一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

向井和美『読書会という幸福』 ……死ぬまでにもう一度読み返したい名作群……

2022年08月22日 | 読書・音楽・美術・その他芸術


“読書会”というものが静かなブームとなっているようだ。


いろんな場所で、いろんな分野の“読書会”が催されているようだし、
関連本も刊行されている。


映画でも、かつて、
『ジェイン・オースティンの読書会』(2008年日本公開)


というのがあったし、
ここ数年でも、“読書会”が重要なテーマになっている、
『ガーンジー島の読書会の秘密』(2019年日本公開)


『返校 言葉が消えた日』(2021年日本公開)
のような作品も公開されている。


本日採り上げた『読書会という幸福』は、
2022年6月17日に刊行された岩波新書の1冊で、
図書館の新着情報で知り、
タイトルに惹かれ、借りて読んだ。

著者は、向井和美。

【向井和美】(むかい かずみ)
翻訳家。東京都内の私立中高一貫校の図書館司書。
早稲田大学第一文学部卒業。
訳書に、
『プリズン・ブック・クラブ──コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』
『100の思考実験──あなたはどこまで考えられるか』
『アウシュヴィッツの歯科医』(以上、紀伊國屋書店)
『内向的な人こそ強い人』(新潮社)
『哲学の女王たち』(晶文社)など。


30年以上、
全員が同じ作品を読んできて語り合う“読書会”に、
途切れることなく参加し続けてきた著者が、
その「魂の交流の場」とも言うべき読書会への想いを綴ったエッセイで、
読書会での作法や、様々な読書会の形式を紹介し、
読書会への潜入ルポや、読書会記録なども掲載している。
本編の文章は、
岩波書店の雑誌「世界」に、
2020年1月号から2021年8月号まで連載した原稿に加筆したもので、


この本編だけでも十分に魅力的なのだが、
付録として、
『失われた時を求めて』の読書会報告の抜粋と、




35年間に読んできた本のリストが巻末に加えられていて、


この付録の部分が(私にとって)実に参考になる資料で、
この資料を常に身近に置いておきたくて、
本書を(自分専用にと)ネットで購入までした。(笑)


私は、
〈(なるべくなら)他人と深く関わらずに生きていたい……〉
という性分なので、(笑)
読書会そのものにはそれほど興味はないのだが、
毎月1冊、課題本を読了し、(ただ読むのではなく)深く考察する……
という形式には興味を持った。
著者が参加している読書会が凄いのは、
1987年から1990年にかけてはデュ・ガールの「チボー家の人々」を、
1996年から1998年にかけてはドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」などの諸作品を、
2003年から2005年にかけてはトルストイの「戦争と平和」などの諸作品を、
2008年から2011年にかけてはプルーストの「失われた時を求めて」を……
というように、読み終えるのが困難な長編小説を、数年の年月をかけて読み続け、
深く読み込み、自分たちの血肉にしていることだ。
その課題本リストを眺めるだけでもため息が出るほどで、(笑)
そこには、私がすでに読了している本もあったが、
同じくらい、読了が叶わなかった本もあった。

ひとりで本を読んでいると、途中でさまざまな感情が押し寄せてきたり、考えにふけってしまったりすることがよくある。読み終えても、その思いはまだ言葉になりっきていない。そんな、いわば半熟状態のまま、私は読書会に挑む。すると、読みながら考えていたことや、考えもしなったことが、ほかのメンバーの言葉を聞いているうちに次々と自分のなかから引きずりだされてくる。三十年近く読書会を経験していても、これはいまだに不思議なことだと思う。自分の思いに言葉が与えられ、形として放出できたときの爽快さはなにものにも代えがたい。そして、話し合いが終わるころには、作品を何倍にも味わえたことに気づくのだ。ときおり、本の内容から雑談へそれることがあっても、その雑談さえ、最後にはこれまで読んできた本のどれかに行き着く。それもそのはずだ。文学を語ることはわたしたち自身の人生を語ることなのだから。(199頁)

本書『読書会という幸福』を読んだことで、
私も、人生の白秋から玄冬へ移行する時期を迎え、
若き日に感動した本や、
読もうとしたが読み通せなかった本を、
今一度読んでみたいという欲求にかられている。
月に一度、「一人読書会」なるものを開き、
一冊の本について深く(ならないかもしれないが)考察する……
ということをやってみたいという気になった。
そこで、
思いつくままに、
「一人読書会」課題図書候補を書き出してみた。

【日本文学】
1.「こころ」「それから」夏目漱石
2.「雁」「青年」森鴎外
3.「伊豆の踊子」「山の音」川端康成
4.「細雪」谷崎潤一郎
5.「歯車」芥川龍之介
6.「蒲団」「田舎教師」田山花袋
7.「宮沢賢治詩集」
8.「中原中也詩集」
9.「野菊の墓」「隣の嫁」「春の潮」伊藤左千夫
10.「友情」「愛と死」武者小路実篤
11.「風立ちぬ・美しい村」堀辰雄
12.「斜陽」太宰治
13.「オリンポスの果実」田中英光
14.「黒谷村」「木々の精、谷の精」「堕落論」坂口安吾
15.「沈黙」遠藤周作
16.「人生論ノート」三木清
17.「黒い雨」井伏鱒二
18.「潮騒」「金閣寺」「春の雪」三島由紀夫
19.「武蔵野」国木田独歩
20.「たけくらべ」樋口一葉
21.「破戒」島崎藤村
22.「檸檬」梶井基次郎
23.「野火」大岡昇平
24.「楢山節考」深沢七郎
25.「土」長塚節
26.「城の崎にて」志賀直哉
27.「機械」横光利一
28.「李陵・山月記」中島敦
29.「砂の女」安部公房
30.「個人的な体験」「万延元年のフットボール」「M/Tと森のフシギの物語」大江健三郎
31.「いのちの初夜」北条民雄
32.「橋のない川」住井すゑ
33.「楡家の人びと」北杜夫
34.「邪宗門」高橋和巳
35.「さぶ」山本周五郎
36.「蝉しぐれ」藤沢周平
37.「錦繍」宮本輝
38.「草の花」「廃市」「海市」福永武彦
39.「太陽の季節」石原慎太郎
40.「氷点」三浦綾子
41.「夏の闇」「輝ける闇」開高健
42.「点と線」松本清張
43.「赤頭巾ちゃん気をつけて」庄司薫
44.「二十歳の原点」高野悦子
45.「ものぐさ精神分析」岸田秀
46.「あ・うん」向田邦子
47.「忍ぶ川」三浦哲郎
48.「夏の流れ」丸山健二
49.「コインロッカー・ベイビーズ」村上龍
50.「ダンス・ダンス・ダンス」村上春樹

【外国文学】
51.「失われた時を求めて」マルセル・プルースト
52.「チボー家の人々」デュ・ガール
53.「自省録」マルクス・アウレーリウス(神谷美恵子訳)
54.「魔の山」トーマス・マン
55.「赤と黒」「パルムの僧院」スタンダール
56.「罪と罰」「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」ドストエフスキー
57.「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」「復活」トルストイ
58.「武器よさらば」「老人と海」「移動祝祭日」ヘミングウェイ
59.「車輪の下」ヘッセ
60.「変身」「城」カフカ
61.「肉体の悪魔」「ドルジェル伯の舞踏会」ラディゲ
62.「桜の園/三人姉妹」チェーホフ
63.「百年の孤独」ガルシア=マルケス
64.「嵐が丘」エミリー・ブロンテ
65.「谷間のゆり」バルザック
66.「悪の華」ボードレール
67.「若きウェルテルの悩み」ゲーテ
68.「月と六ペンス」「人間の絆」モーム
69.「狭き門」「田園交響楽」アンドレ・ジッド
70.「マルテの手記」リルケ
71.「八月の光」ウィリアム・フォークナー
72.「ライ麦畑でつかまえて」「フラニーとズーイ」サリンジャー
73.「ルーマニア日記」カロッサ
74.「はつ恋」「猟人日記」ツルゲーネフ
75.「高慢と偏見」オースティン
76.「グレート・ギャツビー」フィッツジェラルド
77.「青い麦」「シュリ」コレット
78.「テレーズ・デスケルウ」モーリアック
79.「レ・ミゼラブル」ヴィクトル・ユゴー
80.「クレーヴの奥方」ラファイエット夫人
81.「風と共に去りぬ」マーガレット・ミッチェル
82.「ジャン・クリストフ」ロマン・ロラン
83.「郵便配達は二度ベルを鳴らす」ジェームス・M・ケイン
84.「北回帰線」ヘンリー・ミラー
85.「悲しみよ こんにちは」サガン
86.「路上」ジャック・ケルアック
87.「ロリータ」ナボコフ
88.「水いらず」「嘔吐」サルトル
89.「夜と霧」ヴィクトール・フランクル
90.「アメリカの悲劇」ドライサー
91.「裸者と死者」ノーマン・メイラー
92.「冷血」トルーマン・カポーティ
93.「赤毛のアン」モンゴメリ
94.「異邦人」「ペスト」カミュ
95.「蠅の王」ゴールディング
96.「異端の鳥」コジンスキー
97.「存在の耐えられない軽さ」ミラン・クンデラ
98.「悪童日記」アゴタ・クリストフ
99.「朗読者」シュリンク
100.「日の名残り」「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ


当ブログに「一人読書会」なるカテゴリーを追加し、
できれば月1回の割合で、
死ぬまでにもう一度読み返したい名作、
死ぬまでに読んでおきたい(これまで読了できなかった)名作の、
読後感想を書いてみたいと思っている。
乞うご期待……と言いたいところであるが、果たして……(笑)

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