう考えに至った稲葉香さんにも驚かされた。
自分の1歩は本当に小さい。
人の1歩が、自分の3歩くらい。(人の3倍足を動かさなければならない)
でも、どんな小さな歩みでも、最後には必ず到達する。
という稲葉香さんの言葉が印象に残る。
男性が総じて弱体化していく中、
渡邊直子さんや稲葉香さんのようなパワフルな女性が出現するのも、
世の(必然の)流れなのかもしれない。
男前女子が好きな私としては、嬉しい限りなのであるが……