一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『まく子』 ……なぞの転校生を演じた新音(にのん)の透明感あふれる美……

2019年04月04日 | 映画


春休み期間中ということもあり、
シネコンはお子様向けの映画ばかり。
なので、あまり見たい映画がなかったのだが、
しばらく映画鑑賞をせずにいたら、
なんと禁断症状らしきものが出たので、(笑)
仕方なく(コラコラ)映画館に向かったのだった。
選んだのは、
長編第1作『くじらのまち』が国内外で高く評価された鶴岡慧子監督の新作『まく子』。


直木賞作家・西加奈子の同名小説を映画化したもので、


小さな温泉街を舞台に、
転入してきた美少女の秘密を知ったことで成長していく少年の姿を描いたドラマだという。
主役の少年・サトシ役には『真夏の方程式』の山崎光、
物語のカギを握る謎の転入生・コズエ役には、モデルで女優の新音(にのん)、
慧の父・光一役には草彅剛、
母・明美役には須藤理彩がキャスティングされており、
お子様向け(なのかどうかは判らないが)の映画の中では、
唯一、見たいと思った作品であった。
で、チケットを買って入場すると、
意外な展開が待っていたのだった。



ひなびた温泉街の旅館の息子・サトシ(山崎光)は小学5年生。


自分の体の変化に悩み、
女好きで遊び人の父親・光一(草彅剛)ことを嫌っていた。


ある日、美しい少女・コズエ(新音)が転入してくる。


言動がどこか不思議なコズエに最初は困惑していたサトシだったが、
次第に彼女に惹かれていく。


そして、コズエは、サトシに、
「ある星から来たの」
と信じがたい秘密を打ち明けるのだった……




眉村卓の『なぞの転校生』を持ち出すまでもなく、
この手の物語はたくさんある。
映画を見る前、私は勝手に、
宮沢賢治の短編小説『風の又三郎』のような物語ではないかと思っていた。
ある日、不思議な転校生がやってきて、
地元の子供たちに“風の神の子”ではないかという疑念とともに受け入れられ、
さまざまな刺激的行動の末に去っていく……というような。
それは、あながち間違いではなかったし、
多くの共通点があった。
だが、大きく違っていた点が二つあった。
一つは、性の問題を扱っていること。
少年の夢精、少女の生理、大人の不倫など、
けっこう大胆な展開に驚かされた。
もう一つは、
子供だけでなく、大人をも巻き込んで物語が進行していくこと。
子供向けのファンタジーと思いきや、
大人までもがファンタジーの世界に巻き込まれてしまうのだ。


「お子様向けのファンタジー」だと勝手に思っていた私は、
この二点を確かめるべく、映画鑑賞後に原作を読んでみることにした。
原作の方も、そうなっているのかと……


読んでみて判ったのは、映画は極めて原作に忠実であったということ。
調べてみると、
2015年に『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞した西加奈子が、
『サラバ!』以前から書き温め、
2016年に発表した小説『まく子』は、
版元が児童向けの出版物を扱う福音館書店ということもあり、
最初は子供向けに「成長」や「死」について書こうとしていた作品だったらしい。
だが、『サラバ!』を書きあげた後に、
自分が疑問に思っていることを素直に書こうと考えを改め、
大人も含めた作品に仕上がったとのこと。


大人になりたくない子どもたちに、
そして、大人になりたくなかった
かつての子どもたちに読んでもらいたい、
そう思いながら書きました。



とは、原作者・西加奈子の言葉。
それで概ね納得することができた。
原作も映画も、大人もファンタジーの世界に巻き込むように最初から意図されていたのだ。
阪本順治監督作『団地』(2016年)
吉田大八監督作『美しい星』(2017年)
黒沢清監督作『散歩する侵略者』(2017年)
など、ここ数年、日常生活とSFが融合したような映画を多く見かけるようになったが、
本作『まく子』も、子供向けと思いきや、
むしろ大人向けのSFファンタジーであった。
どうりで映画を鑑賞したとき、観客は大人ばかりであった。

サトシを演じた山崎光。
2013年公開の映画『真夏の方程式』コチラを参照)から6年。






成長した姿を本作で見せてくれた。
どこにでもいそうな普通の少年という役柄にピッタリで、
ひなびた温泉画街という土地柄にも違和感なく溶け込んでおり、
主演の役目を立派に果たしていた。
2003年12月10日生まれの15歳(2019年4月現在)ということで、
小学5年生を演じるには年齢的に無理があるのだが、
映画で見る限りは小学生にしか見えず、
そういう意味でも感心させられたことであった。



コズエを演じた新音。


【新音】(にのん)
2004年12月10日生まれ。14歳。(2019年4月現在)
母親(日本人)は、女性ファッション誌「VERY」のトップモデル・クリスウェブ佳子。


父親はイギリス人。
幼少期より、雑誌やファッションショーなどのモデルとして活動し、
RADWIMPS「狭心症」のMV出演で注目を集める。
2018年、第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門にノミネートされた映画『Blue Wind Blows』(富名哲也監督)に出演し女優デビュー。



役柄というより、新音自身に、
ひなびた温泉街の住民とはあきらかに違う雰囲気があり、
その透明感のある美が、地上に舞い降りた天使のような不思議な魅力を醸し出していた。
宇宙というか、
どこか遠い所からやってきたということを、
見る者に、瞬時に解らせてしまう魔法を持っている気がした。
映画鑑賞後に原作を読んだのだが、
コズエは、新音をあて書きしたのではないか……と思うほどに、
新音は、原作のコズエそのものであった。


14歳にしては、しっかりした考えを持っており、
これからが本当に楽しみだ。


サトシの父親・光一を演じた草彅剛。


草彅剛主演のTVドラマや映画を多く見てきているので、
彼が良い俳優であることは理解していたが、
脇に回った場合に、どんな演技をするのか興味があった。
そして、本作を見て、
脇に回っても、素晴らし演技をするということが確かめられた。
主演のときは、ややオーバーアクションになることも度々あったが、
本作では抑えた演技で、女好きで遊び人の父親を巧く演じていた。



その他、
サトシの母・明美を演じた須藤理彩、


コズエのオカアサンを演じたつみきみほ、


キクエおばちゃんを演じた根岸季衣、


ドノを演じた村上純などが、
山崎光、新音ら、少年少女たちをしっかり支えていた。


子供向けというより、むしろ大人向けの映画『まく子』。
映画館で、ぜひぜひ。

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